或る少女の死まで 他二篇 改版 (岩波文庫)
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- 税込価格:693円(19pt)
- 発行年月:2003.11
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- 本 文庫
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収録作品一覧- 「或る少女の死まで 他二篇 改版」
| 幼年時代 | 5-80 | |
|---|---|---|
| 性に眼覚める頃 | 81-166 | |
| 或る少女の死まで | 167-270 |
ユーザーレビュー- 「或る少女の死まで 他二篇 改版」
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2003/12/06 17:50
しっとりした日本語としっとりした人びとの生活にふれたくなって…。幼年時代、少年時代、青年時代を描いた詩人の自伝的3部作。現代語訳で登場。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー)(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「私どもの市街(まち)の裏町のどんな小さな家家の庭にも、果実のならない木とてはなかった。青梅の頃になると卵色した円いやつが、梢一杯に撓(たわ)み零(こぼ)れるほど実ったり、美しい真赤なぐみの玉が塀のそとへ枝垂れ出したのや、青いけれど甘みのある林檎、杏、雪国特有のすもも、毛桃などが実った。
私どもは殆ど公然とそれらの果実を石をもって叩き落したり、塀に上って採ったりした」(「幼年時代」21Pより)
一読すれば、どうということもなく感じるさりげない日常回想の描写である。私がちょっと頭がおかしいのかもしれない。しかし、この部分を3〜4回繰り返し読んでいるうちに、目頭が熱くなってきてしまった。特に最初の一文…。
いや、「頭がおかしい」とか「馬鹿なもので」「寡聞にして」などといった謙虚さを装った安易な逃げを打つのは、この誠実な自伝的小説集を説明するのにふさわしくはないだろう。「書く」ことを選んでいるのに、わざわざ後退させるのはおかしい。自分の内面が何に動かされたのかを、少しでも分析していかなくては…。
気分が滅入ることがいくつか続いている。てっとり早い娯楽でスカッと気分を一新するつもりなら方法はいくつかある。敢えて荒治療をしないでおこうという気持ちが支配するのはなぜなのか自分でもよく分からない。だが、もしかしたらこのようなしっとりした本を味わいたいがためかもしれないと思う。貪欲なことである。
ひたひたと忍び入ってくるような日本語で書かれた、昔の日本人のつつしみ深い美しい暮らしの文章を読んでいると、時折、幻想小説を読んでいるような気にさせられる。失われたもの、決別したものへの哀切を、抑制のきいたメランコリーを保って書くことに成功している作品は、「まぼろし」を書くことに通じるのではないだろうか。
ちまちました身辺雑記的な小説を読んでしまい、「私小説なんて」とげんなりすることもあるが、きれいな箱庭のように提示される「まぼろし」は、ひとつの虚構世界を成り立たせる。首尾よく箱庭の外の広い世界をも投影させることができているならば、それは本格小説と同じ味わいにもなろう。本格小説にしたとて神が宿るようにと細部を大切に書くのであれば、両者はアプローチが違うだけということもできる。
「幼年時代」「性に目覚める頃」「或る少女の死まで」の各篇に現れるのは、現実生活にモデルがいたと思しき、しかしどこか「まぼろし」のような女性たちである。出戻りの義理の姉、養家の寺に出入りする手癖の悪い女、下宿先の無邪気な少女——ここに登場する女性たちは、家と近隣の小さな世界で、ひっそり小鳥のように暮らしている。そして、日の当たらない日本間の隅にある陰影に重なると、そのまま消え入りそうなはかなさをたたえている。
木登りして果樹の実をくすねる元気な少年たちが、立身出世を期待され陽の光さす表の道を行こうというときに、まだ恋とも呼べないかすかな思いが月影のような女性たちへ向けられ、心に陰を作る。陰が濃いほど、ものの色はより鮮やかに明るく映る。制度がどうとか差別がどうとかいう見方も勿論あるけれども、光と陰影とが豊かに響き合っていた時代への憧憬や郷愁にひたされる。







