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金曜日ラビは寝坊した

  • 出版社:早川書房
  • サイズ:16cm/289p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-15-071101-1

金曜日ラビは寝坊した (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハリイ・ケメルマン (著), 高橋 泰邦 (訳)

  • 全体の評価 41件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:63018pt
  • 発行年月:1976
  • 発送可能日:購入できません

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2002/05/08 18:29

40年前の、現代ミステリの典型

投稿者:キイスミアキ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 
 学者肌の若きラビ、デイヴィット・スモールは新しい任地での評判があまり芳しくなかった。自らの信念に基づく行動を選ぶ彼は、高齢の信者たちが求めるような、人の心をうかがってはその希望に合わせるといった性格の人間ではなく、さらには服装にも無頓着で明るく爽やかなスポーツマンでもなかったからだ。彼の去就を決定する会議では、一年目であるというのに来年度の契約は見送った方がいいとの意見が出る始末……。
 そんなある日、教会の庭から女性の死体が発見される。そして、彼女のバッグが駐車していたデイヴィッドの車から見つかったことから、ラビが容疑者として警察からマークされるという不名誉な状況に陥ってしまう。デイヴィッドは、彼一流の論理を駆使して、自らと地域を見舞った困難に立ち向かう。
 
 
 この物語の冒頭には、ラビ・シリーズの主人公であるデイヴィッド・スモールという人物の性格や能力を示す、短いが適切なエピソードが描かれている。ラビ・スモールの教会に通う3人の男たちは、そのうちの2人が仲違いをしてしまったことから、気まずい仲に。車を貸したところ不注意によってエンジンが壊されてしまった、という問題をラビ・スモールは、古いユダヤ教の原理を用いた論理的な話を聞かせることによって見事に解決してしまう。
 
 このエピソードからも明らかなように、現代社会に名探偵を登場させるための手立てとしてのラビが、この作品には欠かすこと出来ない存在となっている。つまり、ラビの社会的な役割と論理的な思考が、社会の問題を解決するという形で、謎解きの本格ミステリに上手く合っている。このシリーズには、論理を振りかざす名探偵という存在に、きちんとした必然性があるということが出来るのだ。
 
 もちろん、ラビ・スモールが解く謎は、小さな諍いだけではない。彼は事件に自らが巻き込まれるという形で、本格ミステリには付き物である殺人犯の犯人捜しに没頭することになる。この犯人捜しは、自分が重要な容疑者であると同時に、首か再雇用が決定される会議まであと一週間というタイムリミット付きの、とてもスリリングなもの。問題の解決に関して、ユダヤ人のコミュニティという社会的にも、探偵小説の最も重要な探偵役を務めるキャラクターとしても、同時に担っているという存在は、彼以前にはいなかったのではないだろうか。この点からもラビ・シリーズは、とても現代的で新しく興味深い。
 
 妻曰く「世の中が彼を変える前に、彼が世の中を変える」というデイヴィッド・スモールは、ユダヤ教の原理を優れた推理力の根底とする名探偵である。ユダヤ教には、立法の書であるモーゼの書があり、その解釈と注釈の集大成であるタルムードがあり、デイヴィッドはラビであると同時にタルムードの研究者でもある。彼は、律法を現代的な問題を解決するために用いる解釈の専門家で、定義、論理、反論といった論法に素晴らしく長けている。法律を道具として用いる司法の学徒たちとも似ているが、決定的に異なるのは、問題の解決に際して関係者たちの心情を重要視する点だろうか。これは、ラビ・スモールという探偵の魅力とも繋がっている。
 
 
 都筑道夫によるあとがきで《現代本格ミステリの典型》と評されている本作だが、今となっては既に40年近くも前の作品となっている。それでも、作家たちが未だに抱えている、現代を舞台とした本格ミステリを書くという困難さに対して、ラビが名探偵という解決法を呈示していることは、とても鮮やかで見事。ミステリ史上に残る、重要な作品である所以だ。
 

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