- 出版社:文芸春秋
- サイズ:16cm/347p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-16-716941-X
関東大震災 新装版 (文春文庫)
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- 税込価格:570円(16pt)
- 発行年月:2004.8
- 発送可能日:24時間
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ユーザーレビュー- 「関東大震災 新装版」
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2011/08/07 23:42
災害下の人心を冷静に見透す記録文学
投稿者:拾得(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
3月11日の東日本大震災以後、同じ著者の「三陸海岸大津波」とともに、改めて広く読まれているのが本書である。たいていの書店には並んで置いてあるようだ。震災以後4ヵ月、関連書籍は数多く積まれている。単に「著名人が何かをちょっと書いた」程度の、首をかしげたくなるような本もあるが、吉村氏の2作は今なおこの国に必須の書といってよいだろう。
同じ著者が同じ「震災」を扱った本とはいえ、両著は重きの置き方が実はだいぶ異なっている。「三陸」のほうが「証言」と「対処」によって構成されているとするならば、本書の重心は「証言」と「人心」におかれている。災害などを扱っている書を読んでいるとき,懸命かつ適切な対処がなされている記述を読むと、ほっとするものがある。本書でも、バケツリレーで町の類焼を免れた話などがあり、読んでいる方が励まされる。しかし本書で紙幅が費やされているのは、見出しとしても掲げられている「人心の錯乱」である。「あとがき」にあるように、両親の体験談になじんだ著者が「人心の混乱に戦慄した。そうした災害時の人間に対する恐怖感が、私に筆をとらせた最大の動機である」という出発点ゆえでもあろう。
ここで「人心の錯乱」として、具体的に取り上げられているのは、各種の流言、大杉事件、避難民の生活、犯罪などである。おそらくそれらの中でも、最も大きくかつ複合的なものとして取り上げられているのが、朝鮮人蜂起の流言とこれを信じた自警団などによる朝鮮人虐殺である。すでに歴史上の知識として広く知られてもおり、背景としてどのような心理的要因があったかもしばしば議論されている。また、この混乱の中、日本人自身が殺されたケースもあることも知られている。
本書ではどのようなルートでこの流言が出まわり、具体事例としてどのようなことがあったのか、また、流言の根拠にもなった日本人自身による略奪行為など、丹念に事実を重ねていく。さらに、流言に踊らされた警察などが電信などで、「事実」として発信したことが、よりこの問題を根深いものにしたこと、そして、事実無根に気がついた警察自身が、これをなんとか消そうとしたものの自身も攻撃の対象にもなったことも書き込まれている。そのように強力にこの流言と虐殺とは広がった。なお、警察発表では被害者は200余名だが、在日団体の地道な調査を参考にした吉野作造らによる計算では1府1市6県で2600名をこえているという。
さてこう書くと、「パニック時の群集心理は怖い」というように、本書の話が落ち着くかに見える。しかし、本書ではそれ以上の群集心理の分析がなされているわけではない。著者の筆はごく冷静に事実を重ねていく。怒りや嘆きをにじませてもよさそうなのだが、それもない。それがこの著者のふだんからの特徴とも言えるが、どうも本書はちょっと違う。丹念に読むと、「騒擾を好む一部の者」というフレーズが何度か使われていることに気がつく。読み流してしまいそうな決まり文句にも見えるが、パニックに陥っているはずの群衆の中にいる確信犯的な存在を読者に知らしめる。その者たちをこそ、筆者は冷静かつ執拗に追いつめようとしていたのではないか。そんな著者の気魄を感じた。
12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2005/07/03 05:23
関東大震災時の教訓が今も十分には活かされていない
投稿者:未来自由(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
1923年(大正12年)9月1日の関東大震災を、地震科学、天災と人災の側面、人々の心理(朝鮮人虐殺)、権力者の動向(大杉栄虐殺)などを、体験者の証言を聞き取りながら多方面から描いている。
あとがきに「私の両親は、東京で関東大震災に遭い、幼児から両親の体験談になじんだ。殊に私は、両親の口からもれる人心の混乱に戦慄した。そうした災害時の人間に対する恐怖感が、私に筆をとらせた最大の動機である」とある。
それにしても、吉村昭の探究心には感心する。何十年も前の事件をほんとうに丹念に追っている。『長英逃亡』にも感心したが、あらためて感心した。
さて、関東大震災に関わる多方面の調査であるためにすべてについて述べることはできない。印象に残ったところを紹介してみたい。
列挙するため、誤解をしないでほしい。本書は小説のように読める書であることを言っておきたい。
ひとつは、防災面の分析である。関東地方での大地震予測を発表した地震学者は、防災の必要性を主張していた。特に出火に関わる点である。文明の発展による水道管の普及により、防火水槽が減少し、震災時には水道管の破裂などにより防火が不十分であるとの指摘である。
阪神淡路大震災の実態からみて、関東大震災時の教訓が活かされていないし、その後も十分ではないことを考えると、人災の大きさを重視することの大切さを考えさせられる。
もうひとつは、朝鮮人虐殺、社会主義者虐殺の実態である。前者の背景分析と人心の分析は優れている。韓国併合という侵略行為のあとだからこそ、朝鮮人が震災に便乗して復讐するのではないかという恐れが、デマ情報を妄信した。そして、新聞や警察も誤報を鵜呑みにした。政府・警察の責任は重大であると、著者は糾弾する。
ただ、政府・警察のミスのように描かれている点には疑問を感じる。積極的に扇動した事実はないのだろうか。この点への踏み込みは不十分だ。
その典型的なあらわれが、平沢計七、河合義虎、大杉栄などの虐殺事件である。政府は、韓国併合後という時期に、社会主義者と朝鮮人の共闘を恐れていた。だからこそ、震災のドサクサに社会主義者たちを弾圧し虐殺するという暴虐を実行した。朝鮮人虐殺は群集の妄信であり、社会主義者虐殺は確信犯的行動だと分離して考えるのは、浅い見方だと思うのは私だけだろうか。
他にも、評価したい所や、疑問符を投げかけたい所がある。しかし、本書が描こうとした視点には大切なことが含まれていることを言っておきたい。
今でも、十分に考察すべき内容を含んでいる。一度読んでみてはどうだろうか。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2011/10/21 18:58
決して忘れてはいけない、震災の記録の書
投稿者:ゆこりん(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
1923年9月1日午前11時58分、平和で穏やかな暮らしが
突如破壊された。激震は建物を倒壊させ、人々を恐怖のどん底に
突き落とす。だが、本当の恐怖はそれからだった。安全な場所に
避難してほっとしていた人たちを、今度は炎が襲った。地震後
あちこちから起こった火災が、恐ろしい勢いで広がったのだ。
黒焦げの死体、そして川には炎を逃れようと飛び込み溺死した
人々の死体が・・・。逃げ惑う人たちの阿鼻叫喚が聞こえてくる
ようで、読んでいて背筋が寒くなった。生活のすべてが破壊され、
大切な人を失い、すさんでいく人々の心。そこに、デマが流れる。
「朝鮮人」その言葉で人々はおのれを見失い、誤った情報に操られる
ように朝鮮の人たちに危害を加えていく。犠牲者の何と多いことか!
まさに狂気の世界だ。災害の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。
冷静な判断や行動、そして正確な情報の把握がいかに大切かが
よく分かった。この作品は、決して忘れてはいけない災害の記録の
書だ。ひとりでも多くの人に読んでもらいたい







