虚構機関 (創元SF文庫 年刊日本SF傑作選)
大森 望 (編), 日下 三蔵 (編), 小川 一水 (ほか著)
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- 税込価格:1,155円(33pt)
- 発行年月:2008.12
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商品説明- 「虚構機関」
2007年の日本SFの精華、選りすぐった16作を収録。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧- 「虚構機関」
| グラスハートが割れないように | 小川一水 著 | 15−71 |
|---|---|---|
| 七パーセントのテンムー | 山本弘 著 | 73−110 |
| 羊山羊 | 田中哲弥 著 | 111−138 |
関連キーワード- 「虚構機関」
ユーザーレビュー- 「虚構機関」
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/03/04 23:02
円城塔、伊藤計劃に尽きる
投稿者:king(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
日下三蔵と大森望編集による2007年の日本SF傑作選。ジュディス・メリルのそれに倣ったという方針で、SFプロパーのものからこれがSF?というようなものまでを収録している。
ここ一、二年、まったくSFを読んでいなかったので、最近どんな人が書いているのかな、ということを知りたかったところにちょうど良くこのアンソロジーが出てきてとてもタイミングが良かった。特に円城塔、伊藤計劃の二氏はなんだか面白いらしいという話を聞いていたので、ちょうど良くその二人を含んだこれを読んでみることにした。
で、やはりというかその二人が突出して素晴らしい。
円城塔の「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語」は八つの掌編が続く短篇で、枠の物語と個々の話との関係がどういうことなのかよく分からないし、判然としない作もあったりするのだけれど、とにかく奇想短篇として抜群の面白さ。ボルヘス、カフカ、ラファティ、ラッカーといった名前が連想されるような、衒学的だったり、数学的だったりという多彩な掌編の連続で、これにはやられた。
特に「砂鯨」というカフカの「万里の長城」みたいな感じか、と思わせてそこに数学的解釈を加える一篇で私の心は鷲掴み。硬い文章に滲み出る変なユーモアも良い。これは群像新人賞の二次まで残った作品らしく、実質的にここで初出というちょっと例外的な作品。
そして伊藤計劃の「The Indifference Engine」。これは小説としての面白さというか、読ませる力がもっとも強い一篇だと思う。良くできているし、テーマが非常に現代的でアクチュアル。
ここではゼマ族とホア族というふたつの民族が血で血を洗う戦争状態にある。そして、その紛争が諸外国の介入で調停され、主人公の少年は憎き敵民族を殲滅する兵士を辞めて、日常生活に帰るための施設に入る。そこで問題を起こした少年は、脳をいじって、ゼマ族とホア族というふたつの民族の区別が付かなくなるという処置を受ける。この脳への処置は、先進国では人種差別をしてませんよというステイタスとしても行われているという。
ここには、民族紛争といういまも様々な場所で起こっている問題について透徹した視線がある。作中、少年の上官は、敵民族が非人間的な存在で、ロボットのような連中だから君の家族は虐殺されたというようなことを吹き込んでいた。しかし、戦後その上官は少年にとって敵を殺す大義名分でもあったその話を一笑に付し、連中も自分たちとおなじ人間だと主張を翻す。
歴史ってのはな、戦争のために立ち上げられる、それだけのもんなんだ。歴史があるから戦争が起こるんじゃないぞ。戦争を起こすために歴史が必要なんだ。
民族の違いが分からなくなっても、敵だと思っていたものがそうではなかったとしても、少年の家族を襲った暴力や、少年の憎悪は消えるわけではない。すでに血で血を洗う戦争を体験してきた彼にとっては、そんな美辞麗句に納得できるはずもない。ふたつの民族という区分線ですら恣意的なものに過ぎない、ということは何ら彼には意味を持たない。区分線が恣意的である、ということとそれが実在しない、ということとは違う。彼にとってはふたつの民族の違いは歴然たる事実としてある。
そして、たとえば民族の違いがなくなれば民族間紛争を収めることができるかのような「Indifference Engine(公平化機関)」の導入や、歴史や民族は恣意的なのだというような言説ともどもがここでは批判に晒されている。それらは暴力を見えなくさせ、隠蔽しようとする装置ではないかという厳しい視線がある。これは、たとえばパレスチナなどの陰惨な暴力が吹き荒れる問題についてのわたしたちの立場に鈍重な刃をさしむけているように感じた。
しかし、伊藤計劃はこの本が出てから三ヶ月後の2009年3月に逝去。
他の作品について簡単に感想。
小川一水「グラスハートが割れないように」
ネットでの「水からの伝言」議論を下敷きにしたと思われる箇所が散見されるネタ。身近な人間が疑似科学にはまってしまった場合にどうするのか、というもっとも困難な問いにどう答えるのかと思ったけれど、そこに期待して読む作品ではなかった。「良い話」を書きたいのだな、と思った。
山本弘「七パーセントのテンムー」
外から見てもその人に本当に「心」があるかどうかは分からないというお話。いわゆる「哲学的ゾンビ」が実在し、しかも人間と哲学的ゾンビとを区別できる方法が考案されたら、という風にも言えるか。作中のI因子という設定にはグールドの「人間の測りまちがい」での因子分析にかんする議論を思い出させるものがある。ベンジャミン・リベットの実験についての議論は非常に興味深かった。意識についてはちょっと何か読んでみたい。
田中哲弥「羊山羊」
いつものナンセンスさは表題の病の設定くらいで、後は不倫の悲喜劇をややグロテスクに描き出した結構シリアスな作品。
北國浩二「靄の中」
侵略者ものとして綺麗な出来。
中原昌也「声に出して読みたい名前」
これは、よく分からないなというのが正直なところ。
岸本佐知子「ダース考 着ぐるみフォビア」
岸本のエッセイは面白いと思うんだけれど、ここにこういう風に載せるのには向かないんじゃないかとは思った。フィクショナルなものならもっと面白いのがあったと思ったけれど、発表年の問題か。
星新一トリビュートショートショート三篇。
恩田陸「忠告」すごく普通。
堀晃「開封」もう少し面白いけれどこれだけだとなあ。
かんべむさし「それは確かです」ネタはなんということはないけれど、著者の盟友に向けたメッセージが良かった。
萩尾望都「バースディ・ケーキ」
古典的なSF短篇といった風体。
福永信「いくさ 公転 星座から見た地球」
個々のものはスケッチとして良いのだけれど、三篇のつながりをどう考えるか。
八杉将司「うつろなテレポーター」
イーガン的テーマが出てきはするけれど、そこへの踏み込みは余りない。主観概念(心)の問題が山本弘のものに続いて出てくる。伊藤のものにも、外からは同じ人間に見えるが心はない連中というものが出てくるのを合わせると、この本だけでも三作で外から見ても分からない心の有無、というテーマが被っていることになる。
平谷美樹「自己相似荘(フラクタルハウス)」
ホラーSF。途中までは良いけれどちょっとラストが甘い。
林譲治「大使の孤独」
ストリンガーという知的生命体とのファーストコンタクトを扱うシリーズの一作とのこと。まあまあ面白いけれど、そのシリーズを読むかというと微妙かな。
とにかく冒頭に挙げた両氏が出色。それだけで読んだ甲斐はある。短篇集としても楽しく読んだけれど、これが年間ベスト、と言われると微妙な感もある。諸作家を概観するのにはちょうど良いのでそう言う意味では良いのでは。年間ベストシリーズとして定着するといいなとは思う。現在2008年版がでている。







