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わたしを離さないで

英米honto ランキング第4位

  • 発行年月:2008.8
  • 出版社:早川書房
  • サイズ:16cm/450p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-15-120051-9

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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロ (著), 土屋 政雄 (訳)

紙書籍

864 ポイント:8pt

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電子書籍

720(6pt) わたしを離さないで

紙書籍より:144円おトク

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商品説明

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめ...続きを読む

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商品説明

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく—全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。【「BOOK」データベースの商品解説】

【アレックス賞】【「TRC MARC」の商品解説】

書店員レビュー

ジュンク堂書店大阪本店

『Never Let...

ジュンク堂書店大阪本店さん

『Never Let Me Go』、『わたしを離さないで』というタイトル、表紙に描かれたセピア色のカセットテープ、これだけでもう、充分に感傷をかきたてられてしまう。「わたしを離さないで」というセリフからはどんなシュチュエーションが想像されるだろう。恋人?母親に甘える幼い子供?この本から漂う「わたしを離さないで」はもっともっと切実なものだ。まるでこの現実世界に懇願しているかのよう。零れ落ちていく自分心身を世界につなぎとめるための祈りのようでもある。とても現実とは思えないようなSF的な設定なのに、その祈りは奇妙な現実感をもって、迫ってくる。この不思議な感動を誰かと共有したい。そんな気持ちにさせられる1冊です。
文庫担当 桟

ユーザーレビュー

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4.1
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へこたれていたあの時にこそ

39人中、37人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2008/10/22 03:33

評価5 投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 2006年に出版されたとき、大きな話題を呼んだこの本。そのほとんどが賛辞だったけれど、書評やネットで物語の概要を知るにつれ、あたしはなんだかすっかり怖じ気づいてしまった。ちょうど心身共にへこたれていた頃で、こういう重い内容の本はもっと元気な時に読むべきだろう、と、勝手に決めつけ、それでもこの著者には何かしら惹かれるものがあったので、先に「女たちの遠い夏」を読んでみたりした(この作品もとてもよかった)。が、この夏「わたしを離さないで」が文庫化されたと知り、それを機にようやくこの本を読んだのだった。

 物語は、キャシーという31歳の「介護人」の回想から始まっていく。子ども時代を過ごした「へールシャム」での思い出。そう、この小説のほとんどは、イギリスのヘールシャムの私立学校時代のことに費やされており、キャシー、ルース、トミーという、二人の少女と一人の少年の共に過ごした日々がゆっくりと丁寧に描かれている。

 ごく親しい友人でありながら(だからこそ)、つまらない言い争いをしてみたり、それを修復しようとして相手の機嫌をとったり、自分だけはあなたの味方だということを誇示してみたり。他の人には言えない悩みをひそかに打ち明けたり、胸の中にしまっていた不安をぶちまけてみたり。三人の関係も交わされる感情も、誰にも覚えがあるようなもので、特別驚くようなものではない。小さなエピソードを積み重ねるようにして語られるその部分だけとってみれば、青春小説にも思えるし、宿舎付きの学校という閉鎖的な世界の中で繰り広げられる学園小説のようでもある。

 が、もちろん、それが全てではない。
 冒頭の語りの中に出てくる、「介護人」や「提供者」という言葉。それを読んだときに感じた違和感や疑問に対する答えを、語り手であるキャシーはなかなか明かそうとしない。そのせいで読んでいる間中、隠されている何かの存在を強く感じる。キャシー達の子どもらしい姿に懐かしい痛みを感じ、共感すればするほど、そこに忍びよる大きな影を気にせずにはいられない。

 その影が正体を露わにするのは、物語も終盤になってからだ。とは言え、その遙か前からおおよその察しはついてしまう。彼女たちが生まれながらに背負っているその影は、現実的に考えれば「そんなことがあって良いのか」と憤りを覚えるようなもので、普通なら自暴自棄になってもおかしくない。それなのに当の子どもたちは、意外にもすんなりとその運命を受け入れてしまっている。不思議なのは、読み手であるこちらも、たしかにそういうものかもしれない、と思ってしまうことだ。

 人は親や環境を選んで生まれてくるわけではない。極端なことをいえば、森の中に放りだされた少女が狼を親として育つこともあるように、子どもというのは、生まれたときに置かれた環境を受け入れて育っていく。そこが閉ざされた世界の中であるならよけいに、そこでの常識に従うしかない。自分の身を守るためにも。

「へールシャム」の「先生」達は、ここが特別な「閉ざされた世界」であること、「外の世界」はこことは少し違うということを、少しずつ、それとなく子ども達に伝えていく。さりげなく行なわれるその「教育」のおかげで、生徒達はいつのまにか自分が特異な存在であることを自覚するようになる。まるで知らない単語をひとつ覚えるのと同じように、自然に受け入れていく。小説には、その部分が緻密に根気よく描かれている。そのせいで、当然感じるはずの憤りがうやむやになってく。子ども達と共に馴され、憤るよりもその先に待つものばかりが気になって、やがては、彼女達の人生を「見届けたい」とさえ思うようになる。

