影の棲む城 上 (創元推理文庫)
ロイス・マクマスター・ビジョルド (著), 鍛治 靖子 (訳)
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- 税込価格:1,008円(28pt)
- 発行年月:2008.1
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商品説明- 「影の棲む城 上」
チャリオン国太后イスタは鬱々としていた。元国主の夫はとうに亡く、娘はチャリオンの国主となっている。では、自分は?このまま故郷の城で、とらわれ人のように一生を過ごすのか…。耐えられなくなったイスタは、わずかな供だけを連れ、巡礼の旅に出た。『チャリオンの影』に続く“五神教シリーズ”。ヒューゴー、ネビュラ、ローカスの三賞受賞。異世界ファンタジーの金字塔。【「BOOK」データベースの商品解説】
【ヒューゴー賞】【ネビュラ賞】【ローカス賞】【「TRC MARC」の商品解説】
ユーザーレビュー- 「影の棲む城 上」
5人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2008/02/11 16:04
拙者、女言葉を使うのは初めてでござるが敢えて言わせて頂きたく御座候。「ちょっと何なのよこの小娘はっ!」
投稿者:Leon(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
チャリオンを蓋っていた呪いは忠実な家臣カザリルによって取り払われ、愛娘イセーレは国主になるとともにイブラ国子を婿に迎えたが、イスタ国太后の心は晴れない。
今は亡きアイアスは立派な国主だったかも知れないが誠実な夫であったとは言えず、19歳でチャリオンに嫁いでから40歳を迎えるこの年まで、彼女の半生は呪いと義務に縛られたものだった。
故郷のヴァレンダで廷臣や女官達に囲まれてはいるものの、母親の最後を看取った今ではイスタを真に理解する者はなく、このまま宮廷の中で朽ちていくのかと思うと居たたまれなくなる。
意を決したイスタは、周囲の反対を押し切って巡礼の旅へ出ることにした。
その身分からすれば供は僅かであるものの、安全には充分配慮された旅程のはずだったが・・・
イスタにとって「巡礼」は名目上のことで、ヴァレンダを離れるために用意した尤もらしい口実なのだが、神々に対して恨み骨髄に達している彼女のことだから、巡る先々の聖地に唾を吐きかけるぐらいのことは計画していたのかも知れない。
イスタ一行はチャリオンと敵対するジョコナ公国の軍隊と遭遇してしまうのだが、間もなくボリフォルス郡侯アリーズ率いる一隊によって囚われの身から救われることに。
旅の途上、イスタの夢の中で彼女に助けを求める謎の男性(with 小鳥)が幾度か現れていることもあり、ここからロマンスに発展してイスタが精神的に救われれば物語の王道というところなのだが、ボリフォルズの砦に案内されたイスタは、そこでアリーズから彼の妻カティラーラ(18歳の美少女)を紹介される。
その存在と惚気癖によってイスタと読者に深刻なショックを与えるボリフォルス郡妃だが、彼女のアリーズに対する一途な思慕の情は予想外に大きな呪いをボリフォルスに、引いてはチャリオン国に及ぼそうとしていた。
一種の逃走であった巡礼の旅の目的は庶子神の介入によって一転し、今再び呪いへ立ち向かうことをイスタに求めるが、彼女は過去にもチャリオンから呪いを取り除くべく尽力し、意図せぬ事ながら殺人という苦い結果に終わっている。
砦の外で行われる血肉の戦いに並行して描かれる、魂を相手にしたイスタの戦いは、彼女の深い葛藤とともに大きな見所だろう。
軽々に神が顕現するファンタジーはチープに感じられるものだが、人に働きかけることでしか力を及ぼせない<五神教>の神々は、見方によってはリアルな存在と言える。
また、異世界ファンタジーには国家や世界全体を巻き込む壮大なものが多いが、そのような目で見ると本書で描かれるのはさして重要とも言えない一地方の城砦の防衛戦に過ぎず、国太后という高貴の身分とは言えどもイスタはチャリオンの歴史上では脇役であり、更に定石から外れた中年の主人公でもある。
舞台としての異世界や架空の歴史を入念に整備しつつも、それへ執着することなく、背景を持った主人公を活かすべく比較的小規模な時間/空間の中で物語を展開させた定石破りは、結果として前作以上にのめりこませる効果を生み出している。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2008/12/30 11:10
