紙の本
かつての新書を思い出させてくれる良書。子どもの自己肯定感を育むことの大切さを教えてくれる。
2010/10/10 13:32
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みなとかずあき - この投稿者のレビュー一覧を見る
人が生きていくには自分に対するほど良い肯定感が必要だと思う。それがうまく持てないでいると、例えば「ひきこもり」になったり、例えば非行に走ったり、あるいはメンタルな問題を抱えたりするのではないかと思わせられる人たちに出会うことがしばしばある。このことは何も私が言いだしたわけでなく、これまでにも多くの人たちがさまざまな言葉や概念を用いて語っている。その1つに「自尊感情」と呼ばれるものがある。英語ではセルフ・エスティーム(self-esteem)と呼ばれているもので、本書では「質問紙法による自尊感情の測定を考案した」ローゼンバーグが定義した「自己イメージの中枢的な概念で、一つの特別な対象、すなわち自己に対する肯定的または否定的な態度」に基づいているが、日本語では他に「自尊心」「自負心」「自己評価」「自己尊重」「自己価値」「自己肯定感」などとも訳されるものである。
本書はそのタイトルにあるように、その「自尊感情」が最近の日本の子どもでは低い、あるいは高まってこないということが問題だと言っている。まったくその通りだと思う。
上に述べたような「自尊感情」の定義から、先行研究からわかった特に日本人の自尊感情のこと、著者らが行った自尊感情を含む子どもの精神面の健康度の調査研究、その研究から得られた日本の子どもの自尊感情の低さの問題、なぜ自尊感情が低いのか、そしていかにして自尊感情を高めることができるような世の中にしていくのかという著者の考察まで、結構複雑でむずかしい問題をわかりやすい言葉で述べているので、著者が言わんとしているところがよくわかる。私の限られた臨床経験からも感じていることに近いものがある。
やはり何か日本の子どもたちは自分に自信が持てないというか、自分に対してほどよい肯定感を持てないで生きているのだろう。それをどう打開していくのかについては、この本でも著者の提言としか言えない部分も多いが、それでもこの問題を考えることは子どもだけでなく、大人も含めた私たち自身が生きやすい世の中にするために必要なことだと思われて仕方ない。
この本の評価すべきところは、「自尊感情」に関係する問題を著者の限られた経験や考えだけで述べるのではなく、一定の研究の結果をもとにして述べられているところだ。具体的には「学校における子どもの心の問題に対応する医療・心理・教育の協働システムの研究」として厚生労働科学研究、子ども家庭研究事業で行われた研究の成果が示されていることだ。
かつての新書と言えば、それぞれの分野の専門家が最新の研究の成果を一般人にわかりやすく解説するモノグラフだったように思う。そんな新書を読んで、自分もこのような仕事をしたいとか研究をしてみようと志した若い人たちがいたと思う。
この本は、そんな昔あった新書を思い出させてくれた良書だと思う。
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日本の子どもの自尊感情に心理学的テストを用いてアプローチ
その点数の低さについて子どもたちの裏にある家庭環境、社会環境、学校環境を通して解説
ただ、個人的には一読しただけでは「なぜ」なのかが理解できなかった
再読の必要がありか。。
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自尊感情ということばには,ポジティブな意味もネガティブな意味も含まれているのですが,自分のいいところや悪いところ,得意なことや苦手なこともひっくるめて,自分自身をどう感じているか,ということ。
自尊感情というちゃんとしたことばで考えられてはいなかったけれど,私がこれまでこどもの患者さんとお会いするなかで感じていたことのひとつに「自分のことが好きだと思えていないこどもたちが多いなぁ」という思いがあったので,とても興味を惹かれてこの本を手に取ってみました。
こどもの時期に自尊感情をほどよく高くもつことって本当に大切なことだと思います。
だって,こどもの頃にうまく自尊感情を高めておかないと,おとなになってからほどよく自尊感情を高めていくことはきっと難しいことだと思うから。人生が後ろに進んでいくに連れて,自分のすることの選択は狭まっていくでしょうし(段々進むべき道が絞り込まれていくのだからあたりまえのことですが),周囲からの要求水準も厳しくなっていくでしょうし(たとえば算数が苦手でも走るのが得意なら運動会のリレーで活躍する機会があったりするこども時代と比べると,仕事でミスしたら職場での評価がガタ落ちするなどおとな時代はずっとシビアですよね)。
でも,ここでちょっと難しいなと思うのは,こども時代にその子の自尊感情を決める要素としてまわりのおとなからの評価が重要になってくることなんですよね。
こどもの失敗やつまずきがあったときに,「今回この場面ではうまくいかなかったかもしれないけど,あなたにはこんなステキなところがあるよね」ってメッセージをさりげなく,でもきちんとその子に伝えてくれるおとながいたら,その子は自尊感情をうまく保つことができそうです。
