紙の本
「戦前は」キレやすい少年の時代、と言えますか?
2007/11/24 20:33
26人中、25人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:後藤和智 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦前から現代まで種々の少年犯罪の記録を集成したサイト「少年犯罪データベース」の管理人がこのたび『戦前の少年犯罪』というタイトルで、その名の通り戦前の少年犯罪について解説した本を出した。
本書は実に、いろいろな意味で衝撃的だ。例えば戦前においては、小学生がナイフで人を刺したり、少年による幼女レイプも多く起こっており、体罰を起こす教師に対して児童や親は警察や訴訟を利用して徹底的に反抗し、さらには旧制高校生は連夜の如くストームと称して暴虐の限りを尽くす。さらに本書の著者は、この程度の事実を調べていないで、戦前についてさも理想的な教育(学校、家庭問わず)が為されていたと無根拠に断定する「識者」たちを非難する。私も、一応本書第10章「戦前は体罰禁止の時代」で採り上げられていた事例や、そもそも戦前においても体罰は禁止されていたことについては知っていたが(広田照幸『教育言説の歴史社会学』名古屋大学出版会など)、少年犯罪についてはほとんど知らなかった。私も著者に非難を受けるものの一人なのだろう(苦笑)。
とはいえ本書の醍醐味は、(もちろん戦前の想像を絶する少年犯罪もさることながら)現代の子供たちや若年層の「病理」を説明する道具として使われる概念が、戦前の子供たち、及び若年層に平気で当てはめられてしまうことだ。各章のタイトルだけ見ても、「戦前は脳の壊れた異常犯罪の時代」(第2章)、「戦前はいじめの時代」(第6章)、「戦前はニートの時代」(第11章。しかし私はこれはこの章の内容にそぐわないと思う。正確には「戦前はニート犯罪の時代」とすべきだろう)、「戦前はキレやすい少年の時代」(第13章)などなど。
さらに本文中においても、《授業中に教室を歩き回ったりする〈学級崩壊〉は……戦前の小学校ではわりと当たり前のことでした》(本書pp.140)、「旧制高校生は勉強していないことを誇っているゆとり世代」(pp.280要約)などと散々であり、「援助交際」などという言葉も小見出しに平然と出現する(pp.192)。
このような過激とも言えるラベリングは、明らかに「現在」の教育言説に対するパロディであり、また皮肉であろう。「脳の壊れた異常犯罪」も「ニート」も「キレやすい少年」も「学級崩壊」も「援助交際」も、多くのマスコミや「識者」が「現在」になって急に問題が深刻化したと考えているかもしれないが、「理想」として捉えられていたはずの戦前の教育、及び子供たち、若年層に当てはめられることによって、このようなマスコミや「識者」たちはどのように反応するのだろう。
もしかしたら彼らは、あらゆる手を使って、戦前の少年犯罪はよい少年犯罪、現在の少年犯罪は悪い少年犯罪と言いくるめるかもしれない。そのような光景を目にしたら、我々は彼らの底の浅さと、現在の子供たちに対して使われるラベリングの空しさを身にしみて感じることとなるであろう。現在の少年犯罪について、わけのわからないラベリングをまき散らして生き生きと語っている姿を、戦前の少年犯罪についても見てみたいものだ。
従って本書は、少年犯罪、さらには子供たち、若年層について饒舌に語る人たちであれば、絶対に逃れることのできない書物なのである。本書は戦前の子供たちや若年層の荒廃ぶりを嘲笑するためにあるのではなく、むしろ現在の「識者」たちを嘲笑するためにあるのだと思う(我々が「識者」たちを嘲笑する一方で、自分たちも著者に嘲笑されているのかもしれないけど)。
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最近、少年犯罪が多発していると思っていませんか?