ヒューゴー、ネビュラ、ローカスの三冠に輝く『イスタ母さんの大冒険』
投稿者:佐吉(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作『チャリオンの影』に続く、ビジョルドの異世界ファンタジー「五神教シリーズ」三部作の第二弾。前作ではチャリオン王家の呪われた歴史の語り部として地味な役どころを演じていた国太后イスタが、今回は、ファンタジーには珍しい40歳の女性主人公として、獅子奮迅の活躍をする。2004年に米国の三大SFファンタジー文学賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞を独占した異色の冒険活劇ファンタジーである。
今では宰相の座に就いているカザリルらの活躍により、チャリオン王家にかけられた呪詛が解かれて三年。先々王の妻であり現国主の母であるイスタは、故郷ヴァレンダ城で穏やかな日々を過ごしていた。ところが老母バオシア藩太后の死に臨んで、イスタは不意に絶望的な虚無感を覚えた。居たたまれなくなったイスタは、周囲の反対を押しきり、巡礼を口実に、わずかな従者を伴って贖罪の旅に出た。
イスタはかつて、神の手に触れられた聖者だった。しかしそれがために、神の意志の担い手として、また王家の一員として、王家を覆っていた呪詛と正面から対峙することを余儀なくされた。そしてその結果、呪詛を破ることに失敗したのみならず、夫の寵臣ルテス卿を死に追いやり、決して癒えることのない心の傷と、誰にも明かせない秘密をひとり背負うこととなった。何も知らない周囲の者たちには気が触れていると誤解され、夫を亡くし国太后に退いてからは、事実上、故郷の城に幽閉されていた。が、それも今は昔、忌まわしい呪詛は解かれ、自身も聖者の懊悩から解放された。だが悔恨と自責の念は、今なおイスタの心に深く根ざしていたのだった。
イスタは奇妙な夢に悩まされていた。見知らぬ城でひとり眠り続ける男の夢だ。聖者はしばしば生々しい予知夢を見る。これもなにかの預言なのだろうか。やがて国境付近で、敵対するジョコナ軍の一団に拉致されたイスタは、突如現れたひとりの騎士に助け出される。騎士の名はアリーズ・ディ・ルテス。国境を守るポリフォルス郡の郡候にして、あのルテス卿の息子だった。その後アリーズの城に招かれたイスタに、再び神が語りかけてきた。そうして心ならずも第二の視覚を取り戻したイスタが目にしたものは、まさしく夢に見たあの光景だった……。
前作では、そもそもこの物語世界がどういうものなのかが、作品のひとつの読みどころになっていた。神学的な要素は随所に見え隠れするものの、「神」や「魔」が物質世界とどのように関わり、どのように振る舞うのかは終盤まで明かされず、王家を救う方法を模索する主人公カザリルとともに、この世界の謎を一つひとつ読み解いてゆくところに、物語の魅力の一端があった。
ところが今回は、そのような物語世界のあり様を既知のものとして(もちろん前作を読んでいない読者への配慮も充分なされているが)、「神」や「魔」がのっけから頻繁に物質世界に介入し、本筋はあくまで超自然的な文脈の中で展開する。それゆえ前作とは対照的に、全編を通じてファンタジーの醍醐味が存分に味わえる作品に仕上がっている。何が飛び出してくるのか、どんな仕掛けが待っているのか、最後までまったく予想のつかないはらはらどきどきの展開には、前作とはまた違った魅力がある。ビジョルドのストーリーテリングの巧さに、あらためて舌を巻く。
加えてこの作品を、単にスリリングなだけでなく、リアルな手ざわりを伴った読みごたえあるものにしているのは、それぞれに個性的な登場人物たち、とりわけ主人公イスタのキャラクターである。誰にも理解されることのない苦悩の日々は、イスタの心に屈託とある種の諦念をもたらし、一方でわずかに残る国太后としての自覚が、イスタに表面上の分別を強いる。それゆえイスタの内面は屈折し、その述懐にはしばしば過激とさえ思える辛辣さが込められている。しかし反面、少女のような初々しさが顔をのぞかせることもある。そんな複雑なキャラクターを、ビジョルドは実に鮮明に、そして魅力的に描いている。
なお上にも云ったように、本書においては、前作を読んでいない読者への配慮もきちんとなされているが、それでも評者は敢えて前作『チャリオンの影』とあわせて読むことを強くおすすめしたい。物語の背景がより深く理解できることはもちろんだが、なにより前作自体が、本作に勝るとも劣らない傑作なのである。







