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方舟さくら丸

  • 出版社:新潮社
  • サイズ:16cm/379p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-10-112122-2

方舟さくら丸 (新潮文庫)

安部 公房 (著)

  • 全体の評価 44件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:62017pt
  • 発行年月:1990.10
  • 発送可能日:7~21日

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ユーザーレビュー- 「方舟さくら丸」

全体の評価
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評価内訳 全て(4件)
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2002/07/16 15:24

いまはもういない安部公房

投稿者:りさこ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

安部公房が亡くなってもう何年たつだろう。名前だけしか知らない作家の一人だった。「文学」という感じの難解さを抱えた人物のように思っていた。
死んでしまえばもう二度と新しいお話は生まれてこない。となると、いつ読んでもいいのだが、ふと思い立って読んでみた。

これはある四人の男女の物語。読み始めてみると全然難解ではなかった。どちらかというと冒険物語だった。文章の表現のあちこちに安部公房という作家の才能が数多くちりばめられていて、さすがという感動を覚えた。
単なる冒険物語に終わっていない、それでいて難解すぎない。私は安部公房への認識を改めた。ほかの物語にもぜひ挑戦したい。

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2001/11/29 21:59

現代の方舟は何から逃れどこに行くのか

投稿者:たむ (男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 現代の方舟。世界は滅びてなどいないのに、サクラや女は滅びたつもりになって、昆虫屋やほうき隊は滅びたと信じて、バーチャルな終末と新国家の生活を始めようとする。モグラは自分の中の偽善に気づいてしまった。サクラはサクラ、嘘をつくのが商売だ。ほうき隊は偽善というより確信犯的に悪意あるわがままを善意と称している。まっとうとは結局、誰かにとってまっとうであるというのに過ぎない。誰にとってもまっとうであるなどありえないし、誰にとってもまっとうでないなどありえない。その点現実の国家は中途半端なのだ。完璧でないことを以って完璧であると称す。100%全員が満足できないのなら、100%全員が不満足であるべきだ、と。そんな世界はそりゃ透明だろう。でもモグラは、バーチャルな嘘を最後まで信じられなかったんだな。だから透明な現実の世界に戻ってきてしまった。

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2001/10/08 01:05

方舟さくら丸

投稿者:あんぱん(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

地下の核シェルターで繰り広げられる人間劇。しかし、読んでみればいつもの安部公房の作品と何ら変わっていない。核兵器に閉じ込められた人間に変わった登場人物。あえていうのなら、核シェルターがなんの役割も果たさずに作品が終ったところに寓話的な意味があるのか? 

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3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008/07/05 13:26

生き延びるためには不要な想像力

投稿者:SlowBird(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

人が生きていくには、明日の朝も変わらず日が昇り、また一日が続くことが約束されているのが前提だった。人生とは繰り返される日々に同義であり、世界の無限がそこにあるから、自分自身の有限を認めることができた。それがある時、世界には宗教における黙示録のような、核による破滅の可能性が現実となって立ち現れた。20世紀人の精神は、それまでの人類とはまったく絶縁したものになった。
その絶望を表す言葉というのもまた、人類は持ち得ていない。ただ幾つかの物語と、核シェルターという強固な物体の質感だけが、破壊の生々しさを伝えてくれる。刻まれるのは未来の断絶の区切り線よりも、失われるべき日々の記録であることが相応しいだろう。この主人公は、その日々を生き延びるための方舟の建設と、乗船する仲間を選ぶことで、新しい世界への恭順と、残される人類に対する裏切りの物語を紡ぐ。モグラとも豚とも呼ばれる男にとっては、社会への復讐の物語になるはずだったのだが、現実は間違いなく彼の思いの速度を追い越し、彼に永遠の道化として喜劇を演じることしか許さない。対決の機会すらも与えられなかった彼には、敗北さえ手にできない。打ち捨てられた地底の炭坑跡の彼方に、裏切りの印とともにするすると消えていってしまう。
方舟が彼を裏切ったのだとすれば、勝利を、裏切りの甘い汁を吸えたのは誰だったろうか。方舟乗っ取った狡猾な人々にとっては、日常の延長にある以上の恩寵を受け取る感性は無い。方舟が漕ぎ出すこの「核の時代」は、所詮は勝者のいない、荒涼の世界であるのか。
核の時代に、さらにテロリズム、環境破壊と、多層の絶望が折り重なっているのが現代だ。核というものが何か突然変異のように現れた災厄ではなく、人類が必然に生み出す恐怖の尖兵に過ぎなかったことを、この物語全編を覆う不安は予言していたかもしれない。物語の前にも後にも、先の見えない無為の日々を送り続ける主人公、それに方舟の建設、争奪に関わるのは、テキ屋の男女、老人の奉仕隊、不良少年グループなど、こうした人々だけが破滅の足音を感じ取って追いつめられていくことも、また時代を象徴しているだろう。大量の死を巡る小さな争いが、誰にも知られぬ地の底で密かに進行していることも。

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