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商品説明
【山本周五郎賞(第14回)】もう二度とあんな激しい恋はできない−。深夜の書店、平凡なOLだった29歳の私は、年下の女性作家・山野辺塁と運命的に出会う。そして、その夜から甘美で破滅的な恋が始まった…。性愛の深淵を描く恋愛小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
中山 可穂
- 略歴
- 〈中山可穂〉1960年名古屋市生まれ。早稲田大学教育学部英文科卒業。「猫背の王子」で作家デビュー。「天使の骨」で第6回朝日新人文学賞受賞。著書に「感情教育」「深爪」など。
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紙の本
読者へと向かって開かれた扉
2001/08/09 10:13
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:花村翠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて彼女の小説を読んで「痛み」を覚えました。それは一部には自分自身の経験と重なって…というのが大きかったのですが、語り手である「クーチ」に自分を投影するのと同時に、主人公「塁」に自分が関わってきた様々な人たちを重ねたせいです。人によっては「クーチ」がまったく描かれていない、作家は主人公以外に興味がない、と言い切ります。なるほど「塁」はこれまでの中山作品に共通の自堕落な王子様タイプに他ならず、その点はまったく変わりません。けれども、私の感覚のアンテナは初めてナルシストの主人公に共鳴しました。
周囲に迎合することを自己主張としている女と、ただ一人でいることが生きていることだと逃げている女。魅力よりも共感。私自身はおそらく実際こんな人が目の前にきたらぴしゃりと心を閉じてしまうであろうと思われる、そういう人々に、実は一番近いかもしれないと感じました。彼女の作品をこれまで読む度に、ただ「そうか。中山可穂とはこういう人なのか」としか感じられなかった一人よがりな感覚が、確実に読者側へ扉をひらきつつある、そんな予感に変わりつつあります。
この変化は、彼女の作風がエンタテインメントよりになってきたせいなのか、それとも彼女の持つ純文学への拘りが大衆文学へとスライドしてきたのか、現時点ではまったく見えません。ただ、その変化の大きさは、この作品が大衆文学の登竜門とも言える「山本周五郎賞」を受賞したことからもうかがえます。
とある人がこの本の書評で、「三島由紀夫賞受賞」と間違えていてぎょっとしたけれど、ふと気づけば中山可穂もまた、寺山修司や天井桟敷と交流のあった三島と同じく演劇には造詣深いはず。比較してみると面白いかもしれません。同じ情念と性の世界を描きつつ、三島のような暗喩は中山可穂にはみられず、あくまで直接的描写によってのみ、表現が達せられています。
三島由紀夫にとっての「海」や「火」のようなテーマに深く根差すような背景は、中山可穂にとっては何になるのでしょうか。彼女が「演劇」や「小説」といった彼女にとっての直喩的背景から離れたらどんなものが出てくるのか。それを見てみたいと思う私です。