劇場政治を超えて ドイツと日本 (ちくま新書)
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- 税込価格:714円(20pt)
- 発行年月:2003.5
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ユーザーレビュー- 「劇場政治を超えて ドイツと日本」
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2003/07/23 15:10
凡俗極まりない文章から漏れ溢れる劇薬の水脈
投稿者:田中武人(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
はじめに断っておくが、評者は著者と立場を同じくしない。
それどころか、旗幟鮮明でない言説、通俗的な文章、啓蒙主義的な態度など、どれをとっても評価できない。しかし、しかしである。この本全体が取り上げるテーマは無視し得ないし、それは劇薬のように評者を刺激して止まない。必読、と言わざるを得ないのだ。
かつて呉智英は『読書家の新技術』の中で、政治を行政と思うことに慣らされている読者に「劇薬」としてカール・シュミットの文献を推した。あれから15年以上の月日が経つが世の中の趨勢はシュミットというよりは英米系のリベラリズムが主流になっているように思われる。外務省の現役官僚である著者は、2003年現在の日本に大戦前ドイツの状況を重ねることで、再びシュミットの思想を浮上させる。
シュミットは、第二次大戦前から大戦中のドイツで、政治とは「友・敵」を峻別することだ、と喝破し「決断主義」を採った法学者である。そして何よりもその「決断主義」が法学からの理論武装として、ナチスドイツの思想のバックボーンとなったことで有名である。著者は、シュミット=ナチスという負のイメージをその背景を点検することで一つ一つ払拭して行き、ナチスの呪縛からシュミットの思想を解き放ち、現代の日本へと降臨させようと試みている。
文章は、つまらなく、甘い点も多い。特に、中立な態度を装いたいのか、一つ一つエクスキューズをつけるが、「劇薬」シュミット思想に対して通俗的なエクスキューズをつけることに何か意味があるのだろうか。しかも「決断主義」に非常なるシンパシーを感じていることを十分に感じさせながらも、エクスキューズに徹するばかりで「劇薬」部分に踏み込んでまでの評者自身の思想が明確に語られることがない。予防線を張った自己弁護が多い。それでいて、各章最後で行われる日本の現状への適用となると途端に陳腐この上ない矮小な結論へと落ちてしまうのだ。
さらにエリート官僚にありがちなある種の蔑視的な視線も気になる、著者にかかるとデリダも「その議論を発展させようとするデリダは慧眼の持ち主に違いない」などとくくられてしまう。
よくよく考えてみれば、イラク戦争終結後ますます北朝鮮の脅威/暴走が危険視される2003年の現在、第三者ならともかく外務省の官僚が「決断主義」を称揚するような文章を書いていて良いのだろうか。私でなくても「いかがなものか」と言いたくなるに違いない。
しかし、以上のような点を差し引いたとしてもなお、そこから溢れるシュミット思想の湧水には着目するだけの価値が十分にある。そして、著者が文章では巧みに避けつつも、実質その「劇薬」に侵されていることが透けて見える、まさにそのことが、一層本書を際立たせている。外務省の小役人なんて、と思うあなたでも、いや、漠然と現状のリベラリズムの言説に慣れきってしまっているすべての人にとって警鐘の書になるだろう。







