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紙の本
ロシア文学の食卓 (NHKブックス)
著者 沼野 恭子 (著)
難解で深遠なイメージがつきまとうロシア文学。ロシア文学を、「食」というプリズムをとおして読みなおし、その多彩な世界を浮かびあがらせる、食欲をそそるロシア文学ガイド。【「T...
ロシア文学の食卓 (NHKブックス)
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商品説明
難解で深遠なイメージがつきまとうロシア文学。ロシア文学を、「食」というプリズムをとおして読みなおし、その多彩な世界を浮かびあがらせる、食欲をそそるロシア文学ガイド。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
沼野 恭子
- 略歴
- 〈沼野恭子〉東京生まれ。東京大学大学院博士課程(比較文学比較文化)単位取得満期退学。東京外国語大学教授。NHKテレビ「ロシア語会話」講師。著書に「アヴァンギャルドな女たち」など。
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紙の本
「食」という人間の本能に関わる要素、そして民族の文化を構成する大切な要素を作家たちがどう描いたのか。それを確かめていくことが文学をより楽しく、より深く味わえるきっかけになると教えてくれる。迷いなく5つ★認定の優良ガイド本。
2009/02/24 17:42
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「読みたくなる」「食べたくなる」、そして両者のバランスが程良く溶け合った美味しい読み物であった。滋養分もたっぷりだし、嬉しいことにお菓子もついていた。
著者の沼野恭子さんは、新潮クレスト・ブックスで、ウリツカヤ『ソーネチカ』とクルコフ『ペンギンの憂鬱』というロシアの現代小説を訳していて、それが海外小説好きの間では評判になっていた。だから、「ロシア文学」と言っても、トルストイ、ドストエフスキー、ゴーゴリ、チェーホフ、プーシキンといった古典的な作家たちだけでなく、きっと広い範囲でロシアの文学作品に出てくる食べ物の話が拾われているに違いないと考え、題名を目にしたときに「絶対読もう」と思った。
ところが、作品がよく網羅されているだけが特徴なのではなく、内容が実にふんだんで味わいが濃い。いや、食事ならば量が多く、味付けが濃いのでは迷惑千万なのであるが、文学案内ではそれらは歓迎すべきことだ。
「食事風景の描写を指摘して、それが作品全体にとってどういう場面なのかを解説しながら、食材や料理についても説明を加える」というような流れをイメージしていたが、それだけで終わるガイドブックではなかった。
ロシア人の気質、ロシアの風俗、伝統、文化に地域性、宗教、思想、そして歴史といったものについての該博な知識を元に、作家たちの描いた食卓の風景が様々な切り口で分析されて行く。その分析のされ方が「文学を食の観点からちょっと楽しんでみましょうか」と相手の心が弾むように軽快に誘う姿勢である。その上、「あら、いつのまにか作品の本質にも触れちゃいましたね」という感じで評論に達している部分もある。
ロシア語には縁がなくてテレビ「ロシア語会話」講師としての沼野さんを見たことがないが、テレビ番組でも大学の講義でも、おそらく説明が非常に分かり良いのではないかと思える。読む人にロシアの知識や取り上げている作品の読書体験などがなくても、どういうことについて語り、どういう捉え方をしてみると楽しめるのかが丁寧に書かれているからだ。
「あら、いつのまにか作品の本質にも触れちゃいましたね」的なノリは、文体全体から漂ってくる親切な感じ、かといって相手を甘えさせるようにではなく、自然に知の世界に足を運んできてくれることを期待するような雰囲気が可能にしているものだ。
著者はロシア料理の本も出しているということだが、料理を作ってくれたり食事を一緒にしてくれたりする人はこのようであってほしいという好ましさが、内容への興味を一層盛り上げてくれている。
さて、かんじんの内容だが、詩情と食欲にダイレクトに訴えてくるような口絵が8ページあって、「はじめに」というはしがきの後、章立てが「前菜」「スープ」「メイン料理」「サイドディッシュ」「デザート」「飲み物」と展開していく。後付けとして、紹介した作品の文献案内がついているのも便利で有難いことだ。
実は、ゴーゴリ『死せる魂』のピロシキ、チェーホフ「おろかなフランス人」のブリヌィとイクラ、トルストイ『アンナ・カレーニナ』のフレンスブルグ産高級生牡蠣という豪華前菜の章に辿り着く前に、谷崎潤一郎『細雪』で登場するペリメニ・スープを扱ったはしがきのところで、早くも一食分の事足りたという気にさせられる満足感があった。
四姉妹の次女の幸子が几帳面で清潔・正確を重んじるドイツ人一家と付き合いがあり、その一家の調理場についての記述が作中にある。そして四女・妙子はすべてに鷹揚で大雑把なところもあるロシア人一家と付き合いがあり、その一家との健啖な晩餐の様子が描かれている。2つの異なる国の人たちの気質の対比を、谷崎が2人の女性の性格に対応させて「食」に絡めて書いたのではないかと著者は言うのだ。「昭和の前半の話だが、神戸あたりだから華やかなお嬢さんたちは外国人とも交流があって」というぐらいの認識しかしないで私は読み流していたが、「そう読めるか」とびっくりさせられた。
豊かな知識や経験だけではなく、洞察力と感性あってこそ読みこなしていける文脈というものが文学作品にはある。「食」という誰でもが興味を惹かれる要素に目を付け、それを要領よくまとめていっただけという本ではない。「食」という人間の本能に関わる要素、そして民族の文化を構成する大切な要素を作家たちがどう描いたのか。それを確かめていくことが、文学の持つ大きな価値を改めて認識することにつながると教えてくれる本であった。
紙の本
時代と世相を映す食卓風景
2009/05/16 21:29
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mikimaru - この投稿者のレビュー一覧を見る
わたしが日ごろから愛用している「家庭で作れるロシア料理」の著者による本。前菜、スープ、メイン、サイドディッシュ、デザート、飲み物の別に、それぞれ3〜4作品ずつロシア文学が紹介されている。
ロシア文学にあらわれた食卓風景を通じ食文化について考察するというコンセプトなので、うまいものがたくさん出てくる作品を選んだというわけではない。
たとえばゴーゴリの「死せる魂」のように、死んでいるが戸籍が残っている農奴を求めて地主の家をまわる詐欺師が、訪れた先でふるまわれるピロシキなどのつまみを解説したり、質も量も満足のいくものではない収容所の食事を描いたソルジェニーツィン作品「マトリョーナの家」なども紹介する。
このところロシア関連の本を多めに読んできたおかげか、料理名を聞いただけでだいたいどんなものかが頭に浮かぶようになってきたが、いちおう本書にもモノクロとはいえ頭の整理をたすける写真は、はさまれている。おかげでなんのつまづきもなく、読み進めることができた。
印象的なのはP.62からの「修道院風ボルシチ」だ。革命の前であれ後であれ同じように腐敗しているロシアの役人たちの姿を描きつつ、財宝を狙う旧貴族と詐欺師を描く「十二の椅子」を紹介している。公費をくすねて贅沢をする運営者側と、ろくなものを食わせてもらえない老人ホーム入居者が描かれている作品だ。
ロシア文学は以前に多少は読んだものの、いわゆる有名作家の作品が中心だった。もっといろいろな作品に親しんでおきたかったと思う。
惜しむべきは、紹介されている作品の何割かが、すでに入手困難になっていること。読みたいと思いつつ入手が難しく、古本屋の通販サイトを検索する日々がつづいている。