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垣根涼介氏による人の心の在処を描いた長編傑作がいよいよ結末を迎えます!
2020/08/21 09:53
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『君たちに明日はない』、『光秀の定理』、『室町無頼』、『信長の原理』などの話題作を次々に発表されている垣根涼介氏の長編傑作です。中央文庫からは上下2巻シリーズで刊行されており、その下巻にあたります。同書の内容は、上巻に引き続き、ゴンサロへの復讐を果たし、日本警察からのパパリト奪還を急ぐリキの姿が描かれます。ある日、彼は、迷子になったカーサを送り届けた元刑事・若槻妙子と出会います。安らぎを夢見つつも、憎しみと悲しみの檻の中でもがき彷徨う男と女が描かれ、血と喧噪の旅路の果てに待つものは一体何なのかが読者の心に響きます。人の心の在処を描く傑作巨篇のいよいよ最終巻です!
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重い一歩
2011/12/26 10:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
垣根涼介の小説は、『ヒートアイランド』も『ワイルドソウル』も本書も、主人公は犯罪者である。未読の小説でもけっこう当てはまりそうだ。クライムノベル、あるいはピカレスクロマンの伝統ということか。この作品ではもっと重いので、あるいは映画でいうフィルムノワールのようなものか。
こうした設定にこの作家の志向が伺えると思う。どうやら人間の底に巣食う不可解な闇のようなものを描きたいのだ。それがしばしば犯罪者の形をとる。ここでいえば、リキはまだ生い立ちからしてわかるものの、普通に恵まれて育っていても闇を抱える妙子、あるいは武田が登場する。絶望、孤独、地獄、という言葉が繰り返される。だから、本書の結末に対してネットの読者評などで、面白かったが最後が残念のようなことが書かれる。だがそう書く読者の想いが、自らが感情移入した人物を救いたい、という気持ちから来ているとすれば、それは間違いだろうと思う。彼らはこうなったらもう滅びるしかないところにいるのだ。
最後はしかし、その点を除いても難しいと思った。それまでの重さや濃さからして、それに見合う結末の比重になっていないような気がする。才能の有り余る作家にありがちだが、語数を費やしすぎる傾向があって、そのせいもあるのではないか。
コロンビアマフィアという設定は、『ワイルドソウル』の場合と同じく南米で仕入れたネタということだろう。ここでも『ワイルドソウル』と同様、シリアスな社会的問題意識を根底に置いて物語を作っているが、それがさらに徹底されて、社会問題というだけではない人間ひとりひとりの闇にまで食い込んでいるのが印象的だ。『ワイルドソウル』以後、期待はずれという声も聞こえるし、実際そうだろうと思うものの、やはりこうしてシリアスな問題に踏み込んでいく迫力と、物語の構成力は大変なものだと思う。おそらくこれはハードボイルドタイプの娯楽小説というのではなくて(それをいうならかなりソフトというかウェットである)、真摯な問題追求の意識から厳しいものを取り上げた、ということだろう。
ただ、その結果として生じるらしい「濃さ」が少々しんどい。性とか暴力の描写の激しさもそれと連動しているのだろう。面白く読みながら、しかし、『ヒートアイランド』のときぐらいの爽快感で読めればいいのにと思っている自分もいる。
というわけで、今後この作家がどういう方向に進むのか、気にはなる。才能があるだけにかえって難しいという部分もあるのかもしれないが、いずれまた楽しませてくれることを期待したい。
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2009年04月 7/37
熱くてクールなリキとラティーノが魅力的。
リキの考え方に共感することが多い。
垣根さん、ファンです。
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カーサが胸に秘めている感情にかなりどきっとしました。そこまでの想像を頭の中で出来る作者にも脱帽。考えてみるとそのカーサの感情は、リキがベロニカに抱いていたものと同質のものですね。してみるとカーサの人生もまた、孤独にさいなまれる寂寞としたものになってしまうのか...。カーサを中心とした残された人物たちのその後も、作品化してくれればかなり面白いと思います。
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「ワイルド・ソウル」と比べるということはどうしたって分が悪い話なのだろうが、それをせずに単体として見るならば、娯楽小説として充分に質の高い作品だと思う。
各キャラクターの立たせ方が巧い。
垣根涼介氏が得意とする、ハードボイルド然とした男の生き様のようなものもちゃんと表現されている。
ただ、これも氏の作品に付いて回る特徴の1つではあるのだが、徹底的にリアルな部分と、思わず「バカな」と心中呟いてしまうようなハチャメチャぶりの混在が、時に違和感を生じることも。
エンディングも凡庸な気がした。
文章は基本的に上手な人だと思うのだが、稀にテキスト群としての調和を乱す表現が出てきたり、NHKを国営放送と表記しているような下りについてはぜひとも編集者含め留意してほしい。
また、主観的な感想に過ぎないが、車好きの1人として、氏の自動車嗜好のあまりの狭小特化ぶりには少し閉口気味かも…。
興味度合いが高い対象について描き込むことについては大いにやっていただきたいところだが、複数の作品中に同じような描写があまりに登場する、しかも相当に変態的なヴェクトルを持って…、という点についてはいかがなものなのだろうか?
