紙の本
やはり信じていたいのだ。
2008/11/26 22:42
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぼこにゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネット上で住所を入力するとその界隈の、かなり鮮明な画像が閲覧できるという話を聞いて、私は最初犯罪がらみの話題かと思ったものである。疑いなくその界隈の住民にとっては迷惑で危険だから。それが検索会社の提供するれっきとしたサービス(サービス!)だと知り、驚くと同時に心底恐ろしくなった。一部の人には確かに便利なのだろうけど、他人の迷惑の上に成り立つ利便性を求める権利など誰にあるのか。そんな言い古されたことを、世界に名だたる(そして甚大な影響力を持つ)企業の経営者とかが理解していないという事実に身震いするのだ。
表題作の牧歌的な響きに惹かれて読んでみたら意外と深刻な物語である。主人公が不意に地下鉄の駅で嗅ぎ分けたグロテスクな終末の気配。そして久々に会った旧友達との間に横たわる深い溝。片やゴミゴミと狭苦しい地下での、一瞬の悪夢のような恐怖。片や華やかな会合の場で突きつけられる、透明で分厚い壁に囲まれたような無力さと孤立無援の絶望感。この二つが絶妙に響き合い、主人公を真相究明の旅へと駆り立てるのだが、辿り着けばそれはなんと他ならぬ彼と彼の妻の身に迫りつつある、苦い現実だったりする。いやはや怖い話だ。
けれども主人公は諦めない。
結婚が航海のようなものならば、この夫妻が乗り込んだのはきっと無骨で不格好な造りの、けれどもやたらと頑丈な船ではないだろうか。折々押し寄せる荒波に翻弄され、滑稽なほど頼りない小舟だけれど、思いがけないしたたかさで幾度もの時化を切り抜けて来た。それが今また運命の巨大なうねりを前に、蟷螂の斧を振り上げて果敢に戦おうと挑んで行くのだ。なんか泣けて来るな。
ウィリスの描く主人公達はいつも熱心で実直で忙しい。使命感に燃え正義を求め、どっちかと言えば理解者に恵まれないので一人でてんてこ舞いを演じている。そんな彼らの姿に同情したり共感したり他の登場人物達の身勝手さなどに辟易したり、読む方まで忙しくフクザツな気分になるのだが、それでもなお、懸命に何かを求める姿がちょっとうらやましく思えたり。大切なものを大切にする、そんな単純なことが往々にしてずいぶんと難しい世の中で、もがきながら前へ進むのは心細く切ないものだ。
それでも彼らはいつだって、信じる心に背かない。
信念を貫く行為は時に大変な勇気と労力を要する。でも多分、そうすることでしか得られないものがその先にはあるのだ。諦めるのは割に合わない。妥協するのは性に合わない。勝つ時も負ける時もあるけれど、困難を乗り越え信じる道を選ぶこと、その経験が自分の糧になるのだと、ウィリスの小説はいつも頷いてくれる。
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コニー・ウィリスが好きだ。SF作品はほとんど読まない私が、ウィリスに出会ったのはラッキー。ウィリス作品を読んでいるとすぐにシーンが頭に浮かんでくる。映画のようだ。ま、ほんとのこと言うと、表題はラストがわからなかった。そこが肝心なところだと思うけど。でも他の作品は最高。
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あああ可愛いなあ! と今回も松尾たいこさんの挿画に感服♪
コニー・ウィリスのお話は、SF風味の皮をかぶったユーモア小説(時にラブコメ風味)だと思うのですが、またもそんな感じです。
おかげさんで読後感がさわやか♪
特に『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』『インサイダー疑惑』の場合、SF部分は風味程度じゃないかと思うんですが、いかがなものでしょう?
