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こころ 改版 (岩波文庫)
こころ
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目次
- 上 先 生 と 私
- 中 両 親 と 私
- 下 先生と遺書
- 解 説(古 井 由 吉)
- 注 (大 野 淳 一)
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紙の本
打ち込まれる楔
2004/02/01 10:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:北祭 - この投稿者のレビュー一覧を見る
親友の死というものは、如何なる状況であれ、こころに深い楔を打つ。普段は忘れていても、なにげなく夜中に目が覚めたとき、あるいは漠然と物思いにふけるとき、唐突にその楔が疼き出し、一瞬息が詰まるときがある。そんな楔のあることは、けっして他人に明かせない。
小説『こころ』の「先生」には他人にはいえぬ秘密があった。主人公の「私」は、その若さに任せて熱い師弟関係を欲するが、「先生」にはそれを受け止めることができない。なぜなら、「先生」も一人の人間として如何に生きるべきかを問い続け、他人にはいえぬ苦しみにあえいでいたからである。ここに人間関係における微妙な現実が見える。「私」が「先生」を敬愛し、何かを欲することで、なにほどか責任を負わせようとすればするほど「先生」にはそれが堪えられない。荷が重過ぎるのだ…そして「先生」は最後にぬいてはならない<楔>をぬく。
小説はある意味真っ赤な嘘である。しかし真っ赤な嘘であればこそ、普段は隠されている人の世の真実が裸の形で目の前にぼろりと出でるときがある。『こころ』にはそれがある。このことが『こころ』を名作たらしめる所以である。
しかし、ここで一歩踏みとどまりたい。『こころ』で明かされた真実は、楔を片面でしか捉えていないのではなかろうか。
夏目漱石の墓は、『こころ』の舞台となった雑司ヶ谷墓地にあるという。このことは、楔には別の種類があるのだと語っているかのようである。漱石は生涯病苦に堪え偲び、生きるために書き、書くために生き続けた人である。死んで尚、その大きな墓石の前に立つものに、生きぬく勇気という名の楔を打ち込む人である。それもまた真実である。
紙の本
小説『こころ』の中で強い印象を残してくれた文章を書き出します。
2001/06/11 14:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
圧倒されるような読後感の残る名作だが、まずは、印象深い文章を抜き書きしてみることにする。
<…悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです、少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断が出来ないんです>
<私は冷かな頭で新しい事を口にするよりも、熱した舌で平凡な説を述べる方が生きていると信じています。血の力で体が動くからです。言葉が空気に波動を伝えるばかりでなく、もっと強い物にもっと強く働き掛ける事が出来るからです>
<つまり私は極めて高尚な愛の理論家だったのです。同時に尤も迂遠な愛の実際家だったのです>
<女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われますから>
<私の胸にはその時分から時々恐ろしい影が閃きました。初めはそれが偶然外から襲って来るのです。私は驚きました。私はぞっとしました。しかししばらくしている中に、私の心がその物凄い閃きに応ずるようになりました。しまいには外から来ないでも、自分の胸の底に生まれた時から潜んでいるものの如くに思われ出して来たのです>
時代が経たことによる若干のズレはあるかもしれない。しかし、こんなにも平易な言葉で、人の心の不思議をこんなにも見事に言い表してしまうなんて!