 もしかしたら、これは実話を元に書かれた小説なのだろうか。読みながら何度かそう思った。そんな訳はないし、そんなことがあってはならないと思うのだが、でもここに描かれているのは、今の時代、そしてこれから先、きっと人類が直面するであろう問題でもある。が、著者はそんな警告ばかりを訴えているわけではない。この本は、ある定めの元に生まれた子どもたちの人生を、キャシーという女性の目を通して描いた静かな小説である。何を思い、何を感じとるかは、ひとえに読み手に委ねられている。

 生まれたときから、最終地点を決められている人生。だからといってキャシーは、全てを諦めて放りだしたりはしない。どんな人生であっても、そこには友がいて愛があり歓びもある。自分なりの自分らしい人生を生きていける。読み終えたとき、胸の中に浮かんでいたのは、背筋をまっすぐに伸ばして歩いていくキャシーの後ろ姿だった。この小説を、元気な時じゃないと読めそうにない、と、脇にどけてしまったことを残念に思う。へこたれていたあの時にこそ、静かで強いキャシーに出会うべきだったのかもしれない。



OfficialWebsite mi:media
http://mimei.info/

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もう一つの「アルジャーノンに花束を」

14人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2010/09/12 12:40

評価5 投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 「朝日新聞」8月12日読書面“ゼロ年代の50冊 2000-2009”で取り上げられているので、書評を書いてみます。

 1990年代末のイギリス。31歳の女性キャシーが、ヘールシャムという施設で学んでいた頃のことを回想して語り始める・・・。この小説の粗筋で紹介出来るのはここまででしょう。この本を存分に堪能するためには、これ以上予備知識は持たない方がいい――ということで、物語に触れられない分、他の観点からこの書を紹介してみます。
 主人公を取り巻く<謎>に関しては、回想が進んでいくうちにおいおい明らかになっていきますが、別にミステリではないので、<謎>がこの小説の核になっているわけではありません。ではこの小説世界を成立させている根幹は何かというと、それは、生きること、とりわけ青春期の輝きと美しさと儚さと哀しさだと思います。話の内容は全く違いますが、『アルジャーノンに花束を』の感触に近いところがあって、読み進めていくうちに、キャシーやトミー、ルースの人生がたまらなく切なく感じられてきます。
 また、『日の名残り』で見せたあの小説技術の上手さは、一層磨き上げられています。回想も、時折時間を前後させていて、読み手をぐんぐん物語世界に引っ張っていく筆力は大したものです。私は後に原書でも読んでみましたが、息の長い、非常に精緻に組み立てられた文体は、それ自体が読者を捉えて離さない力と魅力を有しています。
 小説好きな人と存分に読後感を語り合いたくなる、そんな秀作。

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カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」についてはあまり話せない。

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2011/12/21 14:36

評価5 投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 解説で柴田元幸氏がこの小説は「細部まで抑制が利いていて、入念に
構成されていて、かつ我々を仰天させてくれる、きわめて希有な小説」
と書いている。カズオ・イシグロの最高傑作と言われるこの長編は本当
にすごい小説だ。ただ、その抑制の利いた文章に最初はいらだつ人がい
るかもしれない。しかし、この文章があってこそ主人公たちの哀切な青
春が見事に浮かび上がってくることも確かなのだ。

 そして、その内容。これもちょっと言うことができない。そんなに終
盤ではなく、主人公たちが何者なのかはわかるのだけど、やっぱりこれ
はまっさらな、何も情報がないままで読んだ方が絶対にいい。そういう
物語だ。たとえばここに登場するのは「提供者」と呼ばれる人々、彼ら
を助ける「介護人」、「保護官」と呼ばれる教師たち。主人公は「提供
者」たちがいる施設ヘールシャムの生徒であるキャシー・H(彼女は後
に優秀な介護人になる)、その親友のルースとトミー。青春のただ中を
生きる彼らを待つ残酷過ぎる運命とは…。ルースが探す「ポシブル」と
は…。この物語はSF的な要素を含みながらもその完成度はまさに「世
界名作文学全集」に入っている作品のようだ。淡々としながらも深くせ
つないラストがたまらない。