にしても、自分の誕生日に『マーブル・アーチの風』を読んでしまったのはどうかと思いますけどね・・・・ちょっと考えてしまいました・・・・・・・・・・(-_-;)
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短編集です。
「インサイダー疑惑」が一番コニーウィリスらしくて(コミカル・シニカル・ロマンチック)
好きでした。
が、やっぱり長編が読みたいよー!早く翻訳してほしい。
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2008年9月日本オリジナル編集のコニー・ウィリスの中短編集。
アメリカSFの女王ともいうべき存在なので、受賞歴のある作品が並びます。
奇抜な着想や不思議な展開だけではなく、読者を楽しませようという精神に溢れています。
大学教育の現場が混乱する様を皮肉った「白亜紀後期にて」、クリスマスに出す習慣のあるニュースレターを題材に、性格が妙にいい方へ変わるのが宇宙人の侵略ではないかと疑うユーモラスなSF「ニュースレター」、「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」はクリスマスの飾り付けや催しをプロが請け負うのが普通になったという設定で起こる大混乱を描くロマンス系。
表題作は毎年恒例の大会が今年はロンドンで行われるために20年ぶりに訪れたキャスとトムの夫妻。
地下鉄好きなトムは路線を調べつつ複雑なスケジュールを地下鉄で移動するが、ある時きなくさい異様な爆風にさらされ、周りが気づいていない様子に驚く。爆風の正体を突き止めようと何度も地下鉄に乗るが…
「インサイダー疑惑」はインチキを暴く雑誌を発行しているロブは元女優の美女キルディと共に、女霊媒師のアリオーラがチャネリングする現場に潜り込む。インチキを罵倒する男性が憑依した様子になり、その正体がなんとH.L.メンケンらしい…ロブはそれも偽装と疑うが…ヒューゴー賞受賞作。
この前の短編集「最後のウィネベーゴ」ほどはインパクトはありませんが、なるほどコニー・ウィリスだなという納得の味わい。
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The Winds of Marble Arch and Other Stories
by Connie Willis
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コニー・ウィリス好きだわ。さすが稀代のストーリーテラー。ツボを外しません。彼女より先には死ねないわ、と著作を拝読するたび思っておりますよ。早く次作を上梓してください。
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自分を主張し異様に立ちまくったキャラクターたち、なんだか知らないけどバタバタと上手くいかない日常に忙殺されて振り回される主人公、そんな日常の中に曖昧に且つ確実に表れる非現実性。軽く読める一篇目「白亜期後期にて」から、だんだん引き込まれる小粋な構成の「ニュースレター」、時間を忘れて読み耽ってしまう三篇目「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」、五篇目「インサイダー疑惑」、タイトル作「マーブルアーチの風」はもう少し大人になったら沁みるんだろうか。すごくコニー・ウィリスらしさに溢れた中短編集でとても良かった。
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やっぱりコニー・ウィリスは好き。ジャンルはSFだけど、ロマコメ風なところが! キュートだと思う。文体も。文体、っていうのは大森望さんの翻訳もあるのかもしれないけどどうなんだろう。会話がすごく自然というか現代風(っていうのも古臭い言葉だけど)でロマコメっぽい。男の子の口調がほんのわずかに女の子っぽく、女の子の口調がほんのわずかに男の子っぽい、つまりユニセックスな感じがそうなのかなあとか思う。なんかほかとは違う気がする。すごく好き。でも、「白亜紀後期にて」と「ニュースレター」はちょっとオチというか意味がわたしはよくわからず。もう一度読んだほうがよさそう・・・・・・。「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」と「インサイダー疑惑」はまさにロマコメ風ですごく楽しかった。SFな現象?(っていうかファンタジー?)もわかりやすいし。コニー・ウィリスは、片思いが好きだなあ、とかも思った。だいたい最初どっちかが相手に夢中なんだけどその相手は気づいてなくて。そして、夢中なんだけど、シャイだからあんまり夢中のようには見えなくて、まわりくどいアプローチというか。でも、だんだん距離が近づいていくところがなんかもう楽しくて。って、書いていて、SFをまったく読まないわたしは、まーるで見当違いなことを書いている気がするんだけど、まあいいか。表題作の「マーブル・アーチの風」は、いつ恐ろしいことが起きるんだろう、とびくびくしながら読んでいたけれど、読後感はさわやかでほっとした。地下鉄であちこちあちこち行ったりきたりするのが「航路」の病院内を行き来するところに似ていてなんだかハラハラした。コニー・ウィリス、やっぱり長編を読みたいなーーー。
