紙の本
誰もが心に抱える修羅が浮き彫りに…
2002/06/30 08:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くろねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人の心って、恐ろしい修羅を抱えていたりするのですね。
それが、警察権力を持った人間だと、よけいに恐ろしい。
鷲尾のように、ある意味分かりやすい修羅を持った男より、
久我のように、一見まともに見えてという男の方が、
実は恐ろしい気がします。
彼は、公安警察の花形とも言うべき「桜」の訓練を受けます。
まっすぐで、自分の信じるところを疑わない久我。
正義感に燃える男。
けれども、その正義感が、自分の信じる正義しか見なくなる時、
それは、恐ろしい凶器<狂気>となってしまうのです。
同室の男へ向ける敵愾心。
久我の様に一途すぎる男は、<桜>には向いていないのです。
世の中に矛盾があることも、「正義」だけが全てでないことも
清濁併せ呑むことのできる度量、それが必要。
というか、それがないと、久我の様に、どんどん、どんどん、
壊れて行ってしまうのです。
彼は、<桜>になるには、一途で真面目すぎました。
職務であるスパイ確保が、それをさらに加速させてしまいます。
相手をモノとみなすことができなければ、
そんな職務を果たすなんて無理なのです。
だから、彼は、どんどん…
一方、もっとも分かりやすい形で警察官の暗部を
体現しているのが鷲尾という男。
自分が<黒>と信じた被疑者には、どんな卑劣な扱いをも辞さない。
それが、たとえ、女性であっても。
証拠や、証言よりも、自分の直感を恃むところの大きい男。
彼は、それが順調に働いている間は、さぞかし優秀な成績を
あげていたのでしょう。
でも、自らの判断に誤りがある可能性を考慮に入れない刑事なんて、
これほど恐ろしい存在もないと言えるのではないでしょうか。
やがて、それは、鷲尾自身をとんでもない場所に追い込んで…
そして、もう1人。
記憶を失った若い男。
自分が誰かも、なぜ、そうしているのかも分からない。
空白という闇を抱えてしまった青年。
自分が何者で、どこに行けばいいのかも分からないなんて、
どれほどあやうく頼りない気持ちがするのでしょう。
彼を救ってくれたのは、智恵子という若い女性。
彼女は、なぜか、どこか、<母>のイメージを持っています。
あるいは、<海>
穏やかに、静かに相手を受け止めるような。
だから、隣の部屋の留美子さんも、親しくしているのでしょう。
彼の<自分探し>。
少しずつ、見えて来る過去。
でも、なんてあやふやな…。
この3人の道が、どこで、どう交差してくるのか。
どんなふうに3つの道が収斂されてくるのか。
アクロバティックな、やられた!と呻くようなラストを
期待していたのですが、ある意味、終わりは平凡かも…
ただ、そこに至るまでの道が、空気の重たさが
圧倒的に心に残りました。
紙の本
さらりとよめてしまう。
2002/05/15 10:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すずき - この投稿者のレビュー一覧を見る
あらすじを読むと前世の恋人がでてきたり、正義一直線の公安刑事、レイプをくり返す警官が出てきたりと怪し気な内容だったうえに、800ページという長い小説なので手を出さずにいたのですが、読んでみるとあらよ、あらよと読めてしまいます。
最終的にはあそこあたりに落着きそうだな、と思いながら読み進めていましたが、判っていても面白く読めました。
あらすじのうさん臭さに負けずに、読んでよかったと思った作品です。
投稿元:
レビューを見る
よく行くバーから帰った翌日にこのご本が鞄に入ってたです。謎!
嫌いではないのです。こういうトリックは!