そんな思い込みをひっくり返す本です。
戦前の方がよっぽど少年犯罪は多かった。
少年による殺しは日常茶飯事で、それが普通な状態でした。
データの充実した本で実証記録として読みましょう。
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口調が皮肉っていたりして気になる人はなるだろうけど、
その他は良かったと思う。
新聞などに載っていた内容を著者が要約して
書いているので、気になる人は実際調べてみる方が
良いかもしれない。
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少年犯罪が増えているなんて大ウソ!現代日本ほど子供たちが大人しい時代はないんです。ネットもゲームもケータイもない時代のほうが圧倒的に治安も悪く、犯罪も凶悪です。
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衝撃の一冊じゃないかと思う。図書館の犯罪コーナー見ると現代の犯罪考察ばかりで戦前を扱った本はたぶんこの一冊ぐらい。おそらく少年A事件とかでマスコミがガンガン取り上げたものだから『少年犯罪の本は売れる』という風潮が高まったせいでこうも偏ったんじゃないかと。解釈されればされるほど一つの事柄は大きくなっていくものだ。それも過大に。この一冊が今後どのように言論界に影響を与えていくのか、ものすごい楽しみ。
やっぱり過去は美化されて行くものなのだと再確認。美化して神話化したら教化に便利だしね。でもそんなやり方では同じことを繰り返すばかりで、きっとまた同じ過ちを繰り返すことになる。過去を冷静に見つめ受け止めるのが新しいやり方なのだ。高度かつ詳細に記録を残すようになってから、それは難しくなくなっている。とはいえ、ほとんど一人でこの膨大な資料を集めた筆者には脱帽するしかあるまい。素晴らしい情報収集能力である。ただ、たまにネット口調なのが気になる。
とにかく散々過去を美化する言論人にこの本を読んでもらいたい。今講義を受けている岡野先生もその一人である。レポートに書いてやろうと計画。何の反応もなかったら直訴しちゃおっかなー。
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書き方でかなり損をしてると思う。
データは著者は国会図書館に足を運んで集めたものだという、著者のブログなども興味ある方は見た方がよい
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懐古趣味ほど反吐の出そうな悪趣味はないですし、昔はよかったと言われてもほほうと信じる気はないのですが、それにしてもこれはどう…
ホントにこんなことが?と、いくら新聞に載ってたといわれてもにわかには信じがたい話がてんこ盛りです。
こんな時代にのさばってた人が今どの面下げて最近の若者は~などと人にお説教などできるのか、謎でたまりませんね。すごいです。
あらゆる犯罪が今の2~3倍は多かった昭和30年頃のものも読んでみたいです。
いまいち卒論用としては使えなかったけど、ただただおもしろい本でした。
殺人レイプ心中と、最初は陰鬱な気分に陥って大変でしたけど、最後の方になるといっそ清々しい気持ちがしてくるのはなぜでしょうね(笑)。
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マスコミのインチキと、コメンテーターの不勉強さを、見事に暴いた痛快作。
作者の運営するHPでは別の事例も見れる。
これが出てから、コメンテーターの少年犯罪に対する言い方が変わったとか…(笑)
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近年少年犯罪が増えているだとか、凶悪犯罪が若年化しているだとかそういった世を憂うニュースはしかし果たして本当なのか。
これを読めば、マスメディアとは如何に扇情的かが解るはず。
多少独善的な文体が目立つことが唯一気に入りませんけど。
以前北野武がフランスで、作中の過激な暴力表現が社会に与える責任を問われて、「責任なんかねぇよ。だったら逆に、世の中にはこんなに愛や平和や幸福を賞賛する作品で溢れているのに、なんで戦争はなくならないんだ?彼らはそれに責任を取ったか?」というような答えを返した。といってたのを思い出しました。
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変われない人間という悲しさ―『戦前の少年犯罪』
http://d.hatena.ne.jp/kojitya/20100911/1284169750
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この本を読む限りでは、少なくとも少年犯罪に関しては戦前のほうがずっと残酷で、かつ猟奇的なものが多いです。例えば目次より。
