紙の本
犯罪による社会不安ではなく、犯罪過敏社会が治安悪化と誤認識?
2010/01/24 21:32
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
浜井は犯罪学が専門であるが、以前は法務省の職員であった。芹沢は社会学者で、丁度近年の犯罪傾向について二人の考え方が近かったので、共著という形で本書が出版された。章単位で分担を決めている。
大まかな本書における主張の展開は次のとおりである。1章で浜井が統計を使ってわが国の治安悪化について疑問を呈している。2章で芹沢が犯罪の中でも、凶悪犯罪について人々の口で語られる有り様を紹介する。とりわけ子供が犠牲になった犯罪や猟奇的な事件についての一般の人々に関する感情を類推する。
3章も芹沢で、安心、安全、街づくりが喧伝される、地域防犯活動についてのコメントである。最終章は再び浜井が自分の刑務所勤務の経験を書く。罰が重くなり、その結果刑務所に受刑者が溢れたが、その受刑者の実態を報告している。そして、被害者の心情に重点を置くことで厳罰化の傾向に流れているが、結果的には防犯力の向上や犯罪の抑止力にはなっていないと主張している。
さて、やはり共著は難しいという実例が示されているようだ。二人が同じ主張をしているように見えるのだが、やはり論証の仕方が異なるせいか、ピンとこない。浜井の方は統計を用いているので、論理的に見える。たしかに、犯罪の認知は届出がなされたものに限定されるし、届出を受理するようになれば、同時に検挙を厳しく行わない限り、検挙率も低下する。したがって、発生率が上がり、検挙率が下がったからと言って、治安が悪化したとは言えないというのは、一理ある。
しかし、それならば治安が変化していないとか、良くなったというのも同じ理由で正しいとは言えない。2、3章ももっともだと頷ける面はあるが、自己の主張にとって都合の良い裏付けをしているに過ぎないであろう。
私が最も興味深かったのは、浜井の刑務所勤務の紹介である。実際の刑務所での受刑者の過ごし方がよく理解できた。また、受刑者の大半が社会的弱者である高齢者などであることも分かった。刑務所は受刑者の更生、矯正がその大きな目的である。このような刑務所の実態を見ると、犯罪者の再犯率を下げる努力もかなり苦しいこともよく分かった。
ただし、本書の主張がよく分からなかった。タイトルのとおり、現在は犯罪が社会不安を作り出しているわけではないということなのか? しかし、そうではないという証明は為されていない。犯罪件数や凶悪犯罪、あるいは子供が被害を受ける犯罪が昔より増えてはいないことを主張しているだけである。
せっかく、ここまで言うのであれば、二人の社会学者には犯罪防止に関する提言をしてもらいたかった。
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マスコミの報道などで治安が悪くなっているような印象を受けるが、実際はどうなのか。不安を煽っているだけではないかと書かれた本。
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浜井浩一氏の書いた部分が読みたくて買ったのですが、他誌で以前に書かれている内容とほぼ同じだと・・・。まぁ、雑誌に目を通している人ばかりではないですし・・・ね。
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統計ってのはいかようにも見せられる。データの意味を理解していかなければ。今の治安悪化(のイメージ)はメディアのミスリードか。
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日本の安全神話は本当に崩壊したのだろうか?という根源的な問いから始まる本書は、日本社会の問題点を「犯罪」という視点から精緻に分析した新書とは思えないほど完成度の高い一冊である。
一章では浜井氏が種々の統計の的確な分析により、政治家やメディアで「言論人」と呼ばれる人々が「治安は悪化している」と叫んでいることがいかにいい加減で根拠の無いことかがよく分かる。論文を下敷きにして書かれたものだけあって非常に緻密であり、それでいて分かりやすい。この章だけで一冊の新書を成しうる完成度である。社会学者ジョエル・ベストの「鉄の四重奏」schemeは犯罪「不安」の悪化プロセスを分かりやすくモデル化していて大変参考になった。
2章では芹沢氏が犯罪総数は減少しているにもかかわらず特定の「凶悪」犯罪がなぜこれほどにクローズアップされ、またそのクローズアップされた報道がどれほど実社会に影響を与えているかということを社会学的観点から解き明かしている。犯罪者は社会の歪の犠牲者という論調から怪物としての犯罪者を排除すべきという論調へと変化していく時間的・犯罪史的プロセスが説明されていた。
3章は「犯罪不安社会」の出現と「地域コミュニティの再生」がいかにリンクし、またそれがどういう帰結をもたらすのかが記される。大変逆説的ではあるが、地域コミュニティの再生を志向すればするほど人間相互の不信は煽られるということである。
そして最も衝撃を受けたのが4章。刑務所の社会的役割(受刑者を断ることは出来ない)を前提に、弱者切捨ての縮図としての刑務所の実態を描写している。例示として挙げられた刑務官と受刑者との面接シーンは、滑稽でありながらも衝撃的である。また、無期刑の受刑者が15年ほどで仮出所するという言説がいかに根拠の無いものであるかをデータを元に述べている(恥ずかしながらこの事実は知らなかった)。著者が法務省出身者で、刑務所運営の現場に居ただけあって説得力のあるものだった。
最後に、本文より・・・「官公庁の公的資料である白書は、その発行までに(中略)いくつものスクリーニングを経る必要があり、その過程でいろいろな利害調整や他の政府見解との整合性がチェックされる。つまり白書の文章には相当の手が入ることになる。統計は客観的な数値であるためにあまり手が入らない。白書を資料として分析するコツは文章にとらわれずデータや統計を虚心坦懐に読み取ることである。白書の命はデータにあるのだ。」
公開資料分析の姿勢について、その大切さを端的に示しているといえる。