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SFの名手コニー・ウィリスの短編集。それは、まるで佐渡のような短篇集。 佐渡。日本海に浮かぶ島。 わかるが、なんだ、それは? 疑問に答える。 島国・日本の中にさらにある島・佐渡は、いわばコンパクトな日本。山が、田んぼが、町が、限られた土地にぎゅっと詰まっている。そこに暮らす人々。そして周りを取り巻く海。 そこには、島の中にいるとは思えない平野・田んぼが広がり、海岸線から一気に数百メートル上る鬼のような登り坂があり(自転車で一周したことがある)、登った後には眼下に青い海と緑の田んぼのコントランス鮮やかな里が広がり、ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』(新潮文庫)を売っている書店があり(買った)、ビーフシチューがおいしいカフェレストランがあり、チャーシューをサービスしてくれるラーメン屋のおばちゃんがおり、「ワカメいらんかあ」と声を掛けてくるフェリー乗り場のおばちゃんがおり(買わされた)、空にはカラスも飛ぶがトキも飛ぶ。 豊かな島。 主人公がロンドンの地下鉄駅ホームで遭遇する不気味な風の正体を探っていく表題作「マーブル・アーチの風」、大学でのドタバタを描いた「白亜紀後期にて」、何者かによりクリスマス前の街がちょっと変えられた「ニュースレター」、ハリウッド映画のようなロマンチックコメディー「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」、オカルト、似非科学と対決する「インサイダー疑惑」。 『マーブルアーチの風』は、ユーモア、ロマンス、ミステリー、サイエンスと様々な色を取り混ぜた作品集になっている。 コニー・ウィリスの他の作品とも関係がある。 ロンドン空襲のシーンがある時間SF『犬は勘定に入れません』。 死んだあと人はどこへ、というテーマから広げた『航路』。 読み応えが確かな、泣きの歴史SF『ドゥームズデイ・ブック』。 そして、全体を取り巻く、大きく広がるSFの海。 コニー・ウィリスは、SFであることを感じさせず、それでいてSFの魅力を読者に伝える。 様々な顔を持ちながら、島としての独自性、魅力を持つ佐渡。 つながったかな。
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短編集。とにかく表題作がロンドンの地下鉄乗りまくります。裏表紙には地下鉄の路線図もあって、自分にとってはツボです。お気に入りは「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」えっ、著者ってジャンルはSFなの?
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ちょっと飽きがきたと思っていたコニー・ウィリスだったが、表題作が素晴らしかった。ここまでヒューゴーを獲っていると選ぶ方もアラが見えて来るような気がするのに、やっぱりすごい。願わくばあの風を嗅ぎたくないものだが、ラストが明るくて救われる。
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コニー・ウィリスは私にとってかなり上位の作家に押し上げられました。まず、とても読みやすい。そして、読後感の爽やかさが抜群。ロマンス・コメディ・ミステリ・SFがさりげなくちりばめられ、どれも強調せず誇張されず、一体となって物語が織り上げられる感じがすばらしい。
この本は短編集でしたが、「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」が個人的にすごくよいラブロマンスで、大満足でした。
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『犬は勘定に入れません』が面白かったのでこちらも。
軟らかいのから硬いのまで入り混じったSF風味の中短編集。
「ニュースレター」は寄生生物に侵略される(?)話なのに、のほほんとしていて新鮮(笑)。…いや…でも怖いかな。帽子にそんな意味があろうとは。。
「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」
バタバタしたラブコメで楽しい。映画になったら見た目も華やかで良さそう。
「マーブルアーチの風」
5編の中で一番硬派。老いや戦争や裏切りの話なので何だか悲しくなってしまうけど、最後のシーンに救われる。
「インサイダー疑惑」
悪徳霊媒師をとっちめる話。
こちらも愉快なラブコメ。ヒロインが魅力的でお話も良かった。解説に背景が説明されているので読むと理解が深まる。
ちなみに最初の「白亜期後期にて」はちょっとよくわからなかったー(笑)
各作とも実在の文芸作品や演劇などの名前がたくさん出てくるのでその辺はちょっと分かりづらいけど、全体的に読後感が良い。
ウィリス。もうちょっと掘り下げてみたい作家だ。
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短編集。大森さんものすごい訳うまいんだと思うの。ピックアップもうまいの。
白亜紀後期にて 学内がドタバタしているのを描くのが好きなのか?と笑ってしまったが、経営が大学を滅ぼし、下流大学が○○を滅ぼす、そして恐竜は絶滅。ああ。笑っていいのか。
ニュースレター ひたすらくすぐりを畳み掛ける。対エイリアンの策を練るために映画で学習するとかおバカ~。かわいいー。
ひいらぎ飾ろう~ ラブコメ。タイトルがよくわからないと思ったら、掛詞だった。大森さんは親切だ。こんな有能なおばさん欲しいなー。新しいサービス、あり得そうで面白かった。
表題作 SFコンかな。何もかもが衰えていくイメージの重ね方がうまい。そして救いもうまい。じんわりやさしくていい。
インサイダー疑惑 SFっていうかオカルトっていうか推理ものっていうかラブコメっていうか消費者啓発?恋愛ものにしなくてもいいのに、するところがウィリスですね。