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器用に生きられない人たち 「心の病」克服のレシピ(中公新書ラクレ)

器用に生きられない人たち 「心の病」克服のレシピ (中公新書ラクレ)

斉藤 弘子 (著)

  • 全体の評価 11件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:77722pt
  • 発行年月:2005.1
  • 発送可能日:7~21日
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6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005/09/25 02:01

俗流若者論スタディーズVol.5〜症候群、症候群、症候群、症候群…〜

投稿者:後藤和智(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 本書を読んで痛感したんだが、本書で展開されているような論理が蔓延している現代の我が国って、はっきり言って「心の健康」ファシズム社会、とでもいうべき社会なんじゃないかと思う。皇學館大学の森真一助教授は、名著『自己コントロールの檻』(講談社選書メチエ)で、心理学的言説がはびこる社会の暗部を描き出したけれども、その本で発せられたメッセージがいかに徒労に終わっているか、ということは、本書のような実に下らない本が何の臆面もなく刊行されちまうことが如実に表してるんじゃないの?
 あたしはネット上で若者論を研究しているということで、真っ先に関心が向かったのは第2章「若者たちのシンドローム」なんだが、いやあ笑えたね。たとえば本書134ページから142ページで展開されている「スッポン症候群」ってのは、要は「自立できない「今時の若者」」は「スッポン症候群」だ、っていう与太話。ああ、こうして、本当は社会的な影響もあってなかなか自立できない若年層も、こういう暴論によって「心の問題」「自己責任」として処理されちまうんだな。いや、そもそも自立ってそんなにいいことなのかよっていうあたしの疑問も、「自立できない」=「スッポン症候群」!っていう俗流カウンセラーのご託宣によって消えちまうのか。玄田有史氏の本でも読んで出直して来い。
 108ページから114ページにおける「だれかどうにか症候群」ってのも噴飯物。この「症候群」の内容というのは、《我慢したり無理しなくてもだれかがやってくれることに慣れてしまったためでしょうか、「だれかがどうにかしてくれる」とあてにして、自ら積極的に対処しない若者たちが増えています》(109ページ)というものらしい。なんだ、結局はどこぞのコメンテーターの愚痴に「症候群」の名前を冠して深刻な「心の問題」にしただけかよ。それ以外にもこの章には「コンビニエンス症候群」「のび太症候群」なんていう言葉も出てくるけれども、これも単なる愚痴だ。検証するに値しない。
 ここではあたしは第2章だけを採り上げたけれども、他の章もはっきり言って同様。要は、「心」のスキルを持った著者が、現代で問題となっている(勝手に問題化されている)事象に関して「それは心の問題だ」とご託宣をして、それに対する《「気づき」のメソッド》を与え、《「生き直し」》を支援する、という内容。なんかこの著者に「リセット症候群」という「症候群」を冠したくなってきた。誰でも自分の「心の問題」をリセットすれば清く正しく生きられる、という錯覚。
 著者に問います、このような本を出して悦に入っているあなたは「正常」なのですね、と。
 しかし、本書を読んでいると、いかなる「願望」が心理学主義的言説をはびこらせ、そして「心の健康」ファシズムを生み出してきたか、というのが如実に分かるというものだ。巻末でさまざまな「症候群」が採り上げられているのだが、そこでやけに目立つのは「若者たち」という言葉。若年層を(勝手に)「心の問題」の持ち主として規定しちゃった「症候群」は、特に平成9年ごろに乱発されている(「だれかどうにか症候群」平成7、「のび太症候群」平成9、「しつけられない症候群」「出世したくない症候群」「自分が好き症候群」「携帯症候群」「もう辞めたい症候群」「プログラム起動症候群」全て平成10)。これだけ書き出して、もういい加減にしろよ、とあたしは徒労感を感じた。
 本書の如く、万人が「心の健康」に目を光らせ、自らの気に食わない行動はみんな「症候群」と診断されるという監視社会。これが我が国の近未来だとしたら、あたしは気が滅入っちまう。
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