慟哭 (創元推理文庫)
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- 税込価格:780円(22pt)
- 発行年月:1999.3
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ユーザーレビュー- 「慟哭」
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2011/12/09 11:54
鳥肌が立った
投稿者:ががんぼ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
読んだとき、作者のこともこの小説のことも全く知らなかったが、書店の店頭で見かけて興味を惹かれた。なんといっても帯の「題は『慟哭』、書き振りは《練達》、読み終えてみれば《仰天》」(北村薫)が効いている。
たしかに「仰天」だった。真相が明らかになる一文を読んだときには、全身鳥肌が立った。十数秒、あるいはそれ以上も頭がしびれているのがわかった。読書という精神的な行為で、これほどの肉体的な衝撃を受けたことはないのではないか。文字通り体が震撼した。
この衝撃は単に意外性によるものでも、トリックへの驚きでもない。それは、堅実で質の高い文章がここに至るまで積み上げてきた人間世界の重さが、一挙に崩れる衝撃にほかならない。解説(椎谷健吾)の「文章から受ける印象自体がトリックを絶大なものにする手法」というのはまったく言い得て妙である。
たしか朝日新聞の中条省平の書評で、ミステリーというのは、第二次大戦などの悲惨を経て、トリック重視よりも人間の暗面を探る犯罪小説になった、ということが書いてあったと思うが、この著者も、紛れもなく資質としてそうした系譜に属する作家である。そしてそのことと、人を驚かすアイデアとが表裏一体、渾然となっているのがすばらしい。トリック重視の、純本格派の読者には不満もあるらしいから、この小説の好みも分かれるのだろうが、娯楽小説であっても、より文学度の高い、単なる絵空事ではない人間味を求める読者にとっては、嬉しい作家である。
幼児誘拐殺人とか新興宗教とか黒魔術とか、あまり気持ちのよくない素材を使っていても、往々にしてそうしたものを扱う小説が悪趣味に堕するのに対して、基本的にどろどろしていない描き方なのもいいと思う。他の作品も読んでみたくなった。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2004/05/05 19:03
測量不能の「心の闇」の深さ
投稿者:伊豆川余網(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
感服。連休をゆっくりミステリーで楽しもうと遅い午前中に読み始めたが、ほぼ10時間後に読了。この間、ほかに何もする気が起きないほどこの一篇の物語世界に拉し去られてしまった。
その所以はまず、多くの諸氏が述べているように、何よりも文章力の揺ぎなさ。結末の悲惨さゆえに評価を低くする方がいるのは、ある意味で理解できるが、逆にいえばそれだけ、最終部に至るまで、緊密な文章力で構築した作者の物語世界の磁力に引き付けられた証しではあるまいか。
やはり諸氏が言われているように、警察内部の葛藤、新興宗教の暗部など(豊富な登場人物も含めて)道具立てに終わらない細部の書き込みの見事さにも賛嘆するが、それ以上に、やがて主題と深層で結びつく、主人公佐伯警視とフリーライター篠との男女関係の描写力には、ただただ茫然とせざるを得ない。北村薫氏が帯文で「書き振りは《練達》読み終えてみれば《仰天》」と称えた「書き振り」とは作品総体のことであろうが、2人の描写においてとくにそれを感じる。作家としての取材力とその整理能力は20代前半あれ10代後半であれ、優秀であれば獲得し、発揮し得るであろう。しかし、妻子ある30男と離婚経験のある30女との関係を、執筆当時24、5歳だった作者が、ここまで説得力ある表現で描写したことが驚異である。
実は、設定されたこの2人の愛情(と破綻)こそ本作の急所だと考える。かりに結末のトリックを思いついたとしても、2人の描写が陳腐であっては、この作品は台無しであり、説得力がなかった。そもそも、途中で読書を倦んだであろう。
その結末について。苦く、鉛を呑まされたような感じは確かにあり、好悪は別れようが、本作全体が発句でいう「もどり」、あるいは俳句の「配合」「二物衝撃」の名句と捉えれば、その完璧な構成美を嘆じるに足る。すなわち、他の優れた本格もの同様、本作の例の〈結末〉は5・7・5の〈下5〉に似ている。例えば「御手討ちの夫婦なりしを更衣(ころもがへ)」「穂の白き砂地の麦や汐曇り」などの「更衣」「汐曇り」に当たる(あくまで構成が)。頭から5・7と読み進んだ読者に、最後のこれら5文字が示す世界と、そこまでの部分が描いた世界との間で生じる「切れ」の効果。5文字の余韻が再び5・7にもどって響き合う感興。下5、すなわち〈結末〉の不即不離の「意外性」は、終息に向かっていたはずの作品世界全体を再び、激しく沸き立たせる。この構成美を、(たとえ苦くとも)賞賛したい。
