紙の本
日本の政策にその意見は生かされてはいないようであるが、予想の当たる中東専門家による定評ある解説書
2004/08/20 19:36
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投稿者:ほいほい0080 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2003年のイラク戦争前には、何人もの(自称)専門家が登場し、状況の予測を行った。岡崎久彦、田久保忠衞、志方俊之、佐々淳行、江畑謙介、森本敏、古森義久…といった有象無象の中東問題の素人の予測が外れるのは仕方が無い。しかし、イラク戦争に肯定的だった気鋭の若手池内 恵氏や慎重派ではあったが、カナン・マキヤみたいなお調子者に引っかかってしまった酒井啓子氏らの中東専門家も、米国がこんなに準備不足だったとは思わなかったという、素人からは、もっとしっかりしてくれよと言いたくなるような「言い訳」を語っている。結局、最も正確にイラク戦争後のイラクの混乱(2004年8月の時点)を予測していたのが、泥沼化を予測した本書の著者・高橋和夫放送大学助教授であった。
自然科学や工学では「モデル」を「ある対象の動作や動作の結果を計算するためのエッセンス」といった意味で使う。自然科学や工学では数式で書かれることが多いが、自然言語で書かれることもある。そして、予測能力によってモデルは評価される。未来予測は非常に困難であり、最高のモデルの予測も全く信頼できないことも多いが、予測が外れるモデルよりは、当たるモデルの信頼性が高いのが普通である。
高橋氏の解説の特徴として「分かりやすさ」がある。その「分かりやすさ」は、複雑な事情の単純化によるのだが、中東問題の半可通には必ずしも評判は良くはない。しかし、いたずらに多数の複雑な要素を考慮したモデルの予測能力が低いことは、科学技術の応用の現場では広く認識されている。さらに、複雑なモデルを用いるには、情報収集等に大きな時間がかかることが多く、急変する現実について行けないという弱点がある。高橋氏の提供してくれるモデルは、現実を予測するのに単純過ぎず、複雑過ぎずで、有用であるように思われる。
そしてもう一点、高橋氏の得意技に、世間に広まっている言説が「神話」に過ぎないことを、「王様は裸だ!」的に、明らかにする論説がある。中東問題では、良く考えるとトンデモな言説が、主流メディアや著名な外交評論誌などで、大真面目に論じられることが多い。1991年の湾岸戦争の前には、イスラエルは、米国にとって、中東におけるソ連の影響力に対抗するための戦略的資産(Strategic Asset)であるという、イスラエル・ロビーの広めた「神話」を真に受けて、したり顔で語る中東/軍事専門家がいた。しかし、大衆の間に反イスラエル感情が蔓延している中東では、イスラエルに軍事支援を求めるような政権は、正当性を失い、存続できない。だからこそ、当時のブッシュ大統領(現ブッシュ大統領の父親)は、湾岸戦争当時、イスラエルにイラク攻撃を許さなかった。米国がイスラエルにつぎ込んだお金は、親米国家の保護に全く役に立たない無駄金だった。「イスラエル=戦略的資産」説のトンデモさを明らかにしたのが本書であった。
最近でも、パレスチナ自治政府を含む中東の民主化が、イスラエル/パレスチナ和平に資するという「神話」が語られている。高橋氏は、1993年のオスロ合意以降の和平プロセスは極めてパレスチナ側に不利な条件で進められており、「アラファトは腐敗した独裁者だからこそ、オスロ合意を動かしてこられたのである。民主的に選ばれた代表ではとてもこんなことはできない。」と指摘している(“パレスチナ情勢とアメリカの現在”,大航海 No.44,2002年【特集】パレスチナ)。パレスチナ或いは中東諸国で民主的な選挙が行われれば、反米反イスラエル政権が誕生するだろう。1992年に出版された本書には、当然最近の話題が登場しない。しかし、入手し易く、安価な解説書として、トンデモ説に惑わされないための基本書として本書をお薦めしたい。
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パレスチナやイスラエルがなぜ国際問題になっているのか?この答えを簡潔でわかりやすく書いている。
イスラエルとパレスチナを全く知らなくとも一から説明を入れているからこの問題での入門書に向いています。
この問題を中立の立場と広い見識、簡易な言葉で書いているので読み手側は理解しやすい。
私のは1992年6月総選挙前の話で(ラビン・労働党政権に交代の結果は載っていない)終わっている。
