沈黙/アビシニアン (角川文庫)
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- 税込価格:1,000円(28pt)
- 発行年月:2003.7
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ユーザーレビュー- 「沈黙/アビシニアン」
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2007/02/07 01:39
美しい物語が、そこにある。
投稿者:ねねここねねこ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
何という話たちだろう。
ルコの物語、そしてエンマの物語。
現実が遠のく。
ページを捲る手が、すうっと冷えていく恍惚感。
感想は出ない。ただ、凛とする大きなものを感じる。
包み込まれている。息をする生命の鼓動がある。
音楽、闇、生命。
それは安堵感と、喪失感を思って感じられる。
朽ちるもの、光るもの、残るもの。
温度と、そして音楽。
それは結晶化して、薄く留まる。
特に「アビシニアン」。それは狂気でもある、純なこころ。
純粋の純は殉ずることにもなる。
白亜でなくなった、意思ある凛としたもの。
風雨でぼろぼろになっても、瞳の輝きは残っている。
精神に、想いに殉じて、彼女は生きる。
八つの河を渡り、そして彼女は愛を思う。
思うこころ、深く静かなかなしみ。
「世界は詩のように崩潰する」
崩壊と、再生の話たちかもしれない。
「沈黙」では大きなスケールと闇との対峙が。
「アビシニアン」は、静謐な永遠というものを思いもする。
これから僕は、何度この本を読むのだろう。
「静謐な永遠」
美しいものが、確かにあって胸に留まる。
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2003/09/02 05:06
悪/愛
投稿者:のらねこ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
この二つの長編をカップッリングすることを思いついた角川文庫の編集者はかなりの慧眼の持ち主だと思う。ほんのちょっと、「保健所からの猫救出作戦」というエピソードにおいてのみ、両作品のヒロインは交わるのだけど、その他には、両作品に通底するところはない。「沈黙」では「音=聴覚」、「アビニシアン」では「嗅覚」や「味覚」、という言語化が困難な感覚が大きな比重をもって描かれているけど、そんなものはむしろ表層的な類似とみるべきであろう。
むしろ、「沈黙」における「悪」、「アビシニアン」における「愛」の扱いに着目したほうが、より作品の本質に迫れるような気がする。「悪」にしろ「愛」にしろ、フィクションの中でこそ使用頻度が高いものの、日常生活のなかではめったに使われることのない言葉=概念を作中で「実感」させるために、この著者は大小さまざまな「仕掛け」を周到に用意しているし、そうした「仕掛け」のひとつひとつの描写が濃厚で、文章としていちいち読みでがる。「沈黙」で語られる「ルコ」とか「家」の歴史、「アビニシアン」でエンマが一度言語を放棄し、再度獲得するまで過ごす公園生活の描写の細やかさや濃厚さ、とか。
「アビシニアン」でエンマやマユコ、それにシバが「河を渡った」と記述される箇所がいくつかある。だが、これなんかはそこいらにある普通の道路を「河」に見立てているわけで、いわゆるメタファーなわけなんだけど、喩えられる「河」とはいったいなんの「河」なのかというと、これは彼岸と此岸を分かつ「三途の川」なわけで、(エンマが物語の冒頭と終盤「河を渡る」のは、だから「死と再生」を意味する)そうしたこともいちいちグダグダ説明していないあたりの思い切りの良さもいい。
そうした周到な「仕掛け」をかいくぐった末提示させるのは、「沈黙」では「悪」、「アビシニアン」では「愛」。抽象的な概念でしかないこれらを実感させる手腕は素直に評価すべきかと。
両作品とも、デビュー作の「13」や「アラビアの夜の種族」に比べると、現代が舞台ということもあって物語世界的に少しスケールが小さいというかこじんまりとした印象を受けるかもしれない。けど、なかなかどうして、ミニマムではあっても密度的には侮れないものを内包している。
酩酊亭亭主
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2004/07/18 22:09
言葉がほとんど音楽のうちに溶解してしまう濃厚な原形質的物語世界
投稿者:オリオン(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
橘外男の異国情緒を期待させる冒頭(小刻みな文体はちょっと違うかなと思ったけれど)から、夢野久作の入れ子式眩暈世界を彷彿とさせるストーリーの転回へ、そして村上春樹の冥界下降譚(三浦雅士さんの評言)を思わせる迷宮化された世界のリリシズム。そのほか、解説の池上冬樹さんが示唆する南米産マジック・リアリズムの醸しだす神話的幻想性の残り香まで含めると、「沈黙」がまき散らす豊饒な物語宇宙の記憶の種子、かのアカシック・レコードに向けて縦横に張られたリンクは、SFやファンタジー、観念小説やエンタテインメントといった出来合のジャンル分けを粉砕する破壊的な力を駆使して、言葉がほとんど音楽のうちに溶解してしまう濃厚な原形質的物語世界を造形している。「アビシニアン」の静謐な世界創造譚の素晴らしさといい、これはもうたまらない。







