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ぼくと1ルピーの神様(ランダムハウス講談社文庫)

ぼくと1ルピーの神様 (ランダムハウス講談社文庫)

ヴィカス・スワラップ (著), 子安 亜弥 (訳)

  • 全体の評価 53件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:84024pt
  • 発行年月:2009.2
  • 発送可能日:購入できません
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商品説明- 「ぼくと1ルピーの神様」

クイズ番組でみごと全問正解し、史上最高額の賞金を勝ちとった少年ラム。警察は、孤児で教養のない少年が難問に答えられるはずがないと、不正の容疑で逮捕する。しかし奇蹟には理由があった—殺人、強奪、幼児虐待…インドの貧しい生活のなかで、少年が死と隣あわせで目にしてきたもの。それは、偶然にもクイズの答えであり、他に選びようのなかった、たった一つの人生の答えだった。話題の映画『スラムドッグ$ミリオネア』原作、待望の文庫化。【「BOOK」データベースの商品解説】

ユーザーレビュー- 「ぼくと1ルピーの神様」

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6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/03/10 14:04

インドのカオスとミステリー

投稿者:ひろし(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

一人の青年がクイズ番組で不正を行ったとして、インド当局に逮捕されてしまう所から物語は始まる。12の難問に連続で正解すれば、10億ルピーという途方も無いお金が手に入るというその番組。しかし番組側はまさか12問突破する者はいないだろうと目論んでいた。ところが一介のレストランのウェイターだった18歳のラム・ムハマンド・トーマスが、12問見事突破してしまったから大慌て。警察に裏金を約束し、拷問して不正をしたと虚偽の自白をさせるように依頼する。ひどい拷問にラムが屈しそうになった時。弁護士を名乗る女性が青年を救う。警察からラムを連れ帰った女性が真実を問うと、ラムは間違いなく全ての問題を自力で解いたと言う。彼は「知識」ではなく「体験」から、全ての問題が解けたのだというのだ。そして物語は彼の人生のエピソードを追いかけながら、実際の問題とオーバーラップさせて進んでいく。彼は本当に人生経験だけで、全ての問題を解いたのだろうか。
なるほど面白い構成だ。問題が一問進むごとに、彼の人生がオムニバス形式で展開していく。そしてそこに垣間見られるのは、インドという国の文化と風俗。そして貧困層裏社会の、暗い部分。そんなインドの「混沌」というよりは「めちゃくちゃ」な最下層を、ラムはどのように生き抜いてきたのか。ある時は人売りに売り飛ばされかけ、悲惨な死体を数多くその目にし。ついには自ら、人の命を殺めてしまう事もあった。その度ラムはそれまでの人生を捨て、インドの新しい街で人生を始めるのだが。
ラム・ムハマンド・トーマス。ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教の入り混じったその名前が、この作品に描かれるインドの混沌そのものを現しているようだ。またミステリー的な物語としてもとても面白く読め、すぐに物語に引き込んでくれる名作。さあ彼は無事10億ルピーを手に出来るのか。彼の話を我慢強く聞き続ける女性弁護士の正体とは。そして表題にもなっている、彼がずっと大事にしてきた「幸運の1ルピーコイン」にも、秘密があるのだが。全ては作品の最後に、明らかになる。
それからこれは余談になるが。12の話のどの部分が問題になるのか、と考えながら読むのもまた面白い。ちなみに私は、二つ当たった(笑。

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6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/03/05 14:21

混沌の中に自らの人生をつかみ取った少年の、悲しくも痛快な物語

投稿者:佐吉(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作(ただし設定やストーリーは、映画とは若干異なる)。

ムンバイ(旧ボンベイ)のスラム街に暮らす18歳のウェイター、ラム・ムハンマド・トーマスは、クイズ番組に出場し、みごと全問正解、10億ルピーという史上最高額の賞金を獲得する。けれど賞金の支払いをしぶる番組制作会社は、孤児として育ち、ろくに教育も受けていないラムがすべての問題に答えられるはずがない、不正があったに違いないと云いがかりをつけ、ラムを訴える。

しかし、ラムの全問正解にはちゃんと理由があった。出題された問題は、彼がこれまでの人生において図らずも知り得たことばかりだったのである。ラムは制作会社に買収された警察の拷問を受け、嘘の供述書にサインさせられそうになるが、間一髪、そこに現れた見知らぬ女性弁護士に救い出される。事情が呑み込めないまま弁護士の自宅に保護されたラムは、「幸運の1ルピーコイン」を投げて彼女を信じることに決め、それぞれの難問の答えをどうして知っていたのかを、順に彼女に語りはじめる。