だがしかし、なんだか拝読していて肩こりしちゃったのねぇ。らららー♪
投稿元:
レビューを見る
主人公は3人。記憶喪失の少年、左翼を調査している公安刑事、やりたい放題の人でなし刑事。
色々と謎は残っているのですが、ほとんど解明されないまま終わってしまいました。
主人公達の立場の差や時代背景の描写などからある程度相関図や時系列を推測は出来るのですが・・いまいちしっくりこない・・。
どうにも煮え切らない作品でした。
投稿元:
レビューを見る
三人のストーリーからなる。それぞれ何か繋がりがあるような設定。それなりに面白いが全ての謎が解明されず、少し尻切れトンボぎみ。修羅の道は続く。
投稿元:
レビューを見る
記憶喪失青年、公安警察、悪徳警官3人のストーリーが、代わる代わる独立して流れていく。なんか、読み終わった後に解明されていない謎が残ってた感じ。ちょっと後味が悪い話しでした。(05年9月)
投稿元:
レビューを見る
警視庁公安の刑事・久我、西池袋署の刑事・鷲尾、そして記憶喪失の"僕"。
3人を主人公とした3つの物語。
3つの物語の関連及び"僕"の正体を推理する為のストーリー展開。
ラストの一行で明かされる"僕"の正体とは?
これも2003年10月頃に読んだ作品。
「後味の悪さ」では、『天使の屍』よりこちらが数段上。<登場人物がことごとく厭な奴ばっかり。
読後感の悪いものが2冊続いてしまったので、この後、貫井氏の作品を読んでいなかったり。
そして色々気になる点が。
鷲尾がクビになった本当の理由とか、白木の正体とか。
《豚》が何故、組織にとって脅威でなくなったのか、とか。
"僕"は《豚》より、直接的な原因を作った別の人間を恨んだ方がいいんじゃないか、とか。<象徴だからいいんですかね?
投稿元:
レビューを見る
既読の中にいれたけれど、どうにも読みきれなかった作品。
この作者とは合わないのかもしれない。私が警察の暗部だとかそういった内容の話があまり好きではないこともあるし、人物も提示される謎も魅力に欠ける。
投稿元:
レビューを見る
デビュー作の『慟哭』でも見られた叙述トリックを 50%増量したような感じか。3者の視点で物語が展開する。ハウダニットよりもフーダニットを重視してるのか、読者を読後にわざと冒頭に戻らせるというか
ループさせるのが好きなんだろうか。それなりに面白かったけど、長い。ここまで長くする必要があったのかってくらい長い。贅肉を削ぎ落として分量を減らせば良かったのに。明快さを求める人には不向き。
投稿元:
レビューを見る
【2005.03.22.Tue】
全790ページにわたる長編。著者の叙述トリックに引き込まれ、ページをめくる手が止められなかった。テロ組織「夜叉の爪」を追う公安刑事久我、池袋署に勤務する非道な刑事鷲尾、そして記憶を失い自分の名前さえ思い出せない青年。この3人の視点で3つの物語が同時進行してゆく。それらが最後にひとつにつながるのだろうと期待して読み進めてゆくのだが、一向に手がかりがつかめない。そして最後に久我と青年がつながる。それは意外なところであった。鷲尾が動いていた物語はそれから20年後のこととなる。そこに時を経て公安刑事についての疑惑が出てくるのだ。正直ラストはいまいちすっきりしないところがあった。全てがひとつにつながると期待しすぎたせいかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
「慟哭」と同じような手法によるサスペンス。叙述トリックがいまいち成功していない。パズルが完成した時、最後のピースがゆるゆるだったような、気持ち悪さがある。
投稿元:
レビューを見る
極左過激派グループを追う公安刑事。
被疑者をレイプする暴力的な刑事。
記憶喪失の青年。
3部構成でそれぞれ話が進み,錯綜する。
「慟哭」と同じく叙述トリック作品だが,同じく結末が物足りない。
ラストの驚きを演出するための無駄な挿話が多いように感じる。
計算してラストに関わる挿話を埋め込むためには,
それらの部分が大事なようにも感じるが,
最後に未解決な問題が残るのは何か釈然としない。
ただ,「プリズム」の構成からもわかるように,
作者は問題の解決に重点を置いていないようにも感じる。
そして,文章構成や表現は優れており,
本作はかなり長いにもかかわらず,読み進めてしまう。
投稿元:
レビューを見る
