- 出版社:新潮社
- サイズ:20cm/312p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-10-312081-0
天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語
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- 税込価格:1,575円(45pt)
- 発行年月:2008.11
- 発送可能日:1~3日
- 本
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商品説明- 「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」
時は明治・大正の御世。孤独な建築家・笠井泉二は、依頼者が望んだ以上の建物を造る不思議な力を持っていた。老子爵夫人には亡き夫と過ごせる部屋を、へんくつな探偵作家には永遠に住める家を。そこに一歩足を踏み入れた者はみな、建物がまとう異様な空気に戸惑いながら酔いしれていく…。日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。【「BOOK」データベースの商品解説】
【日本ファンタジーノベル大賞大賞(第20回)】明治・大正の御世。孤独な建築家の笠井は、依頼者が望む以上の建物を造る不思議な力を持っていた。亡き夫と過ごせる部屋、永遠に住める家…。そこに一歩足を踏み入れた者はみな、建物がまとう異様な空気に酔いしれていく−。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介- 「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」
中村 弦
- 略歴
- 〈中村弦〉1962年東京都生まれ。國學院大學文学部卒業。「天使の歩廊」で第20回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞し、デビュー。
ユーザーレビュー- 「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2009/01/31 07:25
『第20回 日本ファンタジーノベル大賞』受賞に納得の一冊
投稿者:東の風(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
この世界の枠の外に存在しているような無類の建築物を設計する男、笠井泉二(かさい せんじ)。明治、大正、昭和の初めを舞台に、図抜けて異端の才能を持つこの建築家が創造した建造物と、それを頼んだ依頼主とをめぐる逸話、あるいは笠井泉二その人の奇妙な人となりを描いた話で組み立てられた作品。
「冬の陽」「鹿鳴館の絵」「ラビリンス逍遥」「製図室の夜」「天界の都」「忘れ川」の六つの短篇が、「明治十四年」の序奏と「昭和七年」のコーダをつなぐ形で、あたかも虹の架け橋を渡す感じで配置されています。建物に癒やされる登場人物の姿に目頭が熱くなった「冬の陽」と「忘れ川」、エッシャーの『相対性』の絵が脳裏に浮かんだ「ラビリンス逍遥」の三篇に、格別、心惹かれましたね。素敵な話だったなあ。
『第20回 日本ファンタジーノベル大賞』を射止めた本作品。1962年生まれの著者のデビュー作とのことですが、静かな気品をたたえた文章の佇まいといい、すっと立ち上がってくるイメージ喚起力といい、これが新人の作とは到底思えないレベルに達していたところ。正直、驚かされました。
不思議な魔法に引き込まれていくかのような作品の雰囲気。幻想小説であり、ファンタジーでもある小説が奏でる調べの美しさ。本の中に入って至福の数時間を過ごすことができた! この作品に出会えたことに感謝です。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2009/01/22 06:44
さすがの大賞作品です
投稿者:kako(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
ファンタジーノベル大賞ということで期待いっぱいに手をとった作品で、その期待に充分すぎるほどこたえてくれた内容でした。
どこと無く不思議な雰囲気につつまれたという感じでしょうか?
切なさと温かさが混濁していて、フアンタジーを念頭において読んでいた私はこの新人作家さんにがっつり心を奪われてしまったようです。
今実際に生活しているこの世と別の世界を結びつける泉二の設計した建物。
造形の美しさと人の心を優しい気持ちで組み込んでいる独特の作り。
人が誰しも抱える悲しみや悩みを、その人を包んでくれる建物によって癒し
痛みを和らげてくれます。
泉二に見えている世界は他の人と違うのか?
全てが語られることはなく、文章から読み取り感じ取るという感覚を研ぎ澄まして、頭の中で泉二の建物を懸命に作っていく作業を楽しく感じました。
短編を紡いでいく展開ですが、その章の並びがまた絶妙です。
時間の組み立てをうまく前後させることで「知りたい」という欲をうまく引き出していきます。
泉二はどういう子どもだったのか?
