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噓をついた男

  • 出版社:河出書房新社
  • サイズ:20cm/226p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-309-20341-8

噓をついた男

エマニュエル・カレール (著), 田中 千春 (訳)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:1,89054pt
  • 発行年月:2000.8
  • 発送可能日:購入できません

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商品説明- 「噓をついた男」

妻と2人の子供、両親をたてつづけに殺害した偽医者ロマンの謎の18年。この二重生活者は、当てもなく森をさまよいながら、いったい何を考えていたのか。直接会って訊ねるために、作家は拘置所の犯人に手紙を書き送る…。【「TRC MARC」の商品解説】

著者紹介- 「噓をついた男」

エマニュエル・カレール

略歴
〈カレール〉1957年生まれ。政治経済専門のグランゼコールに学ぶ。「冬の少年」でフェミナ賞受賞。

関連キーワード- 「噓をついた男」

ユーザーレビュー- 「噓をついた男」

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2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/03/06 16:01

“みんなとおなじ”に縛られて・・・

投稿者:りっちゃん(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 著者は95年にロマン殺人事件にヒントを得た作品『冬の少年』でフランスの文学賞を受賞したそうだ。「嘘をついた男」は文学というよりも報告って感じかな。
 ジャン=クロード・ロマン。1993年1月9日(土)の朝、妻と二人の子どもを殺し、実家へ行って昼食後、両親を銃殺。
 人々の関心を集めたのは、彼が嘘を突き通していたことだった。
 人を威圧する何かを持った森林管理を職業とした父、健康がすぐれず鬱々としていた母。大人は不潔な性の世界のことを子どもに隠し、母を心配させまいと、本心を隠す子ども。聞き分けのいいおとなしい子。話し相手は犬だった。
 河川森林監督庁の国家試験のための学校では、イジメにあい、挫折。副鼻腔炎に逃げ、実家で燻る。医学に進むことにする。進級試験に失敗。追試も受けず、その理由は「片思いをしていた女性からの手紙を読んだから」。それをウソだと著者は感じた。私もそう思う。しかし、ウソというよりも夢想といった方が的確なのではないか。
 大学側には留年手続きをし、親や友だちには、受かったことにする。インターン研修に参加しなかったが、講義にはみなと一緒に出席。試験当日もみんなと顔を合わせる。真面目にノートを取り、みんなを助ける優等生だったので、誰も留年とは気付かなかった。遠縁のフロランスに振られそうになったら、病気になり、付き合いが続く。フロランスの両親に好かれ、結婚。ジャン=クロードも、パリのインターン資格試験に合格、国立科学研究所の所員となり、のちに、WHO付きとなる(ということになっていた)。だれも疑わなかった。長女カロリーヌが1985年、長男アントワーヌが1987年に生まれる。上司からの祝をもらい、妻が礼状をしたため、夫が手渡していた(ことになっていた)。結婚も子どもも、医学部の仲間たちといつも同時期かちょっとあと。
 給料は? 生活は? なんと、しばらくは親からの援助が続いていたらしい。大学生活のために買ってもらったアパートを売ったお金も自分のものとなっていた。そして、両親や妻の両親の資産管理も任されていた。スイスの銀行で、特別に、高利回りで・・・自分の名義ならば・・・妻の父が、預金を下ろしたいと言い出したあと、階段から落ちて死ぬ。一緒にいたのは、ジャン=クロード。これも「罰に変わりはないから嘘をいってもしかたがないが、殺してはいない」と主張。そう、嘘でなく夢想の中なのだと思う。ジキル氏とハイド氏、どちらが現実で夢想なのか、本人にはわからないし、折り合いもつけられなかったのだろう。
 潤沢な資金が尽きるころ、別な女性へのアタック、金遣いが荒くなり、資金が加速度的になくなっていく。彼女からも資金を預かる。返済を求められ、殺人未遂事件があり・・・そして家族内殺人事件が起きる。
 リュック(仮名)は、大学時代からの親友。親の代から医者。子どもの名付け親にもなってもらっていた。子どもたちも同じ学校。同じ高級住宅地に住む。事件が起きてもはじめは信じられなかった。事件の全容が明るみになってからは、自分の世界すべてが崩壊してしまったように感じた。
 だろうなぁ。
 この事件は、日本での「誰でもよかった」殺人事件と共通している。厚労省の元役人を殺した事件の容疑者も「犬」が好きだったんだなぁ。「ドラえもん」がポケットに死体を入れてくれると言ったのは光市殺人事件だったか。みな、現実の世界と夢想の世界がごっちゃになっている。
 ロマンのうそが容易にばれなかったのは、地域社会の崩壊も関係している。親の職業を引きついていれば、みんなから悪くいえば干渉、よく言えばちゃんと面倒を見てもらい、注意もされていただろうに・・・学歴重視、格差社会での勝ち組であるドクターならば、人は容易に疑うということをしなかったというのもあるだろうな。
 昔の体制には戻れないが、さりとて、新しい倫理がないというか、ひとりひとりに目が届くというわけではない現代。価値観の多様化はいいけれど、どう生きるべきかが、あいまいで、“みんなと同じ”からはみ出てしまった人にとっては、生きづらい時代なのだろう。―――“みんなと同じ”に汲々と生きている人も大変なんだろうなぁとも思う。リュックは、汲々とせずに生きてこられたから、親友の心の中を見ようともせずにきちゃったのかも。
 ひきこもりの人なんかも、ロマンと同じ傾向があるのではないだろうか。現実逃避? うーん、「男は本質的にロマンチストだ」と言う同期生の言葉も思い起こされる。確かにそうかもしれない。自殺者に男性が多いのも、そのロマンと現実との狭間で、折り合いが付けられなくなるからかも知れない。女はね、現実の生活の中で、雑用をこなさせねばならないから、男性ほどロマンに浸れないと言うか・・・経済的に家族の分も稼がねば・・・というハードルもないしね。女に生まれてよかったとも思わないけれど、男よりはましかなとは思う。男女の役割分担もこの頃はだいぶ違ってきているから、一概には言えないけれど・・・
 アメリカの子連れホームレスが、「自分の生活をコントロールできなくなった」と表現していた。言い得てるなぁと。封建主義から資本主義の狭間で壊れてしまったものが、わたしたちが思っていたよりも大きいのではないかと思う。家族、地域社会、秩序、倫理、情・・・。それに変わるものがいまだに見つかっていないのではないか。
 男性の“ロマン”もいい方に繋がればいいのだけれど、そのためには弱者の声、下からの声をキチンと耳に入れて、具体的に動かないとね。政治が機能していない主な原因はそこだと思う。現実でないものに対応していたら、いくらやっている“つもり”でも、『嘘をついた男』になっちゃうよ。

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