読むのに時間がかかったああー。
三つ話があって、二つはつながったけどあとひとつはよくわからなかった。そしてひどいシーンが多く読むのが大変だった。
記憶喪失の子の話は面白く読めた、つながる感じもいい。前世はいらない気がしたけど…。
08.05読了。
投稿元:
レビューを見る
公安警察の久我は、《夜叉の爪》という名のテロリストと日本青年同盟の繋がりを見つけ出すためにスパイを飼っていた。久我は新たな“タマ”を飼うため、斎藤という名の青年に接触を試みる。
警察官の鷲尾は新宿で最近新たに浮上した売春組織を洗い出すために、単独で調査に当たっていた。
歌舞伎町の裏通りで目覚めた僕は記憶喪失になっていた。手持ちも無く途方に暮れていた時、智恵子という名の女の子と知り合う。
久我は良心の呵責にとらわれつつ斎藤と徐々に交流を深めて行き、鷲尾は拘留した女性より強姦罪で告発され、記憶の戻らない僕は「あなたは前世で私の恋人だったの」いう小織という女性に出会う事となる。
「中途半端ぁぁぁっ!(涙)」というのが読了直後の感想でした。
でも、駄作という意味では無いので誤解なきように。
この小説は3つのストーリーを組み合わせた叙述ミステリーなんですね。
つまり、3つの話がいかにして絡まり、帰結するか。それを追うという感じのミステリーです。
読んでる最中は脳を、これでもかッという程フル回転してリンク部分を探し倒します。なので決して面白くないわけじゃない。重くて暗いのは認めるけど(笑)
が、これがなかなか糸口が見つからないんですね。いいかげんに手の内を明かしてよ。と何度も思うが、それでもなかなか明かしてはくれない。じらされ続けると、本来ならじびれを切らしてポイと捨てかけるのだが、この作者の巧みなところは、各々の話が少ない頁でどんどん入れ替わり、そしてテンポ良く話が進んで行くところ。これの所為で飽きる前に頁を繰らされる。次こそは糸口があるのでは、と思いますしね。旨く読み手の心理を突いてます。
主軸(と思ってる)の僕が記憶喪失というのがミソですね。これを置くことによって想像の幅が物凄く広がりますから。
ネタバレ↓
【この小説内の3つの話は1つに集約せず、2つの話がリンクし、1つの話は完全に独立した話となる。読み手はどうしても1本化を求めたような読み方をするので、リンクから外れた話の置き場に困る。又、そのために知り得たいと思う部分が全てシークレット状態。(あくまでも個人感)
故にこういう感想が出てくるんですね。
ただ、これは作者の叙述にまんまと嵌ったという感じもする。どうしても1本に帰結したいというミステリー好きの読み手意識を欺くために1つはダミーとして計算して置いたという事ですから。
私の場合は、全て1つに繋がるんだという思い込みで読んでいたので、どうしても中途半端感は拭えないが、そんな意識無く読めば、全てが繋がるのか、AとBが繋がるのか、AとCが繋がるのか、BとCが繋がるのか・・・と色んな方向性を想像できて読めるし、またそう促してる部分もあります。この幅の広さは秀作だと思わずにはおれないですね。
秀作だとは思うが、「これだけ読ませてこのオチか・・っ!」という感はある・・・長いよ。長すぎ。でもって最後の最後まで来ないとわからないしッ(文句たれ)】
ストーリー的には若干面白味に欠けるという感じはするが、構���の面白さはあります。
それぞれに嵌った修羅がどう終わりを告げるのかという点は全て綺麗に処理されているのでタイトル通りだなと、一応満足・・・というか納得(笑)
投稿元:
レビューを見る
かなりハードボイルドな叙述トリックでした。
「慟哭」と比べかなり筆に力を注いでいるのがよくわかります。
このくらい書き込みが多いと、登場人物がひとりでに動いている感じがして読んでいて快感です。
こうなれば作者の思うツボで、ぐいぐい引っ張られていくうちに頭がこんがらがってきて、最後の1行ですとんと落とされました。
「あ、そっち〜〜!」ってな感じです(笑)
1つのストーリーだけ年代を明かしているのがミソ。これでよけいにこんがらがってしまうのですね。
全部がわからなければそれなりに自分で推理できるものを、1つだけ年代がわかっているだけに
他のストーリーをどうつなげればよいのやら???とずーっと考えているうちにストーリーがどんどん進んでいくのです。
叙述トリックでは「慟哭」以上に秀逸ではないでしょうか。