紙の本
怒涛のヨーロッパ中世
2023/02/28 21:48
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
文庫本で全3巻、2000ページ近い大長編の中巻、中だるみになりがちなところだが、時は14世紀半ば、百年戦争が始まり中々読者を飽きさせる要素には事欠かない時代だ。
作者の達者なところは、かなりの数の登場人物をその性格づけ、立ち位置、行動が歴史的ににみて齟齬がないかなど、じつに緻密に練り上げていることだろう。そのうえで、各人が物語のなかで生き生きと動き、時代とともに生きている臨場感を盛り上げ、この長い物語を短く感じさせる。
この点が今まで読んだ歴史小説のなかでも、やはり他者の追随を許さず、ひとつの町とそこに聳える大聖堂を舞台としながらも、次々と続編を生み出してゆく理由だと思う。
そうはいっても、純粋に中世的な要素ばかりでは、現代の読者をここまで引っ張り続けることはできない。主要登場人物の性格や行動のそこかしこに現代にも通じる、あるいは当時としてはありえないほど現代的な味付けがしてあるのが、面白いながらも少し気になった。
たとえば、カリスが恋仲のマーティンと中々結婚に踏み切れず、授かった子まで中絶してしまう点だ。当時としては神に背く大罪ではないか。仮に出産できない理由があっても、大抵は不衛生な施術で命を落としてしまうのが普通だろう。その理由というのが、男性に従属したくないというある種の意地が、やがて自らの使命に目覚めたことでより強固になった自立心なのだ。
ほとんど現代女性の悩みそのままで、ちょっとありえないだろうと思いつつも、作者の流れに自然と乗せられてゆく。
またマーティンは才能が乏しいくせに親方風をふかす上司の嫉妬で建築家として認められず、ギルドにも加盟できない。当時としてはこれで彼の建築家としての道は断たれたも同然であるはずだが、そこは一時的にイングランドよりも先進的であったイタリアへ行くことで、さらに経験と財産を手に入れ、颯爽と故郷に帰ってくる展開になっている。彼の才能はずば抜けていて、建築家の枠をこえ、都市計画者、開発業者のような面もふんだんに見せてくれる。なにかローマを荘厳した17世紀のベルニーニを見ているようで、百年戦争当時としてはちょっと先取り感が否めない。
ただ、クレシーの戦いの細かい描写や、ペスト襲来が社会や人々の心に及ぼした影響などはさすがの筆力だ。やはりどうしても読み続けることになるのが作者の魅力だろう。
紙の本
更に気になる展開
2021/12/30 10:37
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投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
この中巻では、徐々に悪役がはっきりと見えてきて、それと共にむかつき度もアップ。修道院長とラルフは中でも最低。でもこの作者、基本的に悪役は女性を強姦するばっかりで、もう少し悪役の作り方を考えてほしいところ。そしてこの巻では、異端裁判が登場。真剣に裁判をする様子に、中世の時代は神に対して非常に敬虔だからこその裁判と思いました。終盤は欧州を席巻するペスト。死者が増える中、悪い奴ほど生き残る。という法則が当てはまるのかどうか、またカリスの運命は?すごく気になる展開で、いよいよ次は最終巻です!
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グウェンダ、カリスに悲劇と試練が次々とやってくる。ゴドウィン、ラルフ、フィルモンは、私利私欲のためには、どんなに非道なことでも厭わない。カリスを魔女裁判にかけてしまおうなんて、考えつくだけでも恐ろしいのに、実行しちゃうのがすごい。カリスは助かるために究極の選択をし、失意のマーティンはイギリスを去ることになる。百年戦争やペストの時代になり、それらが物語に影響を与える。
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スパイ小説の重鎮、ケン・フォレットの歴史小説。
「大聖堂」より、200年後の世界を舞台に、大聖堂建築をめぐる人間模様が鮮やかに描かれている。
「大聖堂」が12世紀当時の土木技術への挑戦と宗教を描いていたのに対して、この「大聖堂 果てしなき世界」では、台頭してくる商人や吸引力を失っていく教会が描かれている。
<絶対>を失った世界で、イングランドで一番高い塔を建てることを、どう意味つけるのか。
信じていたものに裏切られ、身を守るために意にそわぬ選択をせざる得ず、またそれも砂上の楼閣のようにもろく崩れていくヒロイン。
反対に、不幸な生い立ちながら、愛する男のためという一念を貫いていくもう一人のヒロイン。
2人の対極のヒロインと、没落した貴族の子供として生まれ、建築家と騎士と正反対の生き方をする兄弟が、物語を極上のエンターテイメントに導いてくれている。
フォレットの小説は、人物造詣がいつも素敵だが、これではそれが最大限に生かされてるように感じた。
そう、前作のような建築技術の発展的な部分を求めると肩透かしをくらうし、前作で物足りなかった人が物語を作りあげていくという部分は、この上もなく満足させてくれる。
これほど、最後のページを閉じるのが残念でならなかった物語はない。
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どちらへ向かうかわからない、はらはらの中巻。
大聖堂を中心に発展してきたキングズブリッジの街。
土地と持たない貧民の娘グウェンダは、恋したウルフリックに捨て身で尽くす。
橋の再建を巡って、修道院とギルドは対立。
建築職人のマーティンらは、ロンドンに半年以上滞在して、民事裁判の結果を待つ。
橋がなければ人が集まらなくなって大きな市は寂れ、国王へ払う税金も少なくなると訴える羊毛商人のエドマンド。
エドマンドの娘カリスは、父の片腕となっていた。
1年遅れて橋の建設はやっと始まるが、修道院長のゴドウィンは執念深い性格で、何かと対立する面々を陥れようとする。
カリスは命の危機に。
魔女裁判にかけられ、魔女でない証明は難しいため、修道女になるしか生きる道が無くなってしまう。
失意のマーティンはフィレンツェへ向かうことに。
建築の仕事は順調に得るのだが‥
カリスは女子修道院で働き、有能さを生かすようになる。
女子修道院の財産をごまかしたゴドウィンを伯爵と王に訴えるために、戦場へまで出て行く冒険行。
マーティンの弟ラルフは粗暴で、騎士として領主に任ぜられるが、自業自得で裁判で有罪になりかけるが‥
人を殺しても動じないサイテーの人格が戦場では役に立つという‥?!