1993・10・28 5刷 234ページ+索引 4061490850
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良書。
著者が意識したという通り、国際政治の文脈でパレスチナ問題の構図がよくわかる。
イスラエルのみならず、
中東戦争〜湾岸戦争に至るまで、米ソ、エジプト、シリアをはじめとした関係各国がどういった思惑で動いたかが詳しい。
国際政治から語ったがゆえにどうしても国家単位でのパワーゲームの描写が多く、パレスチナ側に割いた部分は意外なほど少ない。この点、「共存への道」とは対照的だ。93年合意に先立つ時期の執筆ということもあって、アラファトへの評価も高くない。
とはいえ、著者はけっしてパレスチナを見落としているわけではない。やはりシオニズムには批判的な立場だとみるべきであろう。
「ナチスの発想は・・・シオニズムの目標と相通ずるものがあった。シオニズムを裏返すとナチズムになる。』
そのシオニズムにも、労働党が代表する本流と、右派連合「リクード」が代表する修正シオニズムとがあること、占領地の意義が両者で異なることなどは初めて知った。つまり、政権がどちらかで和平協議の妥協の余地が異なるということだ。
また、パレスチナ人にも多様性があり、PLO(ファタハ)の支持基盤はむしろイスラエル国外の「ディアスポラ」、占領地パレスチナ人の不満を受け止めたのがイスラム原理主義(ハマス)、という構図もわかった。
他にも、アメリカの中東戦略の矛盾、エジプトの立ち位置、冷戦終結の影響、イスラエル国防の詳細など、勉強になるところが多い。中東は最新兵器の実験場だとか、イスラエルの入植者は千葉都民だとか、やや不謹慎ながら面白くわかりやすい表現もたくさんあった。
非常に興味深かったのは、パレスチナ人とユダヤ人の類似性の指摘である。共に国を持たず、歴史的に差別を受け、同胞との団結と高い教育水準で身を守ってきたというのである。
パレスチナ人の歴史的経緯については詳しく触れられていないので、ほんとに?と思うところもあるが、「パレスチナ人なんかいない(いるのは難民のアラブ人だけで、受入国に同化され、消えてなくなるべき)」というイスラエル元首相の発言は、逆にその類似性を証明しているように聞こえる。まるでユダヤ人に向けられた言葉のようだ。
宗教的同一性のみを唯一絶対のアイデンティティとし、紀元前の遺跡を根拠に土地の所有権を主張するユダヤ人の感覚は、私にはどうもなじめないもの。いったいイタリア人が、遺跡を掘り返してロンドンはイタリアのものだと主張するだろうか。だいたい、そこに住んでいるならその国の国民だろうに、なぜかたくなにユダヤ人であり続けようとするのかわからない。
ずっとそう思ってきたが、その議論はもしかするとパレスチナ人をも傷つけるのだろうか。
信仰もなく、自国から排除されたこともない民族にはわからないものを、イスラエルとパレスチナは共有しているのだろうか。
この本から15年以上経ったが、構図そのものに根本的な変化はない。現在でも有益な書。
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中東関連の本も先月を含めて4冊目。重複する内容もあるものの、
基礎的な本を読み進めているので、前提となる知識が根付いてきたことで内容理解が深まってきた。
例えば、ユダヤ人迫害事件において、特に注目されたのがドレフュス事件であったことは
学生時代の世界史の授業で暗記すべき知識として記憶のみしていたが、現在に至るまでの
パレスチナ問題へと繋がるシオニズム運動の発端であったことを改めて認識することができた。
やはり、歴史は暗記するものではなく、自己の内的欲求によって学ぶべきものと言える。
アメリカがイスラエルを建国当初から支持していたのも、ユダヤ人が迫害された時に
多くのユダヤ人がアメリカに渡っており、その子孫が500万人を超えイスラエルの支持者と
なっているあたりも、歴史を紐解けば解くほど考えさせられる。
日本にいると民族や宗教にまつわる争いが身近には起こりにくいものの、世界に目を向けると
悲しいことに争いのない日はないと言える。歴史についてはこれまで相当不勉強なので、
しっかりと基礎的な教養を時間をかけて深めていきたい。
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まんが パレスチナ問題に続くこっち関係2冊目。
まんがで読んだ下地の上にちょうどいい感じで知識が深まりました。
何の基礎知識も無いと、ちょっと難しいかも?
