パニックの手 (創元推理文庫)
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- 税込価格:756円(21pt)
- 発行年月:2006.5
- 発送可能日:7~21日
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商品説明- 「パニックの手」
黄昏の列車のなかで、ぼくは目を瞠るほど美しい親子と同席になった。妖艶で饒舌な母親と、うまく舌が回らず涙ぐむ娘。だが母親が急にぼくを誘惑しはじめ、逃げようとしたとたん、「いか、か、か、かないで、お願い!」娘が腕にかじりついてきた…。物語に潜む“魔”が筆舌に尽くしがたい余韻を残す表題作をはじめ、世界幻想文学大賞受賞作「友の最良の人間」など全11編を収録。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧- 「パニックの手」
| フィドルヘッド氏 | 9-33 | |
|---|---|---|
| おやおや町 | 35-126 | |
| 秋物コレクション | 127-138 |
ユーザーレビュー- 「パニックの手」
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2006/06/12 00:34
これが面白い?キャロルの長編はもっと面白いぞ!(その1)
投稿者:Leon(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
フィドルヘッド氏(Mr. Fiddlehhead): ジュリエットはエリックと離婚した後も義妹夫婦とは親交を保っている。40歳の誕生日も、彼らの家でささやかなパーティを催してくれた。義妹のレナからは美しい金のイヤリングのプレゼント。しかし、そのイヤリングはレナが贈るにはあまりにも高価な品だった。ジュリエットはその出所を探すうちに、義妹夫婦の家に住まう奇妙な同居人の存在を知るのだが・・・
「空に浮かぶ子供」の作中作だが、1つの作品として充分な構成であり、それだけに「空に浮かぶ子供」の小説としての贅沢さが改めて認識させられた。
おやおや町(Uh-Oh City): 大学教授のスコットは、子供も成人して愛する妻のロバータと二人暮らし。比較的金銭に余裕もあり、前に雇っていた家政婦の替わりを求めていた。求人に応募してきたビーニィ・ラッシュフォースは中肉中背に白髪交じりのショートカットという何の変哲もない中年の婦人だったが、その働きぶりは驚くべきもの。地下室やガレージまでピカピカに磨き上げるのは良いのだが、家の住人達すら忘れ去っていた品々を持ってきては目の前に突き出して捨てても良いかと尋ねる。ある日ビーニィがスコットのところへ持ってきたのは古い原稿。以前スコットが受け持った学生の手によるそれは、彼の家にあるはずのないものだった・・・
本書中最も長い作品で、日常から異常への急転直下が愉しめる。普通の暮らしの中に、突如死人が蘇って悪態をつき、神様まで登場するが、自分の人生が概ね順調だったと考えていた主人公が、その裏にあった家族の真実の姿を突きつけられる様子の方が生々しくて急転直下の度合いは高い。
秋物コレクション(The Fall Collection): 男は死にかけていた。癌の告知を受けたとき、自分の精彩を欠く人生を振り返った彼は仕事を止めて口座から有り金を引き出しニューヨークへ向かった。街で彼の気を引いたのは、普段なら決して立ち寄ることのないであろう最高級のイタリア紳士服店。二ヶ月分の給料に相当する衣装に身を固めた彼は、あても無く街をさ迷い、ぶらりと立ち寄ったバーで美しい女性と出合うのだが・・・
奮発して買ったスーツを美しい女性に褒められ、短い人生に生き甲斐を見出した男の物語。男の残り少ないエネルギーはその女性ではなく、ファッションに向かってしまうのだが、間もなく死ぬ身とあって告白することは思いも寄らなかったのだろう。ちょっとした贅沢は心理的なストレスを解消させる効果があるので、多少は宵越しの金も必要そうだ。
友の最良の人間(Friend’s Best Man): イーガンの足は、愛犬フレンドを助けるために電車の車輪に切断されてしまった。入院先の病院で、イーガンは7歳の少女ジャズと知り合う。年の差はあるものの、病人同士のよしみで親交を暖めていくうちに、ジャズは妙な事を言うようになった。彼女に言わせれば、フレンドの言ったことを代弁しているらしいのだが・・・
フレンドを代弁しているというジャズの態度自体は「子供にはままあること」で片付けられる種類のものだが、一つまた一つとそれが事実であるように思える証拠が出てくる部分が面白い。大筋は使い古されたパターンで、もう一捻り欲しいところだ。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2006/08/08 01:28
胃の弱い方は読まないでください——と言いたくなるくらいもやもやとすっきりしない読後感が病みつきになりそう
投稿者:たむ(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み始めてみると、一見なんてことのない話です。そこらへんの世間話とか噂話みたいな俗っぽい人間関係が描かれています。ワイドショー的ともいえる下世話な話には興味のない人間には、面白くもなんともありません。
ところがそこに、空想から生まれた人間とか、犬の言葉がわかる女の子とか、神さまだとか、あきれるようなおかしな発想が入り込みます。そこで作品の雰囲気が一気に幻想的になれば、まだふつうの幻想小説・ファンタジーなのだけれど、異世界にひきこまれるわけでもなければ現実が幻想に浸食されるわけでもなく、せいぜいおかしな人たちが隣に引っ越してきた程度の展開にしかなりません。不可解な存在が現れたならそれなりの反応をするのが普通の人間だと思うのだけれど、そのまま世間話を続けている感覚で話が進んでゆきます。これが不気味でした。読んでいてすっきりしない、もどかしい、胸がもやもやする。
そんなわけで読んでいるあいだじゅういらいらしっぱなしだったのですが、最後に至って今までの世間話感覚は何だったの?と思うほど突然に、非日常に突き落とされます。見事な切れ味。というよりも、読者を突き落としておいて置いてきぼりにしてしまうような尻切れとんぼ。読み終えてなおもやもやの残る作品集でした。
話自体はむずかしいものではないし、つじつまがあっていないわけでもありません。「フィドルヘッド氏」「友の最良の人間」「細部の悲しさ」「パニックの手」等々、どれも悪夢のような余韻を残します。
たとえば「フィドルヘッド氏」のラストは怖い。結末で描かれるあまりの悪意に、それ以前の内容はあまり記憶に残らなかったのですが、読み返してみるともやもやの原因が少しわかったような気がします。結末で描かれる悪意が怖いのはともかくとして、さてこの作品の粗筋はどういうものなのかというと、バツイチの女性が友人夫婦の家で見初めた男性は実は友人の空想の産物だったというもの。エキセントリックな子どもが空想の友だちを作りあげるというのなら理解できるし、そんな名作もたくさんあります。でも大の大人が空想の友だちを作りあげるというのは、それだけで不気味で怖い。ところがあろうことか語り手はそんな不気味な存在を恐がりもせずに恋してしまう。こんな語り手もそうとう気持ち悪い。メインプロット自体がとてつもなく不気味な話なのに、あたかもそんなの当然であるかのように筆が進められ、最後の悪意だけが本当に怖いかのごとくしれっと書かれてあります。恐怖というのが安心感と不安感とのあいだに落差を生み出すことだとすれば、本書では、拠って立つはずの安心が初めから不安定なので、落差自体が曖昧で素直に怖がれないのです。
「細部の悲しさ」という作品には、一つの殺人を隠すために連続殺人事件を起こす的な発想が描かれていて、殺人ならともかく“これ”は神さまでなくっちゃあならないというのはわかります。だからこの作品に神さまが出てくるのには必然性があるのだと思います。だけどその描かれ方はというとこれまた……。
切れ味鋭い怖さではなく、常にまとわりつくような不安感・不快感を味わってみたい方にはおすすめできる作品集です。