物語のあらすじは以下の通り。
血のつながった人の裏切りに遭って厭世的になってしまった男性が、愛する女性を手に入れたいがために、自分に全幅の信用を置いている友人を裏切る。
愛する女性は間借りしている下宿のお嬢さん。友人は、養家に勘当されて困っているところを、自分の間借りした部屋の続き部屋に来ればいいと世話をしてやった経緯がある人物。大学の同級生である。
一つ屋根の下という小さな空間の中での三角関係、裏切り。
主人公は女性を妻として迎えることに成功するが、友人は凄惨な自死を選ぶ。妻と向き合うたびに、男は死んだ男に対して犯した罪を思い起こす。そして…。
上に挙げた抜き書きは、大きな文脈の流れの中に出てくるからこそ強い印象をもたらす。独立させてたところで唐突な感じが否めないけれど、ぬえのように得体の知れない心というものの働きの様々な側面が「そうそう」と深く納得できるように書き表されている気がした。
生のあり方、そして死のあり方、愛のあり方−−漱石の小説の思念は、いつの日も人間の原型を揺さぶってやまない。
紙の本
先生と書生は同一人物か
2020/10/17 21:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:伊達直人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
海岸で 先生と知り合い 先生の 家に
行くようになった 書生 だが 父の病状の悪化により
帰郷 しかし 父危篤の 時に
急に 電車に飛び乗り 東京へ
そこから 先生の 知られざる 過去
結婚するまで の 話が
すすむ はたして 書生の 過去か未来を
書いているのか 一回だけ読んだだけだと
わからない・・・
紙の本
ひたひたと迫る孤独
2002/10/14 20:49
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さらさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
Kが死んだのは自分と同じように、淋しくって仕方なくなったからではないか、という先生の独白に、実感と重みを感じました。
「私はただ苦笑していました。しかし腹の底では、世の中で最も信愛しているたった一人の人間ですら、自分を理解していないのかと思うと、悲しかったのです。理解させる手段があるのに、理解させる勇気がないのだと思うとますます悲しかったのです。私は寂寞でした。どこからも切り離されて世の中にたった一人住んでいるような気のしたこともよくありました」。
「私はしまいにKが私のようにたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に所決したのではないかと疑い出しました。そうしてまた慄としたのです。私もKの歩いた路を、Kと同じように辿っているのだという予覚が、折々風のように私の胸を横過り始めたからです」。
人を深く愛して、その愛した相手に理解されないこと、または裏切られること。
これほどひたひたと孤独を感じることもないだろうと思う。
家族も親族も他の友人もなかったKは、たった一人の友として先生を信頼していたと思う。女を愛するのとは別の次元で。裏切られた悔しさや失恋のつらさよりも何よりも、手痛く、悲しく、寂寞としただろう。自分を大切にしてくれ、支えてくれ、たった一人信頼していた相手が自分から心を離した。そうして唯一信じていたはずの自分にももう誇りが持てない。もう何もないと思ったのかもしれない。
残された人間にとって、その裏切りの罰としては、死は重すぎる。のだけれど、Kはそうするより他に仕様がなかったのかもしれない。
自殺を肯定するわけではないが、先生も、同じように、そうするより他にどうしようもなかったのかもしれない。
自分はKと同じ道を辿っているのかもしれない、という先生の独白には、何か運命の響きといったようなものが感じ取れます。
紙の本
『こころ』というタイトルのもと、漱石はいかなる種類の「実験」を試みたのか
2001/02/25 01:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
高校の時以来、数十年ぶりに再読した。こうした再読の楽しみのためこそ、若いうちにたくさんの本を読んで感動を蓄えておくべきだった。ずいぶんと月並みだけれど、ほんとうにそう思った。
それにしても、この作品の構成はかなりいびつだ。こんな初歩的な問題はその筋の人々の手でもって論じつくされているに違いないと思うが、「上 先生と私」「中 両親と私」「下 先生と遺書」の三部構成はどう考えてみても一つにはまとまらない。もともと漱石は『心』という総題のもと短編をいくつか書くつもりだったらしくて、確かに「上」「中」「下」はそれぞれ独立の作品として読んだ方がむしろ味わいがある。
しかし、ここで考えてみたいのは、それらがまとまって一つの作品世界をかたちづくっているとした場合に見えてくるもののことだ。その際、注目すべきは、一つは手紙=遺書というフィクショナルなものとリアルなものを架橋する文学的装置の機能だと思うし、いま一つは『こころ』全篇に出てくる複数の死──Kと先生の自殺や「私」の父の死、明治天皇の死(「明治の精神」の死)や乃木大将の殉死、等々(あるいは身体の死と精神の死?)──がもつ機能である。これらの装置や道具建てを使って、そして『こころ』というタイトルのもと、漱石はいかなる種類の「実験」を試みたのか。
この「問題」はまた数十年後(?)の再々読のときの宿題にしておこう。
紙の本
こころ再び
2015/06/05 16:55
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶーにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学生の頃、授業で一部を学びましたが1冊通して読みたくなり購入しました。授業ではクライマックスの一部分だけを取り上げていましたが、改めて読むとこういうお話だったのかとすっきりしました。先生と私の周りの状況もわかりおもしろかった。文体も読みやすく言葉使いもなつかしい感じがしてよかった。