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テロリスト群像 上(岩波現代文庫)

テロリスト群像 上 (岩波現代文庫 社会)

サヴィンコフ (著), 川崎 浹 (訳)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:1,05030pt
  • 発行年月:2007.3
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2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2011/08/11 23:36

複雑で多面的な

投稿者:ユー・リーダーズ・アット・ホーム!(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

ロープシンの筆名で書かれた「蒼ざめた馬」を読んでいるときにも似た印象を持っていたのですが、著者の思いを読みとろうとしても、安易に心情を重ねられない、容易にそばに近づききれない、そういうなにかがあるという気がしました。それは、著者がテロリストだから、書かれていることは理解の範疇にないというような単純な理由からではなくて、むしろ著者はものごとを静かに眺めて伝えています。だから、著者が意図的にそうしているというより、そういう文章を書く人なんだろうという気もします。置かれた状況が違うから、暮らしいてる時代も、国も、生活も、比べれば、なにもかもが同じではないから、本当のところに思いを至らせるというのは簡単なことではありませんが、文章を読むというのは、すべてを超えて分かるということができる作業だと思っている、というのはほとんど信念です。だから考えるんだけど、なかなかつかんだとは思えない。といって、まるで伝わってこないというのとはちがう。

ページをめくりながら、サヴィンコフのまなざしを通して、行動をともにした仲間の横顔や、街並みや、街路樹を見、風の冷たさや、季節のうつりかわり、人の思いの揺らぎや、遠くの爆音を感じたりすることはできる。だけど、当事者だった著者サヴィンコフの手で書かれた文章から感じられるあらゆるものは、少し遠巻きで、どこかガラスごしに眺めているような、現実の凄惨さや臨場感からは一歩遠い、ふしぎな静謐さの中にあるようです。

サヴィンコフの文章の先に、読者にはっきりと伝えられる結論のようなものはない印象で、それは、小説「蒼ざめた馬」でも、実録の「テロリスト群像」でも共通しているように思うのですが、そこにあるのは、人を寄せつけない自らの決断のような気もします。だけど、その決断の行方も、簡単に読みとることはできない。わかるのは、サヴィンコフが、いまここにあるこの作品を書く前も、書いている最中も、そして書き終えた後も、ずっと行動の中に身を置いていたということ。

その行動の中でついには命を落としたサヴィンコフが、「テロリスト群像」を書いていた意味は何だったのか。描かれているのは著者自身のことではなく、すべては、少なくとも一度、ともに信念のために命を賭して戦う決意をした人たち、必ずしも個人の信条は一致していなくても、大義を同じくして、結束し、その後の運命を異にしたひとりひとりのことです。

ものごとや人に対する印象や好悪のようなものは、ある程度たんたんと現れるサヴィンコフの文章に、直情的なもの、感情の起伏のようなものはほとんど浮かんでこない気がします。だけど、そんなふうに、やはり具体的な言葉や文章に表れたりはしないのに、しかしどれほどの思いだったのかというそのことが、ふいに雪崩のように伝わってくる部分がある。たとえば、仲間のひとりだったシヴェイツェルの死は、特に段落に題名が充てられるわけでもなく、ただ静かに、いくつかの記事の写しと本人の残した手紙のコラージュで伝えられます。記事のひとつは、凄惨な死の現場を執拗に詳述した記録で、一方、手紙は母親に宛てられ、素朴で、やさしく、まっすぐな意思の強い青年の心のうちの伝わるものです。この落差に、ひとりの人の生と死がどれだけの側面を持ったものなのか思わずにいられない。そこに向けられたサヴィンコフのまなざしは、そういうすべてを眺めて、なにを映しているのか。具体的に文面に現れないまま伝えられるあらゆるものについて、とにかく思いをめぐらせる。

窓ごしに、すぐ下の通りを駆けぬける仲間を見つめながら、ガラスから顔を離したとき、そこにぼんやりと映った自分の姿にも気がついている。サヴィンコフの文章は、そんな感じがします。そして鏡映しになったサヴィンコフのことを思うとき、自分だったらということを想像する。

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