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オルガニスト

  • 出版社:新潮社
  • サイズ:16cm/381p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-10-101421-3

オルガニスト (新潮文庫)

山之口 洋 (著)

  • 全体の評価 53件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:58016pt
  • 発行年月:2001.9
  • 発送可能日:購入できません

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ユーザーレビュー- 「オルガニスト」

全体の評価
5.0
評価内訳 全て(3件)
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2002/06/08 22:44

完成度は、高い。

投稿者:のらねこ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 以前、「ファンタジーノベル大賞」を受賞した際に出版された、三人称のハードカヴァー版も図書館経由で読んではいるのだが、「一人称に改稿された」という解説に興味をもって改めて文庫版にも目を通してみた。もともと、自然に読める文章が書ける人だが、改稿による違和感というのは感じない。
 何年かぶりで読み返して強く印象に残るのは、筋のシンプルさと対照的なディテールの細やかさ、である。
 音楽、ことにオルガン奏者周辺の事情に生体改造技術、それに、主人公たち三人の音大生の関係性……読者の興味を引くような仕掛けは数多く、しかも終盤のクライマックスを「必然」として納得できるよう、品よく配置されている。スマートで洗練される、といってもいい。その分、隙がなさすぎる印象も受けるわけだが。

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2002/01/09 12:21

ミステリー、SF、青春もの…と、角度によって錦鯉のようにキラキラ光る多くの色を持つエンターテイメント。文庫化に当たって語りが一人称に変わり磨きがかかった第10回ファンタジーノベル大賞。

投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー)(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 このサイトに気鋭の文芸評論を展開されている著者。最新作『われはフランソワ』の方が好みなので、そっちが★5つなら、こっちはちょっと落として★4つ半かなという感じはしている。
 でも、音楽や人体に関するディープな情報を生かしつつ意外な方へ展開していくプロットや、大聖堂ばりに構築される小説の細部を読み取る楽しさという点では、こっちの方に分がありそう。古典の香りする文芸の醍醐味を得たい人なら『われはフランソワ』から、ミステリーに引き摺られながら異世界を眺めるのが好きな人なら『オルガニスト』からがいいんじゃないかな?

 「世の中で一番大きい楽器」というと、スーザフォンという金管楽器とか祭り太鼓とか、エンヤや坂本龍一がこもっていそうなシンセサイザーシステムなんてのを今までは思い浮かべていた。ところがパイプオルガン!——出身校のチャペルで、わりに最近その演奏を聞いたのに失念していた。これは確かに大きい。しつらえられた聖堂自体も楽器の部位だ。動かせない楽器である。そして、この「聖堂全体をボディとする贅沢な楽器」という認識は、「えっ、そんなことになってしまうの?」と切ない結びを読み終えたときに、さらに大きな感懐を読者にもたらす。

 オルガニストというのは、本来は音楽を捧げて神をたたえる者だということ。小説の主人公(音大生からヴァイオリンの先生になる)が見守る天才オルガニストは、天に献じるという域をも越え、自分自身が音楽そのものになってしまいたいと願っていた。オルガニストとしては世界の第一人者と謳われていた老教授に目をかけられ将来を嘱望されていた天才ヨーゼフは、学生寮のルームメイトであった主人公のテオとバイロイト音楽祭を楽しんだ帰り、交通事故に遭って半身不随となり、音楽家としての生命を断たれる。

 車を運転していたテオが、音楽家として敬愛もしていた大切な親友本人にとっての存在意味を奪ってしまったことを悔悟する。それが何ともやり切れなくて胸を裂かれる。ふたりの間にはピアニスト志望のマーリアという女性がいて、音楽以外のものに興味がないヨーゼフに惹かれる彼女を、テオはそっと見守っていた。そして、音楽の道を進む同志3人組の関係を大切にしてきたのである。
 筋からちょっとそれるけれど、この微妙な3人の男女の書き方といい、『われはフランソワ』の騎士道精神といい、私はこの作家の描く女性への想いと行動がとても好きだ。恋というものを大切に自分のなかで扱ってきた人なんじゃないかというのが分かって、読んでいて信頼できる感じがする。

 さて、自分の体を満足に動かせないはずのヨーゼフは、ある日忽然とテオとマーリアの前から失踪する。その欠落感を抱えたまま2人の男女は暮らし始め、天才のそれではないが、各々に音楽界での仕事を続けて歳月は流れる。そんな2人の元へ、南米で活動する無名のオルガニストの情報が入ってくる。テオは、MDで確認した超絶的技巧やある特徴からヨーゼフのことを思い浮かべるが…。

 前半は教会音楽や楽器、芸術についての知識、後半は科学技術に関する知識を得ながら、なじみない異世界に生きる憑かれた人びとの物語にどっぷり浸れた。一貫して流れているのは、人が向き合う対象に注ぐ熱情への溢れる敬意。しかし、そこに著者の豊富な社会経験に裏打ちされた哲学的懐疑もあって、深い。

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3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005/10/11 07:27

狂気よりもやわらかで、執着よりも美しい

投稿者:yu-I(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

音楽大学で教鞭をとる主人公のもとに、ある日一枚のディスクが持ち込まれた。正体は未だ謎に包まれているというそのオルガニストの演奏は、天才的であった。そして、主人公テオの記憶は過去へさかのぼってゆく。
テオにはかつて、オルガニストとして驚くべき才能を持つ友人がいたのだ。しかしテオの過失による事故で、彼は半身の自由を失っていた。
この演奏者は、はたして彼なのか…。
音楽を愛しすぎた者の物語だ。愛するあまりに神にそむいてしまった者の物語だ。その魂は、あきらかに常軌を逸している。
しかし、あくまでも美しくやわらかな作品である。異常としか言いようのないはずの強すぎる愛を、あくまでも愛としてえがききっている。
凡手の手にかかればグロテスクな狂気やおぞましい執着になろうとする愛を、ギリギリのところで美しく真実の愛として書き上げたところに、著者の手腕が光る。
また、この本に詰め込まれたクラシック音楽やオルガンに関する知識の膨大さは目をみはるものがある。とはいえ、クラシック好きにしか楽しめないようなマニアックな作品ではまったくない。しっかりとした知識に裏付けられているからこその細部の精巧な描写と、文章であらわすには不向きであろう音楽というものをみごとに書きあらわすセンスが交じり合って、他にはない繊細で耽美な魅力を生んでいる。
哀切なラストでは、どこからか天上の音楽が聞こえてくるような気持ちにさえなった。
音楽への深い愛に満ち満ちた、それでいてエンタテイメントとして存分に楽しめる、美しく魅惑的な一冊である。

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