後半は苦言ばかりを連ねてしまったが、冒頭に記したように全体的にはとても面白い小説。
あれよあれよという間に読了してしまった。
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切ないな、と。
男性登場人物はみな自分の好みです。格好いい。
女性登場人物は、相変わらず、一筋縄ではいかないタイプばかり。
というか、年増好み?
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ワイルド・ソウルと対になる作品と言われればそうだけど、これまでとはちょっと違った雰囲気。たぶんこれまでに何作か読んでいたからこそなんだと思う。リキが素敵。映画っぽい、娯楽的一冊。続けて繰り返し読みそうになった。
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ゆりかごで眠れ。
ってタイトルがいいですよね~。
もろ命令形。ドMな僕にはゾクゾクってきちゃいまう(嘘付けw)
ワイルドソウルと対を成す物語だと、著者が仰ってますね。コインの裏表だと。つまり、今作の主人公のリキとワイルドソウルのケイは双生児なわけですね。
うん。そう考えると、このタイトルは、なんか意味深がものになってきたぞ~(全然関係ないと思うけどw)
話としては、とてもバイオレンスで、スピード感があって、めっちゃ面白いですね。恒例の女性との絡みが少なくて、あっさりしてるのは、多分リキがカッコよくて、完璧すぎて、隙がないから、今ひとつ内面にシンクロしきれなかったんだと思いますが。
そんなこんなで★3つ。
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シカリオ救出劇後半というか、メインかつ、薬中の刑事、元警察のベビーシッター、引き取った物乞いの娘、シNo.1シカリオと、No.2シカリオ、対立組織を含む、オールスター勢ぞろいの愛憎劇。
こういう作戦実行のときの緊迫感とか、ぎりぎりなスリル感は、なんか前にも読んだことあるカンジ?と思いつつも、先が気になって止まらないなー。あと登場人物のゆがみ方とか、それでも憎めない描き方も相変わらずさすが。
いい話かと聞かれると、どうかと思うのだけど、なんか読んでしまうんだよなぁ。
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コロンビアマフィアの最後はどうなるのか。エンターテイメントとして面白かった。ワイルドソウルに比べると登場人物の内面を中心にしている感じがした。ラストはやはりそうなったかというところ。
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垣根さんの本は、ときに異常に性描写が強くてしばらく敬遠していたが、この本はワイルドソウルと並んで読み応えがあった。最後の襲撃シーンもリキ中心で描かれていれば、もっとラストに感情を込める事ができたかも。。
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下巻に入り明らかにテンポアップ!上巻でもう飽きたかなあとか思ってたけど、やはりこの世界観には引き込まれた。日本人的甘さを抱えた主人公リキ、妙子やカーサ、独特の感性の竹崎、パパリトをはじめとするギャングの部下など等キャラがたっているからだろうと思う。ただし、ラストは好きではない。昔見たドラマ「振り返れば奴がいる」みたいだ・・・これは名作「ワイルドソウル」が良い結末過ぎただけに、こうせざるを得なかったのでしょう。あとがきで「ワイルドソウル」と対を成す作品っていってますし。私の正直な感想としては「ワイルドソウル」の80%くらいの出来・面白さといったところです。まだどちらも読んでないって人は、「ゆりかごで眠れ」をお先に読まれたほうが楽しめるかもです。
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ワイルドソウルほどはグイグイ来なかったけど、それでも十二分に面白かった。コロンビアの麻薬組織話はうっすら聞いたことあったけど、改めて読むとここまで凄かったのかと驚く。日系人に上手く絡めて物語を構築する様はさすが。南米取材時の旅行記も書いてるみたいなので、読んでみようかなー。
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生まれたときに、すでに人生の半分は決まっている。それを変えられるのは・・・。
最後はこうなるだろうな、と思ったとおりの展開。「やっぱり、そうか」と期待通りの結果に満足な反面、ちょっと淋しかった。
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ワイルドソウルと対に位置する作品のようで、なるほどストーリーの流れは似ています!
ベロニカの死、カーサの浮浪児へと至るまでの流れがあまりにも切なすぎる。私たちが生きていく中で思うようにいかないことは多すぎる。そしてそんな失敗や後悔から逃れようとする、しかし憎んではいけない!明るい作品でもなければハッピーエンドでもないのだけれど、前向きにしてくれた作品でした。