泉二と奥さんはどんな生活を送っていたのか?
今泉二はどこにいて何をしているのか?
ページをめくるたびに新たなる欲求を引き出してくれるような構成です。
泉二の建物に象徴のように出てくる天使像。
泉二と天使を結びつける出来事を追いかけてみてください。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2009/01/04 17:25
天使に愛された建築家
投稿者:かつき(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
豊かな筆力に驚きつつ、物語を堪能しました。
明治14年から昭和7年まで、時代を行きつ戻りつし
まるで読者を物語という建築物に誘い込むかのよう。
というのも、物語の主人公は笠井泉二という建築家なのですが
彼の作り出す建築物はちょっと変わっています。
あの世とこの世の堺とを結ぶ、美しい館なのです。
例えば第1章「冬の陽」では、上代子爵未亡人の願いである
「生きている人間と死んでいる人間とが、
いっしょに暮らすための家」を設計します。
第3章「ラビリンス逍遥」では、小説家大西湖南の希望である
「永久に住めるような建物」をつくります。
第4章「製図室の夜」では、亡き友のための
「われわれがいるのとはべつの世界の建物」。
第6章「忘れ川」では、幼馴染輝子とその夫のために
すべての苦痛を忘れる館。
この間に笠井泉二の天才的な才能がどこから生まれ
どのように展開しているのかを語る章が挟まれます。
明治、大正、昭和を自由自在に行き来するプロットとともに
新人作家とは思えない力量を感じます。
笠井は、取りつかれていた天使の彫像や館に
ロマンと幻影を投射して描かれるのですが
それだけではなく、人の希望と生き方に
設計でもって優しく応えているように感じられます。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2012/04/19 21:00
誰にも真似できない世界を創り上げてしまう、天才を通り越した者の行く道。
投稿者:更夜(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
『スケッチ・オブ・フランク・ゲイリー』というひとりの建築家のドキュメンタリー映画を観たことがあります。
私は初めて知ったのですが、フランク・ゲイリーはスペインのグッゲンハイム美術館などとても有名な建築家だそうです。
曲線を多用した独特なアンバランスなフォルム、光をとりいれるように金属やガラスをよく使う巨大な建物。
それは、美しいと言われると同時に、理解できない、怪物のよう、醜い・・・といった批評もされます。
たしかに、映像で観るフランク・ゲイリーの設計した建物は、私だったらまず「びっくりする」という奇抜さがあり、普通の頭ではここまで・・・と思いました。
建築というのは、美術品として鑑賞するだけではなく、建物として、ホールとして、中に人が住んだり、活動したりする場なので、
それを「デザインする」というのは常人には出来ない事でしょう。
この物語は副題に「ある建築家をめぐる物語」とあるように、笠井泉二という明治生まれの天才建築家をめぐる6篇です。
明治14年に東京、銀座の西洋洗濯屋の次男として生まれるものの、絵だけでなく、何事も天才と呼ばれ、特に西洋館への
興味が深く建築家となります。
第一話『冬の陽』は、30歳になって勤めていた建築会社を辞めた笠井が、大学時代の友人で親の建築会社を継いだ矢向丈明の紹介で、
ある子爵家の風変わりな要望を見事、依頼通りにする顛末です。
その依頼とは、「生きている人間と死んでいる人間とが、いっしょに暮らすための家。」
つまり、家と墓が一緒であるような建築を、という依頼。
その建築の奇抜でファンタスティックな、ロマンティックとも言える独創性が、めぐりめぐって依頼主に満足をもたらす。
第二話『鹿鳴館の夢』では、尋常小学一年生の笠井が描いた鹿鳴館の絵をめぐる物語で、各編は笠井泉二という人物の成長の
