海と毒薬 (講談社文庫)
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- 税込価格:400円(11pt)
- 発行年月:1989
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ユーザーレビュー- 「海と毒薬」
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2004/11/30 05:51
「可能性」
投稿者:すなねずみ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
何人かの人物のそれぞれの「生」がひとつの「事件」に向けて収束していくさまを、複数の視点からの回想を交えながら描く。映画「羅生門」のように。
『深い河』では五人の登場人物がガンジス河へやってくるに至る事情が、すべて三人称で語られる。(「一章 磯部の場合」「三章 美津子の場合」「四章 沼田の場合」「五章 木口の場合」「十章 大津の場合」)
『海と毒薬』では「第二章 裁かれる人々」として看護婦・上田、医学生・戸田、医学生・勝呂(すぐろ)の三人が米軍捕虜の生体解剖という事件へと転がり落ちてゆくまでの経緯が、上田、戸田については一人称で、勝呂については三人称で語られている。
看護婦・上田には遠藤周作の母のイメージが、そして医学生・戸田には太宰治(『人間失格』)や三島由紀夫(『仮面の告白』)のイメージが、つまりは、おそらく日本人にとっての『罪と罰』を描き出そうとした人々の系譜に連なる作家・遠藤周作自身のイメージが色濃く投影されている。
>(戸田)
ベルリン映画祭で銀熊賞(1987)を獲得した映画『海と毒薬』の監督・熊井啓は、生体解剖に参加することに同意しながらも結局はその場でだらしなく崩折れて遠巻きに見ているだけであった勝呂に、この作品の登場人物のなかで唯一「希望」あるいは「救い」につながりうる、ささやかな可能性を見出している。
この勝呂という登場人物は、のちに『沈黙』のキチジロー、『死海のほとり』のコバルスキ、そして最終的には『深い河』の大津へと結晶してゆく、遠藤周作にとっての「イエス」像の原型である。
>(『深い河』)
遠藤周作はさまざまな場所で、「イエス伝を書くこと」が自らの文学的使命のようなものだと語っている。そしてその「イエス」像は、『死海のほとり』と『イエスの生涯』やその続編『キリストの誕生』のような作品を通して、「同伴者イエス」という言葉に結実した。
医学生・勝呂にとって、それは自分がはじめて担当した患者(「おばはん」)の生と死を通して、心に刻み付けられたものであったのかもしれない。しかしそれでもなお、あるいはそうであればこそ、彼は生体解剖に参加したのである。
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人間の弱さ、汚らしさを凝視したとき、極限の疲れのなかで、たしかに何かが見えてくるのだと思う。それを「神」とか「キリスト」とか名付けるのは嘘くさいし、「愛」だとか「真実」だとか呼ぶことにも抵抗があるけれど、そんな嘘くささや抵抗を感じることを誤魔化して腐らせてしまわないために何かをすることが、つまりは生きることなのではないか。そんなことを考えた。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2005/12/15 19:38
人の心理と罪悪感を問う
投稿者:未来自由(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争末期の九州大学医学部であった米軍捕虜生体解剖事件を題材にしたフィクション。ショッキングな生体解剖事件を追求するのではなく、そこに至る人間の心理を描き、人の罪悪感を問うた作品といえる。
「本当にみんなが死んでいく世の中だった。病院で息を引きとらぬ者は、夜ごとの空襲で死んでいく」。そんな時代の中で医者の患者に対する感覚も荒廃していく。
医学部内での勢力争いに勝つため、医療ミスの隠蔽などが平気で行われる。病院で死ななくても、空襲で死ぬ可能性だってある、そんな意識が患者を「生かす」ための医療への使命感さえ失わされる。
生体解剖に加担した医者や、研究生、看護婦の、それに加担するまでの生活環境や意志形成過程を丹念に描いている。その中心が罪の意識をもたない人間がどのようにつくられたのか、罪の意識をもった者がどのような未来をもったのか、そうした心理面に焦点があてられる。
罪の意識が薄れていったのは、戦時中だったからか、もともと罪悪感の稀薄だった者だったから生体解剖に加担したのか。著者はその問いを発しながら、明確な回答を出してはいない。著者の問いは、その後の著作活動に引き継がれる。
それにしても、ショッキングな事件である。「実験の目的はおもに人間は血液をどれだけ失えば死ぬか、血液の代わりに塩水をどれほど注入することができるか、肺を切りとって人間は何時間生きるか、ということだった」という。
731部隊による生体実験など、戦時中に行った残虐な行為はいったいどれくらいあるのだろうか。それに加担した人たちは何を考えたのだろうか。戦争そのものを考えるときに、切り離して考えてはならない問いだろう。
他人の生と死にたいする意識が薄れたとき、不幸が繰り返される。相互が大切にされる世の中にならなければ、こうした不幸が繰り返されるのではなかろうか。そんなことをあらためて考えた。
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2002/03/19 21:29
海と毒薬
投稿者:ポンタ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
白人兵の捕虜を解剖する手術に立ち会った助手の物語。だが、彼は倫理観にかられて、悶々とした日々を送っている。遠藤周作さんの宗教的なキリストがよくあらわれた作品。







