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沖縄悲遇の作戦 異端の参謀八原博通 新装版

  • 出版社:光人社
  • サイズ:16cm/426p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-7698-2218-9

沖縄悲遇の作戦 異端の参謀八原博通 新装版 (光人社NF文庫)

稲垣 武 (著)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:90025pt
  • 発行年月:2004.1
  • 発送可能日:7~21日

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4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2011/04/02 21:01

彼が「異端」であったところに日本の悲劇がある。そして、今も。

投稿者:yjisan(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 いわゆる「本土」に住んでいると見落としがちだが、沖縄では今年もまた、先月末に沖縄戦没者遺骨慰霊納骨式が行われた。沖縄戦の開始が1945年3月末だからである。3月は東京大空襲の月であり、沖縄戦開始の月であり、そして今回、東日本大震災の月になった。

 太平洋戦争中、米軍が最も大きな犠牲を払ったのは沖縄戦であった。米軍は約1ヶ月で沖縄を攻略できると考えており、そのため支援の高速空母機動部隊も数週間で沖縄周辺海面を去ることができると見込んでいた。しかし実際は82日間にわたって地上戦が繰り広げられ、その間、上陸支援艦船と補給用輸送船は神風特攻の猛威にさらされた。そのため米空母機動部隊は3ヶ月も沖縄近海に張り付くこととなり、米軍の作戦は大幅に遅延した。地上戦では7613人が戦死または行方不明となり、31807人が負傷した。戦闘神経症患者など戦闘によらない死傷者は26211人にも達した。沖縄作戦に従事した米艦船の34隻が沈み、空母・戦艦を含む368隻が損傷した。海軍将兵4907人が戦死または行方不明となり、4824人が負傷した。
太平洋艦隊司令長官のチェスター・ニミッツ提督が「海軍は1日に1.5隻の割合で艦船を失っている」と陸上部隊(第10軍)の進撃の遅滞を批判するなど、アメリカの陸海軍の対立も激化した。

 沖縄での地上戦の作戦を立案したのは、日本帝国陸軍第32軍の高級参謀でアメリカ留学経験のある八原博通大佐であった。八原は軍刀組でありながら、ドイツ流の華麗な作戦と精神論がもてはやされた当時の日本陸軍にあって堅実な作戦と合理的判断を重視するという異端の軍人であったため、軍主流派から疎まれ出世コースから外れてしまった。太平洋戦争劈頭のビルマ作戦参加後は、陸大教官に左遷された。その後、ようやく南西諸島守備軍に配属されたが、これも八原が陸軍中央から評価されていなかったからである。この時期、大本営は「米軍がマリアナを突破して沖縄にまで殺到することはあり得ない」と楽観視しており、閑職を八原にあてがったつもりであった。しかしマリアナ失陥によって沖縄は急遽「決戦地」と位置づけられることになり、俄に戦力が増強された。期せずして八原は最前線の参謀となったのだ。

 ところが程無くして、大本営の誤った敵情判断による防衛戦略の見直しにより、沖縄防衛の要であった第9師団が台湾に引き抜かれてしまう。約束されていた補充師団も到着しないという状況に至って、八原は大きな決断を下す。すなわち、航空部隊の支援を受けての水際撃滅戦という(米軍との圧倒的な火力差を無視した)大本営の非現実的な作戦構想を斥け、洞窟陣地を築いてそこに籠城し、徹底した戦略持久作戦を展開するという大転換を行ったのである。

 八原の作戦は功を奏し、巧妙適切な陣地編成と砲兵力運用によって、米軍に多大の出血を強要した。しかし八原作戦の本質を理解しようとしない大本営や第10方面軍は第32軍を「腰抜け」と考え、攻勢作戦への転換を督促し続けた。一方、第32軍司令部でも、一寸刻みになぶり殺しにされているような戦闘の展開に神経がまいってしまい、決着を付けるべく、攻勢を望む意見が支配的になっていった。八原は「陣地を捨てて絶対優勢を誇る米軍に対し攻勢をとれば、全滅は必至」と反対したが、牛島満軍司令官はついに総攻撃を決定した・・・・・・ 


 滅びの美学に酔いしれる周囲の将官士官に対する八原の視線は冷ややかだ。以下に八原の手記を引用する。
「感情的、衝動的勇気はあるが、冷静な打算や意志力に欠ける。心意活動が形式的で、真の意味の自主性がない・・・(中略)・・・死を賛美し過ぎ、死が一切を美しく解決すると思いこんでいる・・・(中略)・・・勝利や任務の達成を忘れた死は無意味だ。・・・(中略)・・・戦術が形式的技巧に走って、本質を逸する」。
空理空論や希望的観測を排して客観的な事実に則った現実的・合理的な意見を主張し、圧倒的多数に支持された無謀な作戦案を容赦なく糾弾した八原が、「空気が読めない悲観論者」として軍内で異端視されたであろうことは想像に難くない。しかし世界標準から見れば、八原のあり方こそが軍人としての模範であり、玉砕や自決に走る日本軍の方が「異端」である。


 そして作者が指摘するように、形骸化した前例に拘泥し組織内融和を重視する日本人のエートスは、戦後も何ら変わるところはない。それは今回の福島原発事故における政府・東電の醜態を見れば明らかだろう。
またマスコミは「福島50勇士」を賞賛するが、そもそも欧米では当たり前に配備されている原子力災害用のロボットが日本にないことがおかしい。結句、下請けに圧力をかけて「決死隊」を結成する始末だ。日本人の人命軽視のメンタリティーは、「特攻作戦」を連発した太平洋戦争の頃から変わっていないのだ。現場作業員の勇気には敬意を示すべきだが、これを「美談」にしてはいけない。それは「特攻作戦」の肯定に繋がるのだから。

 
 我々は今なお、八原に突きつけられた課題を、克服できずにいる。
私には、そう思えてならない。

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