1、 戦前は小学生が人を殺す時代 2、 戦前は脳の壊れた異常犯罪の時代 3、 戦前は親殺しの時代 4、 戦前は老人殺しの時代 5、 戦前は主殺しの時代 6、 戦前はいじめの時代 7、 戦前は桃色交遊の時代 8、 戦前は幼女レイプ殺人事件の時代 9、 戦前は体罰禁止の時代 10、戦前は教師を殴る時代 11、戦前はニートの時代 12、戦前は女学生最強の時代 13、戦前はキレやすい少年の時代 14、戦前は心中ブームの時代 15、戦前は教師が犯罪を重ねる時代 16、戦前は旧制高校生という史上最低の若者たちの時代
など、詳しくは本書を読んで確認してほしいのですが、少なくともここ10数年間に起こった少年犯罪が精神的に異常だとマスコミで盛んに議論されていましたけれど、この本を読んですべてがひっくり返りました。ここに書かれている内容は、カオスの一言です。小学生が人を殺し、精神の崩壊した人間が殺人事件を起こし、子や丁稚が親や主人を殺し、『聖職』と呼ばれる教師や『エリート』と呼ばれた旧制高校の学生も、とんでもない事件をやらかします。それをここではあえて具体的には書きません。ただ、少年や若者の犯罪に対して、ある程度時代がおおらかで寛容的だったらしく、
たとえば、殺人を犯した少年でも収監されないとか、社会で重要なポストを任されていたり、色々ありますわな。とはいえ、これで解ったことは
『こういうことは、今に始まったことではなく、昔のほうがもっととんでもないことをやっている』
ということでした。
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その名の通り、昔の少年犯罪を紹介した本。主に昔の新聞記事に題材を得ている。
この本を読むと、遊ぶ金欲しさの殺人も、ニートによる殺人も、「カッとなってやった」殺人も、小学生など低年齢の児童による殺人も、今より昔のほうが量の上でも多かったし、質も殆ど変わらないことがよくわかる。
ただ惜しいのは、データ収集とそれに付随する考察は論理的なのに、「昔の若者は~」という具合に「今の若者は~」という愚痴と同レベルの記述が散見されること。これだと単なるアンチテーゼにしかならない。あと、できれば著者は本名で名前を出してほしかった。
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「戦前の少年たちはこんなにひどい犯罪をしてたんだよー。今の方が全然平和じゃん。」的なテンション。
この本の内容をおもしろいと言っていいのかはわからない。(funnyと思ってしまうのは倫理的には問題だろうが、interestingであるのは事実。筆者はfunnyを狙っているようにも思える)
物事はさまざまな方向から考察する必要があるということは学びました。
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戦前の少年犯罪をカテゴリ別に掲載。
尊属殺人・集団暴行・レイプ・幼児猥褻など、頭が痛くなる。
犯罪事態は、現代と変わらない又は現代の法がマシというのが筆者の結論だと思う。
ただ、戦前は犯罪の統計をとっていないため現代と比べられないとのこと。
凶悪犯が多かったことは、納得できたが本当に戦前が殺伐としていたかは、まだ納得できなかった。
感想としては、戦前の若者のほうがエネルギッシュだったということ。
学校内では、学級崩壊やスト、教師や校長のつるし上げなど頻繁に起こっていたらしい。以前他の本でもそういう事実は呼んだことがあり、興味深く思っていた。
大人と成年が対立して闘争を繰り広げるのが当たり前の時代であったらしい。
個人的には、戦後の管理教育のため、教師にNOを言う事を禁じられていた世代としては羨ましいと思う。
本書では、こういった若者のパワーを押さえきれない大人たちの右往左往する姿を紹介するとともに、二二六事件の若い将校の暴発にまで話を広げる。
若い青年将校たちは、自分たちの味方をする都合のいい軍の幹部を神輿にして、テロリズムを暴発させたとのことだ。
戦前を語るとき、若者が大人に利用された側面ばかりがクローズアップされる傾向にあると思う。
しかし、若者のエネルギーが弱腰の大人たちを利用して自分たちの野心をかなえる道具とする筋書きは十分ありえると思う。
この本は、戦前の歴史観に新しい光を射してくれたと思うし、大変勉強になりました。
ただ、もう少し著者の時代論があっても良かったかな。
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一部の書評で「書き方が挑発的すぎ」だの、「嫌味」だのと批判されていたが、読んでみるといわれるような喧嘩腰ではなく「ユーモア」や「ウィット」の類だと感じた。この程度で批判されるのであれば、どれだけオブラートに包めば認めてもらえるのかと逆に問いただしたくなる。
特に読めば誰でも衝撃を受ける新聞記事による事実を軸にした構成によって、逆に鮮やかに浮かび上がる現代の言論人の無責任な言動とを考慮すれば、これ位の書き方でなければ内容に釣り合わないのではないか、とさえ感じるくらいだ。
「作られた伝統」だの「歴史の書替え」だのは、遠い昔の出来事ではない。リアルタイムで今、この日本において毎日のように行われている。しかもそうした行為に関与している人たちにすらその自覚がない。まさに目を覆いたくなる状況である。
本書は少年犯罪に的を絞っているが、他にも2・26事件や体罰をめぐる考察などを含み、現代人が陥りがちな紋切り型の戦前観を見事に解体してくれるだけの説得力のある良書である。