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商品説明
〈愉しみ〉〈発見〉〈回想〉という3部構成の中に、明治の作家・作品が織りなす世界が活き活きと立ち上がる。明治文学を楽しむ達人がセレクトしたガイド・アンソロジー。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
坪内 祐三
- 略歴
- 〈坪内祐三〉1958年東京生まれ。評論家。著書に「ストリートワイズ」「古くさいぞ私は」「シブい本」などがある。
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紙の本
書評後編:例外的なアンソロジー——明治の日本を知るだけでなく、現代の日本を知るために
2000/11/27 18:15
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投稿者:越川芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
〜 書評前編より 〜
このように、本書は明治文学に関して、主張も異なれば、時代もことなる多種のすぐれたエッセイを集めている。そのことで、明治文学への複層的なアプローチが可能になる。しかし、もっと重要なのは、明治に始まるといわれる口語文体の、現代での多様な可能性を幻視する機会もまた与えてくれるということだ。それがこの本の隠れた大きな魅力ではないか。
さて、この本に収められたエッセイや対談や座談会の細部もまた捨てがたい。たとえば、第二部の冒頭に収められた伊藤整の「近代日本の作家の生活」と、巻末の座談会「明治時代の文豪とその生活を語る」(昭和七年の『新潮』より)を併読すると、職業人としての作家の成り立ちがわかって面白い。と同時に、平成のいまだって、事情は似たり寄ったりだな、と思わずにはいられない。
伊藤整は正直に自分の稿料を暴露して、明治初期の作家の生活について、こう述べている。「私自身の今の小説稿料の中位の標準で言うと一枚が千円であるから、六十六枚の原稿に対して、私は六万六千円を期待する。魯文はそれに対して五千円しかもらえなかった。そういうような状態であったから、それを書き上げた日に米が無くって、その金で買った米を炊いたという生活であったのも当然である」と。
伊藤整が奇しくも「……を期待する」という微妙な言葉を使っているように、若干の例外はあるが、締切りと枚数だけをいい、稿料のことは話さない原稿依頼のシステムは、いまもって日本の出版業界の悪しき習わしだ。一方、座談会では、夏目漱石の稿料のことが話題になって、にわかに色めき立つ。
久米(正雄) 丁度僕ら行ってた頃に『中央公論』の滝田樗陰氏が斯ういふことを言ってたがね、「夏目先生が書いて呉れヽば一枚十円位出すがね」といふんです。十円といふのは素晴らしい値段を出すと言ってるものだなと吾々評判して居たんですが、その時分には僕らは一枚一円の原稿料です。
長田(秀雄) 僕らも一円です。
久米 僕ら最初に『新潮』から貰ったのは五十銭だったと思ふね。
長田 しかしあの当時一円貰へるといふと、非常に高い原稿料のやうな気がしたね。
おそらくいま「昭和の作家の生活」という座談会をやっても、稿料のことはきっと話題になるだろう。逆にいえば、いまもって作家と出版社が値段の交渉するのはタブーであるということだ。日本のプロ野球(ようやく代理人制度を認めつつあるが、選手はまだ球団本位の契約を強いられている)と同じで、日本の出版業界も明治以来つづいていいる前近代的なシステムを改めるべきではないか。そうしないと、スティーヴン・キングのように、インターネットを使ってダイレクトに読者に作品を売るような作家がいっぱい出てくるぞ。(bk1ブックナビゲーター:越川芳明/明治大学教授)