さらに作品の主題について、贅言を述べたい。今日、平均寿命の伸張に比し出生率の低下がますます憂慮されている(本年5月4日発表の総務省の数値では、15歳未満の推計人口は前年より20万人少ない1781万人。総人口の13.9%に過ぎず、この割合は少子化が目立つ先進国の中でも最低)。それゆえになのか、親たちのときに共同体原則を弁えない愛児への文字通りの溺愛が有識者たちの眉を顰めさせ、その反面、実の両親による幼児虐待もあとを絶たない。また、犯罪の凶悪化も危惧され、家族の崩壊と反比例するかのように、家族愛も強調されている。
しかし、メディアが確立されていなかっただけで、今も昔も、子供の受難はあったのではないか。そして、人の心に巣くう深い闇の中でも、子ゆえの闇の深さは、1000年以上も前から嘆かれていたのである(「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」藤原兼輔)。その「心の闇」を主題に据え、その闇の果てしない深さを真正面から覗き見せたのが、本作である。
爽快な読後感は全くない。だが、異常人が起こした異常ゆえの悲惨ではなく、人間そのものゆえの測量しきれない心の闇と、それゆえの、解決し得ない(つまり、古びない)悲惨を描ききった読後感は、決して不快ではなく、発表後かなり歳月を過ぎたとはいえ、いま改めて感服し推奨することになんの躊躇もない。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/09/14 09:04
50年後に残っている作品かもしれない
投稿者:たけぞう(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者のデビュー作。それにも関わらず,恐ろしいまでの完成度を誇る。
鮎川哲也賞の最終選考に残ったが,受賞は逃す。あまりにも悲惨なラストである故,本能的に賞を与えたくなかった選考委員がいたとしても不思議ではない。しかし,このまま埋もれさせる訳にもいかない。それ故なのか,選者であった北村薫氏の絶賛により,出版されたという経緯を持つ。
幼女連続殺人事件を巡る小説。追う側の佐伯捜査一課長,丘本警部補の場面と,犯人とおぼしき男の場面が交互に入れ替わる形で展開されていく。小気味良く進行するため,内容や心情を理解し易い。加えて,無理な展開はないため,気がついたらどっぷりである。人間の精神が壊れていく様を,これ程までに現実的に書かれた作品は,私はまだ出会ったことがない。
著者のブログでは,エンターテインメント性の高い小説とのコメントがあった。最新作の乱反射でも,同様の試みをしているらしい。書評によっては,著作の読後感の悪さから,読者が離れているとの指摘もあるため,著者なりに改善しようとしているようだ。
しかし,一般読者にはこれでも十分に重すぎる。
感情移入し過ぎて,底の見えない淵を覗いてしまい,気持ちが沈んでしまう。残虐なシーンがある訳ではない。表現が過激な訳でもない。それでもなお,引きずり込まれてしまうのは,天才的なまでの文章力に他ならない。
これほどの作品にはそうそう出会えないと思う。文書構成の研究対象になってもおかしくない。悪魔的な力を持つ作品に,危険性を感じる。精神状態の良い時にしか読まない方が良いため,その分を差し引き星4つとした。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2004/06/30 17:54
心の叫びは何処へ
投稿者:luke(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
警視庁キャリアの捜査一課課長は警察庁長官の娘婿であり有力代議士の落とし種でもあった。キャリア官僚という鎧を嫌い自ら捜査一課長ポストを得たのだが家庭不和で別居生活を余儀なくしている。4歳になる一人娘には人並み以上の愛情を持つもの、娘との関係は冷えていた。折しも連続幼児誘拐事件が発生し実力を示すチャンスと捜査に檄を飛ばすものの捜査は停滞する。ストーリーは警察の捜査と並行して一人の男の行動を追う。男は心に何かを抱えて新興宗教に光明を見いだそうと、もがいている。そんな中、一つの宗教に心を動かされのめり込むのだった。捜査の進行に合わすかのように男は教団内の地位が上がり教団の秘密の儀式に参列できるようになる。そして、その儀式から男は望むべく道を見い出し暗黒の世界へ足を踏み入れるのだった。幼児誘拐殺人事件の犯人は? 捜査と男の線は結ばれるのだろうか?
