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紙の本
万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)
著者 大江 健三郎 (著)
【谷崎潤一郎賞(第3回)】【「TRC MARC」の商品解説】友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に...
万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)
万延元年のフットボール
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商品説明
【谷崎潤一郎賞(第3回)】【「TRC MARC」の商品解説】
友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満ちた登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長篇。谷崎賞受賞。【商品解説】
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書店員レビュー
真っ赤な血の色
ジュンク堂書店三宮店さん
まず、出だしの文章が鮮やかだ。重く、沈んだ心の有り様を、それが現実の風景であるかのように精密に、落ち着いた筆致で描き出す。濃い灰色の背景の上に印象的な色彩が刻まれ、繊細であると同時に、黒くうねる波が嵐の到来を告げるように、何かが底の方でうごめいている、そんな感じだ。
東京で専門書の翻訳で生計を立てている「僕」こと根所蜜三郎は、共訳者でもある友人のスキャンダラスな自殺に遭遇し、家庭では子供の精神障害に悩み、妻はストレスからアルコールに溺れる。そこにアメリカから放浪の末帰ってきた弟鷹四が、故郷四国の谷間の村で「新しい生活」を始めようと誘う。「僕」は何かきっかけが見つかればと応じる。
東京から四国の山奥へ。都会的日常から神話的な寓話の世界へ。万延元年、西暦一八六〇年に起こった百姓一揆を指導したとされる、彼らの曾祖父の弟の生涯に憧れ、鷹四は地元の村でフットボールチームを作り、リーダー的存在となる。荒廃した村で唯一繁栄しているスーパーマーケットを襲撃し、百年前の一揆の精神を体現するのだ。
戦後強制移住させられた朝鮮人グループとの確執から死亡した、次兄「S兄さん」の亡霊。自殺した妹との隠された秘密。死者たちと生き残った者との間に横たわる時空が歪められ、鷹四は彼らの霊媒となってその精神と一体化する・・・・・・
神話的な人物には事欠かない。抑制できない空腹感から「日本一の大女」となったジン、戦時中森の中に引きこもりそのまま定住してしまった隠遁者ギー、森林伐採者から身を興して地元一帯を支配する「スーパーマーケットの天皇」ペク・スンギ。折から降りはじめた大雪に閉ざされ、孤立した村で残酷な悲劇はフィナーレをむかえる。
事件後「スーパーマーケットの天皇」との会見を経て、曾祖父の弟をめぐる謎は解明され、新たな仕事の足がかりも得られる。一時の小康を得たのち、「僕」自身もまた「精神的自殺」を経験する。生き残った者としての修羅を生きはじめる。
最後の部分でまた、鮮やかな色彩がやってきた。今度のはイメージでなく、真っ赤な「血」の色だ。一族全体を貫く、「血」の色。「僕」が最初から求めていた、<熱い「期待」の感覚>の色だ。
紙の本
合う、合わないはやっぱりある。「それでも読んで欲しい」というのは、私のわがままである。
2003/11/20 00:15
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中堅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「朱色の塗料で頭と顔を塗りつぶし、素裸で肛門に胡瓜をさしこみ」首を括って死んだ、ただひとりの友人や、「茶色の眼で穏やかに見かえすほかにいかなる人間的反応も示さない」赤ん坊、そして、障害児の出産によってアルコールから離れられなくなり、心の闇に怯える妻・菜採子。
主人公・蜜三郎もまた、死んだ友人を想い、夜明けの暗い穴ぼこに無気力にうずくまっていた。そんな時、アメリカから帰ってきた弟・鷹四に誘われて、蜜三郎は妻と共に希望の草の家を探しに故郷である四国の谷間の村へ出発する。
谷間の村で鷹四は、村の青年たちを集めフットボール・チームを結成し、万延元年に谷間の村で起こった一揆に重ね合わせて、100年後の今、スーパー・マーケットの天皇に対して一揆を起こそうとする……。
この小説の魅力は「持続する緊張感」であると思う。主要な登場人物は全員が精神の危機に瀕しており、万延元年の一揆や、戦争直後におけるS兄さんの死についての蜜三郎と鷹四の論争は、まさにそれぞれの「identity」をかけた切迫したものとなっている。また他にも、鷹四の「本当のこと」に関する謎や、蜜三郎の菜採子との確執、谷間の民衆の狡猾さなど、緊張の糸が切れることがない。そのエネルギーは、最後の蜜三郎と鷹四の会話に向かって収束していくのである。
さらに、小説世界の構造についていえば、蜜三郎を中心とした、「危機からの回復」というような、個人の物語の背景に、「六十年安保闘争」という大衆の寓話が織り込まれているために、読み直すことによって新しい意味を発見することもできるだろう。
著者も認めるように、「他者を拒む」表現が冒頭に出てくるために、さらに、そもそもの著者の文体自身が硬いために、また「根所蜜三郎」や、「鷹四」などの登場人物の奇妙な名前によって、読むのを途中でやめてしまう人がいるかもしれない。しかし、純文学の旗手として前線で戦い続ける大江健三郎の臨界点といわれるこの小説をそれだけの理由で放り出すのはもったいない。