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切ない新境地

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2012/02/04 12:23

評価5 投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 近未来SFともみなしうる内容なので、イシグロの新境地といっていいかもしれない。もっともこの作家は常に新しいものにチャレンジしているようなところがあって、その点はいつも感心するのだが、しかしこの作品はまた、ここまで来たか、と思わせるものがある。
 いわゆるネタばれにならずにこの小説について語るのは難しい。近未来の、いささか混乱し傷つき希望を持つことが難しくなっている世界の中で、先端科学がからむ話としておこうか。トーンは暗い。
 だがホラー小説にもなりうる設定でありながら、むしろここにあるのはひたすら哀しみである。この小説はすでに映画化されているが、その公開に際して、毎日新聞夕刊にイシグロのインタビュー記事が載っていた。それによると、イシグロが考えたかったのは、前面にあるように見える生命科学の倫理よりも、限りある人生という普遍的な問題だったという。
 イシグロといえば、いわゆる「信頼できない語り手」の問題が定番である。つまり、語り手の嘘=不確かさ=生き方の希薄さが、別に浮かび上がる事実によって明らかになる、というパタン。だがここでは、それは使われていないのではないか。とすればそれは何を意味するのか。
 上述の夕刊には「記憶を武器に死と戦う」という見出しがあったが、興味深い点である。今までの作品では、語りの元となる記憶は不確かで、しばしば欺瞞につながるものだった。だがこの物語ではそれが転倒している。現実と思えたことがほとんどすべて失われてゆく中で、語り手の語る記憶だけが、確かな真実、生きる拠り所としてあるのである。それがとても切なく辛い。しかしそれゆえに深い感動を呼ぶ。
 今更のようにイシグロの重要テーマの一つとして、人間の絆の分断というものがあることに気付かされた。

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切ない 切な過ぎる

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2016/02/14 00:49

評価5 投稿者:gulliver - この投稿者のレビュー一覧を見る

もし現実に この物語と同様なエピソードが実在していたら? と,想像しただけで涙が溢れ出てしまいました

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最高

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2015/10/15 20:12

評価5 投稿者:ジョン - この投稿者のレビュー一覧を見る

とにかく最高です!

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覚えていない幸せ

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2015/02/08 21:03

評価5 投稿者:豆絞り - この投稿者のレビュー一覧を見る

どうしてこんなに細かく覚えているのだろう。
キャシーの語りを読みながら思った。匂いも感触も、その時の息遣いさえ覚えているかのような細やかな描写。きっと、幸せで楽しかった思い出なのだろうと思った。
でも、途中でその印象は一変する。私が幼いころをキャシーのように覚えていないのは幸せだったからだと気が付く。この幸せがずっと続くものだと信じで疑わなかったからこそ、その一瞬一瞬を覚えておく必要がなかったのだと。
キャシー、トミー、ルースが過ごした時間の中で、変化していく関係も見事に描かれていた。環境が変われば人との関係も変化する。離れたかと思えば、何かの拍子でまた近づいたり、平行線のままの場合もある。それは一つひとつの行動の言葉の態度の積み重ねなのだと教えてくれる。

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哀しい小説です

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2016/02/12 15:47

評価5 投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る

カズオイシグロは初めて読みましたが、その小説のなかでも最も評価が高いと言われています。
当然翻訳もすばらしいと思います。
やさしい、淡々とした語り口のなかにも恐ろしく、哀しい主人公がいます。
定められた自分の運命に逆らうことなく、懸命に生きる主人公を書きたかったのだろうと思いました。ひょっとしたら事実ではないかとさえ、思ってしまうほどの小説です。

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衝撃的なSFです

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2016/01/06 00:29

評価5 投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る

物語は介護人キャシーが子供時代を過ごしたイギリスのヘールシャムという土地の寄宿学校の海藻から始まる。子供時代、青春時代、青年になってからのありふれた日常瀬克の出来事が主人公により淡々と語られていく。ただし読者がなんとなく気になる「提供者」、「介護人」、「外の世界」という不自然な言葉だ。物語の終盤から一気にその謎が解き明かされていくという展開。これまでに読んだことがない切ないSFです。

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せつない

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2015/10/13 23:24

評価5 投稿者:はみぃ - この投稿者のレビュー一覧を見る

文体の美しさが物語の歪さを引き立てる素晴らしい文章でした。
胸の奥に小さなしこりをまるでつぼみのように残してくれ、自分がいかに全力で生きるのか、深く考える機会を与えてくれる良い本との出会いだったと思います。
大人向けの本に思えますが苦悩を抱える若い世代にこそ読んでほしい。
自分の境遇、自分の成り立ち、自分の役割を再認識するきっかけになるとおもいます。

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とてもせつないです

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2015/09/29 23:43

評価5 投稿者:タヌキネコ - この投稿者のレビュー一覧を見る

この物語は「自分の運命は自ら切り開く。何としても!」ということを語りたいのではないのだとわかっていても、感情移入のうえに身をよじってしまいます。悔しくもなります。設定はいささか非現実的と思いますが、「あるシステムとそのくびき」ということでは、実際の日常の中にもひっそりと相似形のものがあるのか?。だからこの物語に感情をゆすぶられるのかとも思います。またそういったこととは関係なく、子供時代の回想がとても生き生きとしていて魅力的です。

