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北風のうしろの国 新装版

  • 出版社:早川書房
  • サイズ:16cm/488p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:4-15-020398-9

北風のうしろの国 新装版 (ハヤカワ文庫 FT)

ジョージ・マクドナルド (著), 中村 妙子 (訳)

  • 全体の評価 4.53件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:92426pt
  • 発行年月:2005.9
  • 発送可能日:1~3日

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ユーザーレビュー- 「北風のうしろの国 新装版」

全体の評価
4.5
評価内訳 全て(3件)
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10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2005/10/16 17:23

英国ファンタジーの祖による、物悲しくもいとおしい物語。北風の妖精に誘われ、この世ならぬ場所に行って戻った少年の成し得た「善」、生き得た「生」。

投稿者:中村びわ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 これはどうしようもないことだとは思うのだが、世のなかには「薄幸」としか人の目には映らない人がいる。身内のトラブルに巻き込まれながら愛憎の裏おもてに翻弄され、すっかり神経をすり減らしたところを病に襲われる。したところが心の支えにしていた人との別離を余儀なくされる。
 こう書き出しているだけでも何か残酷な気がするが、人のそういう目に付き合って下手な口出しをあれやこれやとするよりは、そっとしておいた方が良いようにも思われ、何となく距離を置いてしまう。それが優しい選択なのだと自分に言い聞かせるわけだが、実のところ、自分がそうした不幸に感化されないようにという利己心が働いているという自覚もある。しかしながら、「薄幸」はあくまで他者から見たときの印象に過ぎない。なぜなら、「幸福」は点数で評価されたり、勝ち負けを判定する対象ではないからだ。
「薄幸」に見える人の「幸福」は、その人の身の内に宿っている。現在がたとえ波瀾万丈であったとしても、本人は幼い日、母親に存分に愛された記憶をいつまでも大切に暖かなものとして心に持ちつづけているかもしれない。あるいは、ベランダの鉢に育つ小さな草花のみどりに、日々何とも言えない充実を感じているかもしれない。幸福とは誇示されるべきものではなく誰かに認めさせるものでもなく、他者のうかがい知れない場所を満たす何ものかなのだろう。
 本書『北風のうしろの国』は、貧しい少年と美しい女性の姿で現れる「北風」との交流を描いた物語で、英国幻想文学の祖と言われるジョージ・マクドナルドの作。英国児童文学の源流とも言われるため、若い日に子どもの本について知る目的で読んだことがあるのだが、「何やら物悲しいお話」程度の感想で、その時は留まってしまった。
 こうして短くはない時を置いて、新しい装いの本を、まるで初めて読む小説のように読んでみると、ここには「薄幸」にしか見えないけれども実は「幸福」にくるまれているのではないかと思える少年の生が描かれている。そのことに胸を衝かれる。
 マクドナルドの最高傑作との誉れ高い『リリス』ちくま版解説で、故・矢川澄子が引いている言葉——そこにやはり私も立ち止まった。
——寒いのは北風と一緒でなく、北風と一緒でいないからなのに(21-22P)
 北風は身を暖かく守るすべを持たない貧しい人びとに襲いかかって震え上がらせ、また、勢力を増して災いをもたらす。それは人の人生設計や野心を狂わせたり、命を奪う行為にもつながる。だが、そのような北風に選ばれ、魅了され、到来を待ちかねる少年ダイアモンドは、他の人間のように北風をまがまがしいものとは考えない。北風と共にあるということが「薄幸」に見え、それでいながら本人にとっては「幸福」という、うまく説明し切れない状態が描かれた不思議な物語である。
 11人ものたいそうな子持ちであったマクドナルドは、あるいは、同じ自分の子として生れながらも、11人各々に驚くほどの個性の差異があることを感じて暮らしていたのだろう。そして、幸不幸の量が均等ではないことを切実なものに感じていたかもしれない。中には長く生きられない子もいて、北風のうしろにある、この世ではない国を想像したのかもしれない。
 少年と北風の交流が描かれる最初の部分と最後の部分にはさまれ、物語はしばらく夢想世界的なファンタジーから遠ざかる。そこでは、産業革命期のロンドンで馬車の御者を生業とするダイアモンドの一家の暮らしぶりを中心に、上流階級と下層階級で成り立つ社会が表されている。北風が連れ出す世界と対照を成すように、病気で床に伏せた父親に代りけなげに働く少年の奮闘がいきいき書かれている。本を閉じても、少年のことを昔知っていたかのように鮮明に感じられるのは、「北風のむこう」以上に「北風のこちら」が念入りに描かれていたからだと知る。

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2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2006/02/02 01:46