第二次世界大戦以降の話がほとんどで、歴史の流れと共にパレスチナ
問題をめぐる世界の構図が少し深めに書かれています。
内容はそれなりに複雑なコトも書かれていますが、物語を読んでいる
ような感覚で進んでいきました。
また国際政治について、やっぱりいろんな国の裏の思惑があって世界
は動いているんだなーと実感。
当たり前の事なんだとは思いますが、普段そういう話題にずーっと疎
疎で来たわたしはこの本でそれを実感しました。
なかなかの良書でした。
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古い本のため、オスロ合意の直前である1992年までの歴史しか収められていない。
しかし、オスロ合意から今日までのあゆみよりは、それまでの前提となっている歴史の方が重要性は高い。
あえて収録されていない書物の方が、本質に近づきやすいと思う。
本書は、シオニズムの思想的背景や歴史的背景、大戦前と大戦後のパレスチナを取り囲む状況などが分かりやすく描かれている。
事実を羅列するだけではなく、行動の動機やその結果、浮かび上がる問題といった内容を詳細に書いてくれている。
巻頭の主要当事者を並列させた年表も便利で、中東をこれから勉強したい人には大変重宝する一冊だと思う。
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今のガザ地区の問題は、これまでの歴史なくしては語れない。
米ソ、パレスチナ、イスラエル、湾岸戦争など中東全域を背景として考えてみれば、単独の問題ではないのがよくわかる。
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[ 内容 ]
宿命の地=カナン(パレスチナ)を舞台にくり返された、長く根深い歴史。
流血の抗争はなぜ起こったのか?宗教や民族紛争、石油資源をめぐる思惑、難民問題など、複雑にもつれた中東問題を、国際政治のダイナミズムの中に位置づけ、解明する。
[ 目次 ]
1 パレスチナへ―ユダヤ人国家イスラエルの成立
2 米ソの中東進出とスエズ危機
3 イスラエルの軍事力
4 パレスチナ解放運動の変遷
5 第4次中東戦争と石油危機
6 イスラエル社会の変貌
7 レバノン戦争の構図
8 ペレストロイカの影
9 インティファーダ―占領下の民衆蜂起
10 湾岸戦争とパレスチナ問題―さまざまな「リンケージ」
11 中東和平国際会議のゆくえ
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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19世紀のシオニズム運動の始まりから1991年の中東和平国際会議直前まで、複雑なパレスチナ問題の経緯をコンパクトに分かりやすくまとめている。イギリスの外交に端を発していたこと、ユダヤ人がパレスチナ人を追い出してイスラエルを建国したこと、というような漠然とした予備知識しか持っていなかったが、その複雑な経緯がすっと頭に入ってきた。2つの民族だけではなく、その周辺国や米ソの政治的思惑と駆け引きによってめまぐるしく状況が展開されてゆく。この問題を動かしているのは宗教的なぶつかり合いだけではない。内外の人口動向と経済状況が重要なキーになっていると思った。本書ではユダヤ人の状況を中心に解説されているが、この問題は周辺から迫害されてきた2つの民族、ユダヤとパレスチナが最後に同じ場所へ押し込められたために発生したのだと感じた。最初に地図と年表が記載されており、理解を助けてくれる。新書にしては最後に索引がついているのも良い。中東和平国際会議以降の展開を補足した新版が欲しい。
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ややこしそうであえて避けていたテーマだが、とても好きな高橋和夫が書いている、ということで手を出してみた。古い新書ではあるが、パレスチナ問題の源は時間が経って変わるものではない。
ユーモアのきいた最初の一行目で肩をポンと押されたように読み始めた。
ユダヤ人というとナチスの犠牲者というイメージが強く、弱者を見る目でとらえがちだが、パレスチナをはじめ、アラブ、アメリカ、ソ連を相手にけっこうすごいことをしてきている。
国防力が半端でないのは、ナチスの過去だけを理由にするようなものではない。アメリカに移住したユダヤ人もお手上げの目に余る行為が目立つようになる。
パレスチナをとりまく中東では敵と味方が入れ替わり立ち代り、様々な問題が交差しまくっており、一度読んだくらいで理解できるような状況でない。
わかりやすいながらもその情報の多さに全部頭に入らない。
近くに置いて何度も手に取りたい一冊。
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中東問題の入門書。
難しい問題ではありますが、この本は入門書としてとても良著だなと感じます。
あまり偏りも感じないので「イスラム・中東問題・パレスチナ・ガザ地区」このあたりのキーワードに興味はあるけど読んだことはない、という方にはオススメ。
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歴史の教科書や新聞で頻繁に目にする聖地、ユダヤ人、シオニズム、イスラエル、パレスチナ問題。断片的な知識を繋いでくれる一冊。
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1992年出版のパレスチナ問題を扱った本。
まだ2000年前なんで時事的な内容に関しては少し足りないです。
ただそれ以前の事柄では中々面白いです。
特にユダヤ人の流入などで図表を扱っているので
参考資料としては助かります。
最後に「索引」がついているのもGood
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スペインが、ユダヤ教とイスラム教を迫害し、追放したという記載が一番興味を引いた。
ユダヤ教とイスラム教を対立的な視点でしか記述しない書籍は、本質を外しているのだという。
ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地がエルサレムにあることは、もう一つの重要な視点である。
エルサレムを訪問した際、国際的な対立の拠点にたって、問題の本質が見出せなかった。
近いからこそ憎しみ合うという構図だろうか。
歴史的に、大国に振り回されてきた両者という共通点は見出しやすいが、
それぞれが、すでに大国なのだから、もう少し違う視点でも見たい。
読んだのは、10刷だが、
「時の流れによってその存在の必然性を失った箇所を削除した」
とのこと。
とても残念です。
時の流れによって、存在の必然性を失ったのは何かを知ることも、
読者にとっては大切なことなのに。
できれば、あとがきにでもよいので、項目だけでも明示して欲しかった。
歴史をしることが、問題解決の糸口の一つと思うからです。
人間性の根源も、歴史の中に刻まれているのではないかと感じます。
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イスラエル建国の経緯から中東和平国際会議までを概観している。中東情勢は米ソやイスラム諸国を交えて複雑に変わるが、イスラエル、アラブ双方の立場や、出来事の背景をわかりやすく説明している。初版が1992年で既に古いので星4つ。