通りに話が進むわけではないのですが、たぐいまれなき天才と言われながらも、その独創性、奇抜性に明治という時代がついていかない・・・
フランク・ゲイリーのように「理解できない」という天才ぶりが描かれます。
人づきあいが悪くて、無口で、不健康そうな、ちょっと芥川龍之介を彷彿させるような風貌の笠井泉二は、自分を語りません。
その分、各話の狂言回しの役割をするのが、学生時代からの友人、矢向丈明。
人に媚びたりせず、出世欲が全くない笠井泉二の数少ない理解者として登場します。
笠井という人物の喜怒哀楽や愛憎といったものが、深く描かれない分、
写生文、どういう建物か、という描写がたいへん細かく描かれていて、笠井が、設計する建築は「建てたい人の心の中を見抜く」ような
心象風景そのものの一見、奇抜な建築の様子が、読んでいて目に浮かぶようです。
大学時代の建築科で笠井にやたらと張り合ってくる虚栄心の強い雨宮という人物が、非常に俗に描かれているのですが、第二話『鹿鳴館の夢』で、
鹿鳴館の副館長をしている守谷喜久臣(きくおみ)という人物が印象に残りました。
明治の西洋文化の象徴である鹿鳴館の管理を実質全てまかされている、喜久臣という人物は「非常に臆病」とありますが、少年である笠井が
描いた鹿鳴館の絵に「鹿鳴館の秘密」が描かれているのに恐怖におびえてしまうあたりは、ファンタジーというより心理ホラーのようです。
また、各話に出てくるのが「天使」
洗濯屋のせがれとして見た、白いシャツがはためく様子が天使になるのだ・・・から、西洋に視察に行った時にであった
この世のものではない世界の天使。
笠井の設計する建物の共通点は「天使像がある」ということです。
笠井という人物は謎めいていて、大学の指導の教授が「誰からも認められる建築ではなく、あるひとりを満足させるものだろう」と
商業的な成功はしない、と見抜きますが、それは誰にも真似できない世界を創り上げてしまう、天才を通り越した者の行く道を示しているようです。
万人から好かれる、大多数の支持を得ることを良しとせず、住む人の「心の願い」を周りから理解されなくても、建築という形で
体現してみせる天才建築家。
それは儚い夢を追うような後味を残します。
また、この物語は、明治から大正にかけての日本を非常にすべらかに説明しています。
建築についての「写生文」の上手さというのは、いわば説明が上手い、ということです。
なめらかな説明は目に優しく、気難しい人物が作りだす美しい建物を見事に写生する文章は、まるで目の前にその建物が現れたかのようです。
改めて、文章における「説明」の大事さをこの物語で実感したようにも思います。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/04/27 21:16
秘められた願いを建物に託した造家師
投稿者:伊織(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても幻想的、かつ不思議な魅力を持った1冊でした。
そして、これがデビュー作だと思えないくらいの見事な構成。
明治から大正時代にかけての1人の造家師を本人が語るのではなく、建築の依頼主や彼を取り巻く人たちが語ることによって読者は否応なしに彼の人となりを自分の想像力によってのみで作り上げられていきます。
依頼者の心に秘めた「願い」を建物の姿に変えていく彼の人物像は非常に興味深いです。
しかし、泉二自身が最後まで彼自身が姿を現すことなく、語ることも無く。
ミステリアスなまま。
彼の人となりは最後まで他人の眼・口・耳を通して語られるのみで、それがさらにこの話のなかに登場する造家師・笠井泉二という1人の人間の奇妙さであり、繊細さ、やさしさが際立っているように感じました。
デビュー作とは思えないような建物の描写であったり、全体を包む幻想的な雰囲気、構成力。そしてなにより文章が簡潔で余計な飾りをつけずとも奥ゆかしさを感じる不思議。
ただ、残念なことにこれは私自身の問題なんですが、少し読みづらかったです。
それでも、それを凌駕するリーダビリーティーと文章の巧さがあり、次作、「ロスト・トレイン」も必ず読みたいと思う。







