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白い人・黄色い人 (講談社文芸文庫)
白い人 黄色い人
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白い人 | 7-88 | |
---|---|---|
黄色い人 | 89-166 | |
アデンまで | 167-200 |
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紙の本
神のみぞ知る
2011/06/15 11:52
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第33回芥川賞受賞作(1955年)。その後の遠藤周作の活躍を思えば、新人登竜門といわれる芥川賞も華々しく受賞したかと思いきや、選評を読むかぎりにおいては薄氷の受賞であったことがわかる。
選考委員の一人舟橋聖一氏の選評によれば「一時は(受賞作)ナシにきまりかけたが、司会者の運びのうまさ(これは名人芸に値した)につりこまれて」受賞作に決定したということだ。この「司会者の運びのうまさ」は表現こそ違え、宇野浩二も選評に書いているから事実そうだったのだろう。
その後大家となる遠藤周作をこの世に生み出したのは選考委員ではなく、どなたかわからないが、当日の「司会者」だというのも、なんだか遠藤らしくて愉快だ。
先の舟橋氏の選評であるが、さらに遠藤の文学に対する姿勢を批判し、「片手間小説には、あまりやりたくない」とまで書いている。
受賞当時の遠藤は「評論」の道に進もうとしていた節があり、その点での心配は他の選考委員もしている。それほどに当時の遠藤周作は文学界においてほとんど無名であったといっていい。
その受賞作『白い人』であるが、主人公も物語の舞台もすべて西洋ということで選考委員にとまどいがあったにちがいない。主人公はフランス人とドイツ人の間に生まれた青年神学生で、舞台は第二次大戦のフランス・リヨン。それだけでもきっと違和感があっただろうし、しかも物語のテーマが「神の存在」であるから、いくら「司会者」の力とはいえ、この作品を受賞作にしたことは、今から思えば「神の御力」であったのだろうか。
生まれつきの斜視である主人公は、父から疎まれ、「右を見ろというのに、右を」という呪いのような罵声を浴びて成長する。やがて神学校に入学し、自身の心に奥底に潜む苛虐性に目覚めていく。そんな彼に対峙する形で信仰一辺倒である青年とその恋人が配置される。
遠藤にとって彼らは神の具象化であったかもしれない。その神を遠藤は懐疑している。
この作品のテーマはのちに遠藤の終生の主題となっていく。
もし、この回の「司会者」が粘らなかったら、作家遠藤周作は誕生しなかったかもしれないし、私たちはその後の遠藤の名作を読むことはなかったかもしれない。
神は「司会者」となって遠藤を芥川賞作家にし、そして何を描かせようとしたのだろうか。