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河岸忘日抄

  • 出版社:新潮社
  • サイズ:16cm/407p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-10-129473-5

河岸忘日抄 (新潮文庫)

堀江 敏幸 (著)

  • 全体の評価 4.52件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:62017pt
  • 発行年月:2008.5
  • 発送可能日:1~3日

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商品説明- 「河岸忘日抄」

ためらいつづけることの、何という贅沢—。ひとりの老人の世話で、異国のとある河岸に繋留された船に住むことになった「彼」は、古い家具とレコードが整然と並ぶリビングを珈琲の香りで満たしながら、本を読み、時折訪れる郵便配達夫と語らう。ゆるやかに流れる時間のなかで、日を忘れるために。動かぬ船内で言葉を紡ぎつつ、なおどこかへの移動を試みる傑作長編小説。【「BOOK」データベースの商品解説】

【読売文学賞(第57回)】【「TRC MARC」の商品解説】

ユーザーレビュー- 「河岸忘日抄」

全体の評価
4.5
評価内訳 全て(2件)
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4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008/06/08 22:26

心地よいコトバで、ゆらゆらできますよ

投稿者:homamiya(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

コトバが心地よいから、これはよい文章なんだろう。
慌しい通勤電車の中で読んでも、ゆらゆら揺れる水に、たゆたいながら、のんびり読んでいるような気になる。

「海にむかう水が目のまえを流れていさえすれば、どんな国のどんな街であろうと、自分のいる場所は河岸と呼ばれていいはずだ、と彼は思っていた」
という出だしの文から、私は好みだ、と思った。

異国の河岸に繋いだ船で、レトロな家具に囲まれて暮らす主人公。日々、本を読み、レコードを聴き、クレープを焼いて、ただ一人で。時々、知人から手紙が届くか、船の持ち主に挨拶に行くか、郵便配達人が珈琲を飲みに来る以外は、人との交流はほとんどない。
河岸に停滞しながら、主人公はいろんな事を思い巡らす。ストーリーとしてはほとんど動きがないが、めまぐるしく展開する主人公の思考が、読み応えあり。

思考の始めは、本だったり、もらった手紙だったり、外から聞こえる太鼓の音だったり。犬走りをあえて翻訳すると、「キャット・ウォーク」と気づき、犬ではなく猫になる不思議に魅了されたり。
思考の芽が出たら、それを広げ、育て、たくさんのコトバで綴ってゆく。これは、時間と、豊富な語彙や、知識という広い畑があってできる事。書物や映画や経験が肥料となって、思考の芽は徐々に広がってゆく。
この広がりは、厳密な論理を無視した展開だったりもするが、それも面白い。

たとえば本を読んで、それを芽に、思考の畑を広げていけるには、どんな読み方をしたらよいのだろう?読み終わるための斜め読みではなく、時間つぶしのために読むのでもなく、読み終わった後の人生でその本の内容が畑の肥料となるような、そんな風に本を読みたい。


最後に。うらやましい!と思った一文。
「眠りをあやつる見えない手が、彼の午後をこうしてまた心地よくだいなしにしていく。」
「彼」というのが主人公。なんて贅沢な午後なんだ~!!

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3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008/05/16 18:35

つながれ、漂う船のような、生き方

投稿者:けんいち(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

堀江敏幸の書物は、時として「散文集」と呼ばれてきた。現在、他にそのような呼ばれ方をする作家・作品が思い当たらないことを想起すれば、堀江敏幸のそれが、いかに特異なことなのか──いったい、日常生活において「散文」という単語を用いる人が、どれだけいるというのか?──改めてわかるだろう。しかし、それは、ひとたび堀江敏幸の文章を読めば、実にたやすく納得されるだろう。『郊外へ』しかり、『回送電車』しかり、『くまの敷石』、『いつか王子駅で』、『雪沼とその周辺』、いずれもそうした感触をたたえている。それは、絵空事のような物語からは遠く隔たり、たとえそれがエッセイであろうと小説であろうと、静謐な、それでいて巧まれた文章のうちに、虚実の入り交じった後に洗練を経た、堀江敏幸独自の文章ができあがってくるのだ。かつて、そのような作家性は「文体」とよばれもしたのだが、堀江敏幸の文章がさらに特異なのは、作家性という個性よりも、文章それ自体が、品格と豊穣さをたたえ、静かにたたずむ印象をもたらし、それすなわち、堀江敏幸の「散文」ということになるにちがいない。

読売文学賞を受賞したというのだから、小説には違いない『河岸亡日抄』は、こうした堀江敏幸の「散文」の結晶のような傑作に思われる。主人公らしき人物がおり、彼をめぐるごく少数の人物が登場しはするが、そこに起伏のある物語が展開することはない。むしろ、主人公の住まいのありようと同じように、すべては、動けるに動け(か)ず、そのことを不便とも合理性に欠けるとも考えずに、逆に豊かな思索の時、あるいは、ただ何もせずに過ごす至上の贅沢として、ごくごく素朴な細部が積み重ねられていく。もちろん、そこには人との対話があり、堀江氏らしく小説内で文学作品を読みもするのだが、あわせて、しかも継ぎ目の違和感なく、ただただ生きることについての感懐や、気候に関する数字が併置されても行く。読もうと思えば、人生訓としてすら読みうる側面を持つ本作は、しかし、エッセイという名の牢におさまることはなく、静かな作品世界に、つながれ、漂う船さながらに、「散文」という名の海に、存在し続ける。そのこと、それ自体がもたらす文学的感動があるのだという、新たな驚きが人生を照らす、そこに堀江敏幸の「散文」の真骨頂があるとするならば、『河岸亡日抄』はまさしくそうした「散文」に違いない。

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