…と、犯人側(一口に犯人と言い切れませんが)と捜査側の状況を並行して進める手法は特に珍しいものではなく、むしろ在り来たりとも言える手法ですね。しかしながら、時間経過を考えると事件と合致しているのか疑問に思えてくるのです。いや、読めば読む程合わないのです。しかし、犯人に違いない状況は続々と出てきます。硬直した捜査を見れば、犯人へたどり着けるとは思えないような進展。…しかし、しかしです。見事に最後に収まるのだからすごい。異論が出てきそうなラストながら新しいミステリーを見る事が出来ると思います。犯罪の中でも一番凄惨な幼児誘拐事件に憤りを覚えない人はいないでしょう。どんな理由を持ってきても正当化する事は出来るはずもなく救いようのない暗澹たる気持にされられます。まさに慟哭。憎しみからは新たな憎しみを生むだけなのです。
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2003/07/28 23:18
一気読み。
投稿者:あーみん(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
読書は通勤&帰宅途中の電車で、またはお風呂の中で、
と決めています。
そして、この本のお陰で電車は「新快速」→「普通」に、
バスタイムが「60分」→「90分」になってました。
いずれの時も、深いしわが私の眉間に刻まれていたに違いない…
読後感はなんともやりきれない。
同情したくなるんだけど、それはしちゃいけないような。
というか、分かってあげられる自分にはなりたくないなーーー、
という感じ。
しかし、それって「ヒト」としてどうなのかしらん。
とても微妙…で、益々読後感はひんやりしたものになって
いくのでした。
最後の一行は、読んだ瞬間私が「咆哮」しそうでした。
声もなく。
あぁ、やりきれない。
それにしても残念なのは、編集の仕方!!
ページをめくって一番最初に目に飛び込むのって、一番左端の行じゃ
ありません???
そんなところに、犯人の名前を書いちゃうなんてーーー(TOT)/
最後を読みたくなるのを堪えて堪えて頑張って読んだのに、
一番いいところでネタばれされちゃった。
すごいショック…やりきれなさ、倍増。
北村薫さんが四六版に、
絶対に(話の筋)を明かさないようにして欲しい
意地悪をしてはいけない
殺人の動機になる
との解説を寄せられてたそうですが、
もーーーぅ。編集者、でてこーーーーーーーーーーーーーーい
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2002/07/29 10:04
ずーんと暗くなりますね
投稿者:まあ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
書店のポップなどで、驚愕の結末と書いてあったので買ってみました。
内容はおもしろかったです。
しかし、数頁の段階で結末がわかった方も結構いるのではないでしょうか??
わかってしまったら余計にどんよりした気分で読むことになると思います。
佐伯課長は最後に娘まで殺されてしまい、この人の人生は一体なんなんだろうと
思ってしまいました。
つい捕まった犯人のそれからを思ってしまったりもします。
そういう意味でも心にずっしりくる内容だと思います。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2001/10/30 19:25
慟哭
投稿者:真 (男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
一見すると社会派推理小説のようなストーリーだが、本書は精緻に組み立てられた本格ミステリで、そのことはラストを読めば分かる。ミステリーを読みなれた人は真相がわかってしまうかもしれないが、それでも読ませる語り口の巧さはさすが。じっくり読んで欲しい作品。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2001/09/07 05:27
胸にしみます…
投稿者:marikun(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
連続幼女誘拐事件を捜査する警察と、謎の無職の男の視線が交互に書かれて、物語は進行して行きます。実は私は途中でラストが予想できたのですが、それでもハラハラしながら読み進めました。ラストはとても哀しくて切ないです。読み終えると「慟哭」という題名が胸に沁みます。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2001/02/16 23:42
はまればはまるほど騙される
投稿者:松内ききょう(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずは圧倒される。文章一行一行にこめられた技の厚さに翻弄され、疑い、ため息を付く。心理、内面、背景の描写のすごさに、読んでいるのか、読まれているのか、わからなくなる。そして最後のページ。ただ驚きたい、そして読後はそれ以上のものを求めたいときに読む本。
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2000/11/13 23:40
「慟哭」て決して激しいだけの意味じゃないんです。
投稿者:理貴人(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
連続して起こる幼女誘拐事件。
事件を追う捜査一課課長佐伯は若きキャリア。
ただし妻娘との関係はうまくいっていない。
彼と同様、物語冒頭から登場する男は
娘を失った哀しみを新興宗教の教えにのめりこむことで紛らわす。
警察の奮闘むなしく事件は更に起こり
佐伯は背水の陣とも云える策をとるが…。
どの親も、子を思う気持ちはかわらないことを
つくづく思い知らされる作品。
人の心の深淵を見せつけられ
生き方を、価値観を考えさせられた。
新興宗教、連続幼女誘拐事件、といった
ここ数年の世俗をあらわすキーワードをもちながら
決して浮ついた雰囲気とならない。
ひとえに端正な文章と構成のせいだろうが
この完成度でありながらデビュー作か、と眩暈すら感じる。
「本格推理」としての要素も余りあるほどにもちながら
人間が丹念に描かれていることにも好感をもてる。