総じて新書とは思えない完成度の高さだった。警備会社の勃興に象徴される市場としての「犯罪対策」が成立してしまっている今、本書にある「信仰に基づく犯罪対策」がはびこっている現状は変わるのだろうか?「治安が悪化した」原因は規範意識の低下でもなんでもない。そもそも治安なんて悪化していないのだから。「古きよき時代」へのノルスタジーでしかない「美しい国」を標榜する安倍首相初めとする政治家に是非読んで欲しい一冊である。
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【社会】(2007年8/4)
私自身、「犯罪は増えている、凶悪犯罪は特に悪質化している」と思い込んでいたが、そのような一般の意識が実はメディアの論調変更の影響による部分が大きいという話。正直、目からウロコがとれた思いがした。宮崎勤と小林薫の事件を比べたとき、事件の内容や加害者の異常性はそれほど差は無いにも関わらず、メディアの取り上げかたが全く違ったという話は納得させられた。10数年前の「加害者にばかり興味がいく風潮」は自身もおかしいと感じていたが、現代の「不審者(と思わしき人)は社会から排除していく」という風潮は、よもすれば追い詰められた犯罪者を増やしかねないということで、危険ですらあると感じられた。読み終わってなぜか「雇用問題を何とかしなければ」という考えになっていた。
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犯罪白書を見ると凶悪犯罪は減少傾向にあるのに、マスコミに煽られている現状をキチンと説明しているのが◎
隣人を犯罪者予備軍としてしか見做せない社会なんてイヤです。
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治安悪化という言説を統計データの分析で打ち破った最初の章が、すべて。環境犯罪学への批判もよかったけど。
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メディアに惑わされない目を持とう、っていう本。
刑務所の実態の側面を知ることができたのでよかった。
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取り締まられるのは誰なのか?
規制が進めば進むほど「犯罪者」「法律違反者」は、実際の治安とは関係なく増えます。昨日まで問題なかったことが、今日から違法になるのだから当然ですよね。「犯罪者予備軍」を「犯罪者」として取り締まり出すと、取り締まられない人間はいなくなります。絶対に犯罪を犯さない事を証明する事はできませんから。周りの不審者を取り締まって安全になったつもりが、自分が不審者として取り締まられる事になりかねません。
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統計上は犯罪は増えてもいないし凶悪化もしていないのに、不安ばかりが膨れ上がっている状態の分析と不十分ながらの対策を記す。
単純にメディアが悪いのだとは思いますけれども。
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治安悪化神話。確かに。納得して安心してしまった。刑務所の福祉の砦化、社会のセーフティネットに漏れた人の犯罪者化、等、「何となく聞いたことがある」話ではあったが改めて社会の仕組みを考えた。090130
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日本はいったいどうなってしまったのだろうか?
こうなりゃ、戦前のなく子も黙る特高警察級の警備が必要でないだろうか。そして少年だろうとなんだろうと徹底的に罰するべきだ。凶悪犯は改善の余地なんてないんだから。平和な日本が来ることを祈願。
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・本当に近年は犯罪が増加しているのか?統計を元にその実状を露にする内容。結構痛快。
・指数治安と体感治安があって、悪化しているのは体感治安だということ。いや、これは面白い。つまり「最近怖い事件ばっかりだよねー。」「うんうん、治安悪くなってるよね。」ってやりとりが体感治安で、報道のされ方なんかにかなり依存していると。
・結構前に読んだから内容忘れちゃった。。とにかく前半は面白かった。「宮崎勤から始まった」の下りもかなり良く書けてると思う。読ませる。
・俺なんて影響されやすいからさ、こういうの読むとすぐ「いやいや昔の方が治安悪かったんですよ、こういう数字があってですね、」とか話しちゃいそうでね。。。
(八王子図書館にて借る)
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著者らは治安悪化論を「神話」と斬って棄て、厳罰化の世論に反対し、相互監視社会に向かっている日本の現状を批判している。
第1章に統計データがあり、近年犯罪が増加しているわけではないと述べられている。
ただ、本書の最初に提示されているこのデータは、もっと吟味される必要があるのではないだろうか。
もしかしたら、様々な問題点を孕んではいるものの、「相互監視社会」あるいは「不審者を排除する社会」が作られてきた結果として、犯罪が実際に抑止されて、提示されているようなデータにおさまったのかもしれない。しかし、本書ではまったくその可能性には触れられていない。
言論人による過去の犯罪についてのコメントに対する批判も、現在から過去を振り返って論評しているのだから、批判できる点はたくさん探すことができて当然である。その意味で、私には著者の言葉遊びにしか感じられなかった。
さらに、著者らの論に説得力を持たせるために書かれたのであろう刑務所の話が、第1章とは異なり、データを基にしたものというより、主に著者の経験談から語られている点も気になる。
著者らが主張したいことはわかる。しかし、説得力がないのだ。その説得力のなさは、解決策についての言及がほとんどないところに大きな原因があると考える。
社会的弱者に対するセーフティネットが機能しなくなったという問題に若干触れられてもいるが、では、それが地域コミュニティの取り組み(確かに問題点もあろうが)を批判することにつながるのか?
端的に言えば、一般人が、安全神話崩壊を感じて何とか身を守ろうとすることと、セーフティネットの崩壊がつながるのか? というところに疑問が残るのである。
セーフティネットの問題を出すならば、批判すべき対象は政府であり、地域コミュニティではないだろう。
多くの点で、本書の主張には問題があると感じる。