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黒いカクテル (創元推理文庫)
世の中には、どんな些細な出来事も、語り口ひとつで冒険や、心臓へのひと太刀に変えられる、すばらしい能力を持つ人がいる…。こう語り出される表題作をはじめ9編を収録。キャロルを...
黒いカクテル (創元推理文庫)
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商品説明
世の中には、どんな些細な出来事も、語り口ひとつで冒険や、心臓へのひと太刀に変えられる、すばらしい能力を持つ人がいる…。こう語り出される表題作をはじめ9編を収録。キャロルを読む者はいつも、ふと顔を上げると、何処とも知れぬ場所に置き去りにされた自分に気づく。読んでいたはずの物語さえ、唐突に別の何かに姿を変えているのだ—砂漠の車輪や、ぶらんこの月に。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
熊の口と | 9-24 | |
---|---|---|
卒業生 | 25-38 | |
くたびれた天使 | 39-48 |
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混ぜるな、危険!
2006/08/15 23:42
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Leon - この投稿者のレビュー一覧を見る
原著を二分冊したその後編。
・卒業生(Postgraduate): ルイス・ケントは今、仕事は順調で円満な家庭も築き幸せを感じているが、ある朝目覚めると15年前そのままの様子の高校の寮にいた。しかし体や容貌は眠りにつく前と同様に32歳のまま。夢だと思いつつ授業には出たものの、微積分の公式などとうに忘れており、体の方も若者相手のフットボールの練習にはついて行けるわけもなく・・・
夢がなかなか覚めないためルイスは妻に電話をするのだが、そこでの会話が予想を裏切ってくれて愉しい。若い頃に戻って人生をやり直すという夢想は他の作品にも見られるモチーフだが、ここでは「悪夢」として描かれている。
・くたびれた天使(Tired Angel): トニーはスーパーで買い物をしている時に偶然知り合った男性と恋に落ちる。しかし、その男はトニーを以前から知っており、出会いも偶然を装った計画的なものだった・・・
偏執的ではあるが冷徹なストーカーによる一人称形式の作品。彼に狙われた女性トニーは、掌の上で踊らされるように彼と恋に落ちて最後にはビルから身投げしてしまう。盲目的でない怜悧なストーカーの語りに背筋が寒くなる。
・我が罪の生(The Life of My Crime): ハリー・ラドクリフは学生時代の知り合いであるゴードン・エプスタインと再会する。25年前、ハリーは冴えない一学生に過ぎなかったが、ゴードンの方は常に注目を浴びる存在だった。しかし、ゴードンが得ていた名声は須らく嘘によって慎重に築かれたもの。大人になったゴードンは、ハリーに対して自分は変わったと言うのだが・・・
嘘で人生を渡り切れるものではないと思うが、少なくとも学生の頃のゴードンは上手くやっていた。死ななきゃ直らないというタイプの虚言癖を持つ彼が、嘘を付けなくなった理由が御伽噺めいていて愉しく、ゴードンのようなタイプの知り合いがいるのであればほくそ笑まずには居られないだろう。
・砂漠の車輪、ぶらんこの月(A Wheel in the Desert、 the Moon on Some Swings): 医者から残り三ヶ月で完全に失明すると宣告を受けたノーマン・バイザーは、カメラを買うことにした。彼は様々なものをフィルムに収めていくのだが、失われる視力を補うような記憶に残る写真が撮れない。試行錯誤の結果、ノーマンは最も良い写真の撮り方を思い付くのだが・・・
ノーマンの思い付きとは、特殊メーキャップ・アーチストと肖像写真の専門家にコンタクトし、今後自分が老いて行くに連れてこのように変わるであろうと思われる容貌を予め撮影しておくというもの。失明後の将来、自分がどのような顔で人と対面することになるのか知っておくというのは良いアイデアに思われるが、結局は視力以上の第六感感の存在に気付くというスピリチュアルな結末に安堵感を得られる。
・黒いカクテル(Black Cocktail): イングラムは、最近の大地震でパートナーを失った彼のことを気遣う妹から、マイケル・ビラという男性を紹介されて付き合い始めた。マイケルは相手を愉しませる話術の才能の持ち主なのだが、ある日マイケルの学生時代の思い出話に登場する同級生のクリントンが、未だ15歳のままの姿で現れ・・・
話は二転三転するものの結末はあっけない。男性と女性は一つの完全な状態が分割されたものとする「赤い糸」の話があるが、本作では人間という存在は5つに分割されて生まれ来るという。性は確かに2種類しかないため魂二分割説には一定の説得力があると思うのだが、本作における「5つ」の根拠めいたものは手足の指の本数ぐらいで真実味が希薄。タイトルの意味に途中で気付くか読後に気付くかで面白さは異なるかも知れない。