私が今回読み直してみて感じることは、「この小説には感傷がない」ということである。それは、登場人物が人間らしくないということではなくて、主に蜜三郎に放たれる強烈な批判や、緊張関係の中に、感傷よりも「生きることへの意思」また、言い換えれば、「くそまじめに生きる意志」が強く含まれているということだ。逆にそれだけに、この物語がこれほど緊張感を保てているとも言える。冒頭の蜜三郎も無気力感の中にいながら「期待」の感覚を探すことから始まるし、友人の死もまた、心の暗闇と最後まで戦った結果である。
私は、この小説には読者の中にある甘えを削りとってくれる効果があるのではないかと思っている。
辛い読書体験の先に、「期待」の感覚が待っている。多くの人に挑戦してもらいたい小説である。
紙の本
大江といえばやはりこれ
2021/12/28 14:54
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰もが認める大江健三郎の代表作であり、多くの人が大江の最高傑作と考えるであろう作品だ。現在読んでも日本社会を照らすその幻視性は新鮮であり、今なおというより、さらにその魅力が増しているかもしれない。
紙の本
百年間を描く
2001/03/03 21:28
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:7777777 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『万延元年のフットボール』は「僕」の友人が朱色の塗料で顔をぬりつぶし、素裸で肛門に胡瓜をさしこみ、縊死したことからはじまる。この異様な死からはじまる作品は村を起点にして進んでゆく。
なぜ弟の鷹四は自殺しなければならなかったのか?
100年前と現在が交錯しながらマジックリアリズムで見事に描かれた傑作。
同じ時期に書かれたガルシア・マルケスの『百年の孤独』も視野にいれておくといいと思います。
紙の本
万延元年のフットボール
2019/11/04 23:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
頭が悪いので一読しただけではわからない部分も多かった。今度は当時の世相や社会状況なども勉強してから読もうと思った。ただ、それでも魅力的な物語だと感じた。
電子書籍
やっぱりこの作家の作品はいい
2019/01/28 15:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
施設に預けていた障害児の我が子を引き取り、弟と妻との子供と一緒に育てるというこの結末は、大江氏の他の作品、例えば「飼育」や「他人の足」のような狭い世界での人間の醜さを描き出した初期作品に比べると確かに救われる部分はあるのかな、ハッピーエンドには違いがないのかなとも思ってしまうが、ストーリーに登場する村落の陰湿さ、部外者(「飼育」の場合は黒人兵だったが、今回は事業に成功した朝鮮人)に対しての卑屈な態度により強い印象を受けた。この内にこもっている鬱屈は、やはり大江氏でないと描くことができない世界なのかもしれない
紙の本
登場人物
2023/05/29 00:30
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
登場人物が、みんな、心身を病んでいる人ばかり。かなり、前に読んだときも、そうでしたが、なんだか暗いし、先きの希望のない展開だなぁ、と思いながら読み勧めていきました。しかし、ネタバレは書けませんけど、まぁ良かったです
紙の本
密度の濃い時間を
2001/02/22 23:53
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:桐矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
エンターティメント系の作品を読み慣れていると、やはりこういうのは初めとっつきにくい。文章の間の密度の桁が違うのだ。
それでも、途中からは一気に読めてしまった。翻訳家である「僕」と弟の「鷹」が、故郷である四国の村に帰る。近代的なスーパーマーケットの天皇に卑屈に接しながら、人種的な優越感を隠そうとしない村人達。閉鎖的な空間は、地続きで万延元年の百姓一揆の時代に繋がっている。
話をひっぱるすじは、その百姓一揆の首謀者であった、曾祖父の弟の真実。彼は、卑怯者だったのか。それとも、鷹が切望する通り本当の英雄であったのか。
幼児のように、内側に丸くこもってあくまで傍観者であろうとする僕にくらべて、鷹のキャラクターが魅力的だ。暴力的な自分を極限まで演出することで自らの中にある地獄の縁を乗り越えようと模索する。そのぎりぎりの危うさに結末まで読者は目が離せない。
それにしても、大江健三郎の作品に繰り返し、同じような登場人物が出てくるのはなぜだろう?
「頭を赤く塗って肛門にキューリを差し込んで縊死した」友人。こんなにインパクトのある人物を違う作品にも登場させている。その他にも、S兄さんや、ギー、少しずつキャラクターは違うが、やはり、他の作品に登場している。それから、大江健三郎の作品にいつも出てくる祖母。(今回は大した出番は無かった)「……ですが!」という方言がなんとも言えず、わたしは好きだ。
紙の本
さまよえるイメージ
2001/05/23 03:03
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:楠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノーベル賞受賞作家である大江健三郎のイメージを繰り返し喚起してやまないのは、故郷である四国の森である。この神話の森に、万延元年の村の一揆をなぞるかのように、突如として暴動が起きる。安保闘争の挫折、障害児の出産など、それぞれに苦しみを抱えた登場人物は、大江作品ではおなじみである。谷崎潤一郎賞受賞作。