中村妙子の名訳によるジョージ・マクドナルドの代表作

投稿者:Shinji(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 ジョージ・マクドナルドの「北風のうしろの国」は、貧しい御者の息子ダイアモンドと「北風」を巡る長編ファンタジーです。
 マクドナルドのファンタジー作品には珍しく、本書の舞台は、彼の同時代の英国です。そのため、時代や社会や人の生き死にについて、マクドナルドの見方が、最も率直に、最もよく現されており、それがファンタジーという形式の中に、彼ならではの手法で織り込まれています。
 物語の構成や流れは決して流麗とは言えませんが、それが返ってC.S.ルイスの言う「真実なものが持つゴツゴツした手触り」を感じさせ、深い味わいになっています。
 最後になりましたが、中村妙子さんの翻訳は深みのある素晴らしい訳です。マクドナルドの名作が、長らく絶版になっていた中村さんの名訳で復刊されたことを心から喜んでいます。

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2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/03/14 22:18

北風のうしろの国を考察する

投稿者:野棘かな(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

これはまったく個人的な思いの書評です。

※そこから戻ってきたとき、かれは大部分のことを忘れており、記憶していたことにしても、話すのがむずかしいらしかった。※
※目が覚めると、誰かがかれの上に身を屈めていた。北風ではなく、母親の顔が目に映った。ダイアモンドは母親に向かって手を差し伸べた。
母親は息子を抱きしめてわっと泣きだした。泣きやんでもらいたくて、ダイアモンドは母親の顔に何度も何度もキスをした。
キスは涙の特効薬だが、必ずしもそのために涙がぴたっと止まるわけではない。
「どうしたの、母さん?」
「ああ、ダイアモンド、おまえはとってもひどい病気だったのよ」
「まさか。ぼく、北風のうしろの国に行ってきただけだよ」
「一時は死じまったのかと思ったくらいだったわ」
そのとき、お医者さんがはいってきた。
「おやおや、今日はだいぶ具合がよさそうだね」とお医者さんは穏やかな声で明るくいった。※

原書は読んでいないので、翻訳された文書で想像すると
北風のうしろの国とは、今生きているこの場所がこの世なら、あの世のことだろう。
死んだあとに魂が向かう、かなたの岸、かしこ、うしろの世界、死者の世界、地獄、無、あるいは極楽浄土、理想郷、天国。
ダイアモンドは子どもながら、死後の世界へ行き、母親の泣いている姿をみて帰りたくなってこの世に戻った。
生死をさまよったダイアモンドの魂が彷徨い見たのは、死後の世界であろうと想像するとジョージ・マクドナルドの死生観が、直接ではなく、遠まわしに現れているといっていいだろう。
生死を彷徨ったダイアモンドが持って生まれた素養である純粋な魂と類まれな想像力により、北風という幻想の世界の人と交流し導かれて知ったあの世(北風のうしろの国)、幻想の世界の北風と類まれな想像力で交流し魂を揺さぶられながら、少しずつ彼を取り巻く世界に影響を与え、ゆるやかに現実が変わり始めるそんなファンタジーだと思いたい。

※「あなたって親切なんだな、北風!」
「わたしは公正なだけよ。親切というのは公正だということに過ぎないわ。わたしたちみんな、公正でなくてはいけないのよ」※

原書は読んでいないので、私の意図する感覚は違っている可能性もありますが、とにかくこの本は読むのに時間がかかった。
きっと楽しいファンタジーだと想像していたのに、ワクワクもしなかったし、飛ばし読みしたり、また戻ったり、なかなか読み進まなかった。
ジョージ・マクドナルドが大人もこどもも読める本ということをベースに書いたはずなのになぜこうなるの?というくらいこの本は意味不明な部分言い回しが多い。
もっとストレートに言うべき表現するべきことが回りくどくて、まるで謎説きを要求されている気分になることがあった。
キリスト教徒として表現の規制でもされていたのでしょうか?それとも・・・。

訳者はファンタジーをその人なりに理解して、この本を訳したと思いたいのですが、もしかしてコンセプトが違っていたのではないでしょうか?
根底を流れているはずのジョージ・マクドナルドの真意が読み取れないのです。

訳者あとがきで、ロンドンの貧しい家庭の少年云々と評すること自体、そこじゃないでしょう?と思いました。
ピーターパンのことを貧しい家庭から飛び出したとは表現しませんよね。
時代背景、それはそれとして、でもそれだからこそ、空想や幻想の世界の交流との対比で浮き彫りにされるダイヤモンドがのびのびと自由に幻想の北風と行動することの楽しさ、現実の世界から飛び出して違う世界を知る喜びがあるはずなのに・・・。
でも、もし、ジョージ・マクドナルド自身が、Poverty、 poor(貧しい家庭の少年とか、貧乏な階級の少年)とダイアモンドのことを表現しているのなら申し訳ありません。

ジョージ・マクドナルドが、わが子の死に直面し、苦悩し
「いとしい冠の花たちはこの世から次々と散っていくけれど、それはかしこで、いっそう美しい、より永遠な冠をつどい編むためなのだ」
と書いているというその死生観、ジョージ・マクドナルドの魂の叫び、肉体と魂の話を知れば知るほど、北風のうしろの国はかしこ、かなたの岸ではないのでしょうか?
北風のうしろの国をかしこと意識するともっと違った感覚の幻想物語、ファンタジー「AT THE BACK OF THE NORTH WIND」となると思うのです。

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