- 出版社:新潮社
- サイズ:16cm/577p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-10-141908-6
文人暴食 (新潮文庫)
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- 税込価格:780円(22pt)
- 発行年月:2006.1
- 発送可能日:1~3日
- 本
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ユーザーレビュー- 「文人暴食」
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2007/08/06 03:04
ふたたび名作を味わうためのレシピ
投稿者:仙人掌きのこ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「我輩は猫である」と鉛筆で百回なぞっても、夏目漱石にはなれない。しかし漱石が食べた味そのまま、というカキアゲを食べる事は今でも可能だ。(私も食べた)憧れの人物の好物を知りそれを食すという行為は、いささかミーハー的ではあるけれども、同一化の願望を満たす最もお手軽な方法ではないだろうか。
「文人暴食」は同じ著者による「文人悪食」の続編である。37人ずつ、計74人の日本を代表する文人たちの食卓・酒席のエピソードを集め、日本の近代文学史を「食」の観点から語ろう…という試みだ。一見、誰でも思いつきそうな平凡な企画のように思われる。しかし、この2冊を書くために、著者は十年の歳月を費やした。全集はもちろん研究書もひもとき、明治・大正・昭和初期の古雑誌の囲み記事までチェックしたそうだ。平凡どころか異常な執念すら感じさせる作業だ。
結果、そこに浮き彫りにされるのは、文人たちの生身の姿である。曰く、青い目の日本人・小泉八雲は和食を愛したが、旅行先の朝食では生卵8、9個と牛乳を飲んだ。曰く、「赤い鳥」を創刊した児童文学の父・鈴木三重吉は芥川の原稿に朱をいれるほどの自信家で、酒を飲むと本領を発揮して誰彼なくからんだ。曰く、とぼけた味わいの詩を残した草野心平はプロレスラーのような巨漢で、焼き鳥の屋台をひいていた事があった…云々。
作品は純粋に作品として評価するもので、写真週刊誌的な興味を加味すべきではない…という考え方もあるだろう。しかし、その作家がどんな家庭に育ち、何を食べ、人生のどんなタイミングでその作品を書いたかを知ってから読めば、また違ったものが見えてくるはずだ。メニューを見ているだけではわからない、レシピを聞いて初めて気付く味がある。むかし教科書で読んで退屈だった作品に、意外な輝きを再発見するかもしれない。またこの本で興味をもって「食わず嫌い」だった作家にチャレンジするという、逆引きも面白いのではないか。実際、私も数冊の文庫本を購入した。この本は読者を今一度、近代文学の世界へ誘う魅力に満ちている。ただし、ひとつだけ注意したいのは、これは著者・嵐山光三郎氏の主観で書かれているものだという事である。取材の綿密さは驚くべきものだが、誤解や偏見がないとは言い切れない。特に交流関係・男女関係においては、しばしばスキャンダラスで断定的な描写が散見されるように感じた。あるエピソードに興味をもったら、別の資料をあたって自分なりの判断を持つ事が肝要だろう。
私は下戸なので、文人たちの酒量が気になった。
酒が弱かったのは……夏目漱石・有島武郎・二葉亭四迷・芥川龍之介・伊藤左千夫・武者小路実篤・川端康成・佐藤春夫・荒畑寒村・宇野浩二・金子光晴・深沢七郎。
逆にウワバミは……幸田露伴・種田山頭火・北原白秋・石川啄木・萩原朔太郎・太宰治・山本周五郎・南方熊楠・室生犀星・吉田一穂・草野心平
なかでも酒乱は……梶井基次郎・中原中也・国木田独歩・鈴木三重吉・尾崎放哉・若山牧水・久保田万太郎・稲垣足穂……
さて、酒量と作品の傾向は……それについて分析するのはまた次の機会にしよう。階下から、カレーの匂いが漂ってきた。