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あとを引く読後感

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2015/02/01 16:46

評価5 投稿者:ぶろっこ - この投稿者のレビュー一覧を見る

この『わたしを離さないで』という本は、キャシーという名の女性がヘールシャムという寄宿制の学校で暮らした子供時代を振り返るところから始まる。
一見どこにでもあるようなありふれた子供時代。癇癪持ちの友人、楽しみだった図画工作、隠れて好きな歌を聴いたあのとき。思春期のぎこちない恋。そして、思い出の品を探す旅。セピア色で彩られた彼女の思い出は、限りなく読者をノスタルジアの世界へと誘う。
しかし、これはただ淡々とキャシーの子供時代を綴っていく物語ではない。次第に明らかになる彼女らの運命。読み始めたときには想像だにしなかったその結末に、読者は驚くことになるだろう。何を隠そう、私自身もこの本を読み終わってからしばらく何も考えることができなくなってしまった一人だ。
私が今まで読んだ本のなかで最も心揺さぶられた一冊。

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新鮮な読書体験

7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/02/25 11:40

評価4 投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る

「一冊の本がいったいどこまで遠くへ連れて行ってくれるのか
どこまで深い思いを抱かせてくれるのか、数が少なくても
くらっと来るくらいの強烈な読書体験をしていきたい。
できる限りそんな本に出会いたい」
と思っていたわたしの心を掴んだのが本書でした。

解説にもあるように、一切のネタバレが許されない綿密な構造のストーリーです。
ちょっとこれは読んだことないなぁって感じの本でした。
主人公キャシーの語り口は淡々としているのですが、
心理描写がとても細やかで濃密な世界です。
まるでそれは何年も寝かせたウィスキーのような
上等さを思わせます。

このキャシーというのはいったい誰なのか、
彼女が友人たちと過ごした若き日々にどんな意味があるのか。
謎めいた不穏な空気が物語の中に絶えず流れていて
読んでいくうちにだんだんパズルのピースがはまっていくのですが
とても意外な展開でおどろかされます。

キャシーが、なにげない人の行動からたくさんのことを感じていく
その繊細な緻密さはこわいくらいで、「空気を読みすぎ」です。
読み終えたときに深く残る余韻・・・・・・。

文章のうえでの謎はクリアに明かされますが
「これはどうなの?」って考えざるを得ないというか・・・・・・。
作者の意図はそこにはない(単純に面白いお話を作ろうとしているのだと思います)のに
扱う素材がシリアスなだけに確実になにかを投げかけてしまう。
不思議な味わいです。




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絶望のその先に

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2016/03/05 13:04

評価4 投稿者:ポカリちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

キャシーの淡々とした語り口に、はじめは違和感がありました。
悲しみ、苦しみ、様々な欲が希薄なように感じました。
最後まで読み終えても、どこか遠い世界の別の種類の人間の関係ない話、と思いました。
まるで「外の人間」でした。

しかし二度目に読むと、キャシーは最後の時を迎える時、語りつくせない絶望を乗り越えて、強く逞しく命を全うしようという心境に至っていることに気付きます。
そんな心境で自身の半生を振り返っているのです。
そこには人間誰しもが持つ、虚栄心があって当たり前なのです。
彼らも心を持つ人間なのだから…

大きな壁にぶつかったとき、何のために生きているかわからなくなることがあると思います。
どうせ死ぬんだ、がんばって何の意味がある…と。
「使命」を持つ彼らは生まれながらにして「大きな生きる意義」を持っています。
そのことが少しうらやましく思えるのは私だけでしょうか?
恐怖、苦痛、抑圧への想像力が足りないのでしょうか?

カズオ・イシグロはそんな私のような無気力な現代人に「目を覚ませ!」というメッセージを送っているのだと思いました。
「死」に向かって生きていても、夢や希望を持って人生を充実させ、与えられた自らの命を「自分のために」全うしなければならないと強く感じさせてくれる作品でした。

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0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2016/03/01 05:10

評価4 投稿者:minorinori - この投稿者のレビュー一覧を見る

すでにドラマを見ている方には申し訳ないが、この本については先に読むことをお勧めしたい。
おそらくはかなり最初の段階で、作者も明らかに意図的に悪い予言でもするかのように、何気なくキーワードをひそませてくる。それに読者も気付く。しかし、その悪い予感を信じたくない思いの方が強く、物語を読み進める。
作者はこれでもかというくらいに、絶妙のタイミングで悪い予兆を投げかける。それもわずかなばかりのヒントを。
最後にすべてが明らかになる。読者の予想通りだ。絶望的なまでのストーリーのはずであるのに、どこかに安心感が漂う。いかにも英国文学。
最後まで一人称の独白で450ページを読ませる作者の力量に感嘆する。翻訳もうまい。

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