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ユーザーレビュー- 「神曲 地獄篇」
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2011/05/08 18:10
地獄の棲家は我にあり
投稿者:kc1027(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
神曲、地獄篇。
政変によって都を追われ、流浪の身となったダンテは、その生きる力の矛先を文学に傾けた。その高圧電流のような幻視力は、700年の時を越えて現代に生きる我々を魅了、いや感電させ続ける。とりわけ、この地獄篇は。
人が抱く思いは、これほどまでに深く、濃く、黒くて重層的な世界を現出させ得る。人が人の世にあって地獄を描くのは、人の心の中にこそ地獄があるからで、そこに現れる描写の緻密さ細密さは、人の心に降り積もる悪なるものの存在がそれだけ強烈で、粘着質であるがゆえ。
そんな地獄を、人々は洋の東西を超え、宗教宗派を超えて読み継いできた。イスラムにとっては悪魔の書であるにもかかわらず、それでも読み継がれてきた。世界文学史上の大傑作などとも呼ばれるくらいだから、むしろ「貪るように」読んできた、と言ったっていい。神曲はもちろん、地獄だけを描いた作品ではなく、地獄から天国へと至る道のりを高らかに謳い上げた大詩篇であるわけだが、万人に響き、魅了し、感電させ続けてきたのは、この地獄があまりにも魅力的だったからではなかろうか。この地獄が集合無意識的な人々の心理を、図らずも描ききってしまったからではなかろうか。
地獄は人で埋め尽くされている。そこでは自然は脇役である。自然に、地獄はない。人生の道半ばにして暗い森に迷い込んだダンテは、空想上の師、ウェルギリウスと共に、悔いや迷いや怒りや哀しみをボルテージにして、地獄から生き直し始めた(わたしには、いま日本人が想起すべき空想上の師は、宮沢賢治に思える)。
時代を経て生き残った古典は、何度でも読んで何度でも解釈しなおせる。この後の人生でも、煉獄篇も天国篇もきっと何度も読む。でもその前に今、地獄篇を前にして何度でも書いておこう。地獄はわたしたちの中にある。どんな過酷な自然にも、地獄はない。