悪役はかなり悪役で徹底しているが、それなりに生きていく運命が何とも。
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歴史エンターテインメントも中盤に入り、ガンガン話が動いていきます。
分厚い文庫ですが、あっという間に読みきりました。
本当に面白いです。
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ものすごく面白いのですが、ネタバレ全開の背表紙のあらすじには、少しがっかりさせられます。
これなければ、さらに面白いのに。
これでもか~これでもか~と、トラブルが押し寄せてきます。ままならないことばかりです。
昔だったら、ここまでしなくてもいいのに感じていたかも。
でも、これがあるからこそ、突き抜けたときの気持ちよさも大きいです。
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中巻まで読んで、前作より今作の方が好きかも?
相変わらずの不幸の連続。私の心が折れそうです(´Д`。)+
いや、しかし面白かった。
マーティンもカリスもグウェンダも・・・かわいそうすぎるよ。
それでも生きている限り、人は進んでいくしかないのですね。
下巻が楽しみすぎる!
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上巻もよかったけど、この中巻からはぐいぐい引き込まれて、夢中になって読んだ。修道院という世俗と離れたはずの世界で繰り広げられる、どろどろの政治的駆け引きにびっくりする。
中世イングランド社会のさまざまな階層、身分の人の暮らしが垣間見られて興味深い。農民や労働者は領主に逆らえず、商人たちも自分たちの利益や権利を守ることが難しい時代だったことが分かる。ペストの猛威、戦争の惨禍などもいきいきと描かれている。
主人公たちの人生もまさに波乱万丈、マーティンとカリスの恋にやきもきする。なんとか幸せになってほしい!
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敵役の妨害に愛情のすれ違い、ハラハラドキドキの展開はまるで全盛期の連続テレビ小説。章ごとに「来週に乞うご期待!」の展開で、一気に読んでしまいました。
それに14世紀、中世のイングランドの生活。ペストの波状攻撃。臨場感あふれる描写も隙がありません。
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人がどのように振舞うべきか、考えさせられる。語られる時代は違うが、人との交渉や心にとめておくべきことの勉強になる作品。淡々と語られる物語は、とても読みやすい。長い作品だが、一度入り込んでしまうと、抜けることが出来ないくらい読みふけってしまう。
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あ~面白い!
続きが気になる。
まさか、あの2人があんなことになるなんて……。
それにしても、ゴドウィンやラルフのムカつくこと。
器の小さいやつが権力を持ったらろくなことないね。
けど今回の災厄は、地位や性別関係無く降りかかってくる。
これが登場人物にどう影響するのか……目が離せない。
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中巻では、修道院長となったフィリップが、市を開き交易を盛んにしてキングスブリッジの繁栄に貢献する。その富を得て念願の大聖堂建立に着手する。
一方、旧のシャーリング領主を襲い新たにシャーリングの領地を手に入れたハムレイは、キングスブリッジの繁栄が妬ましい。時のイングランド王であるリチャードになんとか取り入り後ろ盾を手に入れると、なにかと邪魔だてをして修道院長の顔を潰したいと目論む。その手練手管は建築素材である石切場を襲ったり、教会側で院長と反目する司教と手を組んだり、キングスブリッジの街を焼き討ちにしたりやりたい放題である。
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百年戦争、ペストを背景に中世英国都市キングスブリッジを舞台に描かれる中世絵巻第二部中巻。
主人公が現代視点の知識持ちすぎとかご都合主義とかそういう批判はしてはいけない。純粋に歴史エンターテイメントを楽しむべき。引き続き無茶苦茶面白い。
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聖職者ですら悪意を持って世の中を牛耳る世界…なんて未開でいやな世界なんだ。こんな時代に生まれなくてよかった。今の時代はまともだし…と、読んでて思うが、今から500年後の世界の人から見たら、2000年代はなんて不自由な生活をしていたんだ、と思うのだろうか。
そして大きなターニングポイントのペスト。はたしてキングズブリッジでは誰が生き残れるのか…。(誰を作者が残すのか)