そうして明かされてゆくエピソードの一つひとつに、インド社会の最底辺を必死に生き抜いてきたラムの、波乱に満ちた人生が映し出される。そしてそこに、現代のインドが抱えるさまざまな負の側面が浮き彫りにされてゆく。階級差別、宗教対立、児童虐待、暴力、強盗、売春、そしてあまりにも悲惨な貧困層の生活。

しかしこの物語は、素直で純真な少年が、持ち前の明るさと正直さで幾多の苦難を乗り越え……などといったぬるい話ではない。そもそも彼のラッキーアイテムは、母の形見のペンダントなどではなく、胡散臭い占い師にもらった怪しげな1ルピー硬貨なのである。その混沌に満ちた世界の只中にあって、何度も災厄に巻き込まれ、さまざまな困苦にあえぎながらも、ラムは自身の機知と機転だけを頼りに、自らの人生を切り拓いてゆく。その姿は、ときに狡猾とも云えるほど、したたかでたくましい。どのエピソードも悲しい情景を描いていながら、ラムの立ち回りはすこぶる痛快で、読後にはむしろ清々しい印象を残す。

ときに、ラム・ムハンマド・トーマスの、ラムはヒンドゥー教徒の、ムハンマドはイスラム教徒の、そしてトーマスはキリスト教徒の名前である。出自のわからない孤児ゆえのなんとも風変わりな命名だが、その冗談のような名前に、さまざまな民族が暮らし、いくつもの宗教が混在するインドの多様性がうかがえるように、ラム自身の生き様にも、インドという国の姿がしばしば重なって見える。

作中に何度か登場するからというわけではないが、この作品にはどこか、いわゆるマサラムービーを連想させるところがある。歌あり踊りあり、ロマンスあり、コメディあり、アクションありと、合理的なリアリティなどお構いなしに、娯楽映画のあらゆる要素をごった煮にしたマサラムービーの、あのわけのわからない圧倒的なパワーに似たものが、この作品からもひしひしと伝わってくる。それはつまり、いずれもがとことんインド的な作品だということだろうか。混沌を混沌のままに受け容れる懐の深さ。自らの困窮さえも笑い飛ばしてしまう強靭な精神。転んでもただでは起きないしたたかさ。絶望の淵にあっても、なんとか活路を見出し生き抜こうとするたくましい生命力。そんな途方もないエネルギーにこそ、インドの真のリアリティが映し出されているようにも思える。この物語の本当の主役は、あるいはインドそのものなのかもしれない。

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5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/03/03 01:07

奇跡的な必然。

投稿者:AQUIZ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

「不幸な境遇の少年」などと云う、もはや泣ける話の題材に散々使い古されて、擦り切れたような主人公を掲げての、予想外な快作。
出自で差別があり、宗教で対立があり、誰にも保護されないばかりか搾取され、虐待される孤児たちの居る国で、無知で教養がないのが当然だとされる少年。
事実、主人公である少年も、真っ当な教育を受ける機会は得られず、天賦の才で世界のすべてを見通せるわけはなくて。それでも、難問の並ぶクイズ番組で、10億ルピーと云う莫大な賞金を獲得してしまった。
そこから事件が始まるかに思える幕開けだが、物語は彼が出会った「正解」の出所を追っていく…
…作中の年度が明確に示されていないが、おおよそ現代。20億円近くもの破格の賞金。
無学な孤児には、決して答えることのできない筈のクイズに、少年は絶対の確信を持ち、次々と正解を告げていく。彼は、クイズの問題を知っていたわけではないし、その答えを知らされていたわけでもない。
ただ奇跡的な偶然で、少年はそれらの「正解」に巡り会い生きてきた。
では、彼の人生は降って涌いた奇跡の積み重ねに過ぎなかったのか。
そうではない。
考えることを放棄した善良さでもなく、懸命でさえあれば報われると信じる甘さでもなく、彼自身の知恵と機転で生き延びたことこそが奇跡で、それほどの人生の中には、誰にでもクイズの正解程度の拾いものがある筈なのだと考えさせられた。
主人公は、闇雲に正義を貫くことで自己防衛をせず、欲しいものを欲しいと願い、誰かのための道ではなくて、自分で拓いた道を転びながら(時には狡い近道をしながら)、生き抜いた。
ご都合主義的に起こった出来事が、カチリと必然であったのだと判る後半に至っては、幸運が確率や運勢で得られるのではないと語る。
彼に贈られるべき喝采は、もはや10億ルピー程度では足りない。

(ひとつ残念なことは、クライマックスに至って、この重要な「10億」と云う単語に、繰り返し繰り返し…作品の要になる単語である以上、たったひとつでも相当に間抜けだが…誤植が重なっている点。無論、作品自体の欠点ではない。重版時での早急な修正を願う)

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