でも,こどもの失敗を厳しく責め立てたり叱りつけたり,そのひとつの失敗がその子の価値や人間性にまで大きく影響するかのような評価を与えたりしてしまったら,そのこどもの自尊感情は低くなってしまうように思います。
ということは,こどもに関わるすべてのおとなたち(おそらくおとなのほとんど全員ですよね)がこどもたちの自尊感情にちゃんと意識を向けながらこどもたちと接する必要があると言うことになるんじゃないのかな,と思うのです。
特に,こどもと関わることを職業とするひとたちと,子育てをしている「親御さん」や「保護者」たち。
学校の先生方などと比べたら,私が会うことのできる子どもたちの数は決して多いわけではないけれど,私自身もこどもたちと会うときには自尊感情を大事にした関わりをしていきたいな,と改めて思わされました。
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QOL尺度(QualityOfLife)を中心に話が展開。専門家の視点で数字の羅列が続き、前半から中盤にかけて素人にはやや読みづらい。
後半になると、いじめや虐待の事例があげられ、学力低下、生活習慣、いじめを軸に自尊感情との関連が示され、説得性を増してくる。
セルフ・エスティーム(=自尊感情)は、必ずしも良い響きだけを持つわけではなく、自分に対する感情を中立的に表現する言葉、と考えられる。
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国際調査結果を比較すると、日本の子どもは他国の子どもに比べて、突出して自尊心が低いという。自分自身や学校の満足度に関する質問に対して、5段階の下から2番目「ほとんどない」を選択するのが、日本の子どもたちの標準だという。何故日本の子どもたちの幸福度、クオリティー・オブ・ライフは最低レベルなのか?
・情報、選択肢が多く、多数の情報の中から選ぶだけで脳が疲弊する。
・食生活が乱れており、睡眠時間も短く不規則。
・中高年となった団塊の世代あたりは元気だが、バブル崩壊の被害を被った子どもたちの父親、母親世代は自己肯定感が低く、不安を抱えている。親、特に母親の自尊心の低さが、子どもたちにも伝わる。
・親が思っているより、子ども自身の自尊感情が高い場合はほぼなし。たいてい親が思っているより、子どもたちの自尊感情は低い。
・自尊感情が高いと、つまずいた時、立ち直りが早い。子どもたちの自尊感情の低さは個人的、家族的要因より、環境的要因が強いので、社会で取り組むべき課題。
・日本人は、メールやネット上の言葉のやりとりで傷つくことが、他の国の人よりも多いという。他国の場合、メールやネットの言葉は、所詮書かれた言葉なのだから、何か問題があったら、本人に直接会って話し合ったらいいと思うそう。日本は伝統的に手紙など書き言葉に価値をおく文化のようだ。逆に言うと、外国は話し言葉を書き言葉より重視する。故に意見主張が活発になるが、日本では、直接の意見表明をさけ、メールで意見を伝える傾向が強くなっている。
・テレビゲームのやりすぎも問題。ゲームやネット上のコミュニケーションはパターン化しやすい。現実に人と話し合う機会をたくさん持って、パターンから外れたコミュニケーションを経験することが、自尊感情の育成に必要。
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本書が「日本の子ども」と特定しているのは,大方の予想通り,「日本の子どもたちの自尊感情が他国に比べて低いと言われている」ことに関連して述べているからです。
特に,第6章「日本人の子どものセルフ・エスティーム」がおもしろかったです。
著者が修士課程で学んだときの心理学者ロバート・キーガンの「自己変革の発達段階」という捉え方を教えてくれます。その「ステージ3」と「ステージ4」の段階との違いが,日本人の場合には当てはまらないのではないかという話。
日本人は,『「達成動機」と「親和動機」との間に正の相関関係が見られる』ということです。これだけ書いても何の子とか分かりませんね。私の感想が舌っ足らずになってしまいましたが「何のこっちゃ」と思う方は手にとって読んでみてください。
私は本書を読んで,日頃の子どもへの対応の仕方や,今,職場で流行っている「自己管理目標」のことも考えてみました。
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著者が行ったQOL調査は自治体の協力もあり規模が大きく、有意義ではある。しかし、この本には調査の結果である自尊感情の低さの原因と考えられる社会環境的な病理あるいは現象を個別に取り上げてはいるものの、場当たり的で個々の解決策も感情論の1,2行で終わっている。
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前から気になっていた本だ。僕自身もあんまり自尊感情が高くないのは自覚してたから、なんとなく興味を持っていた。
児童精神科医が書いた本なんだけど、全然難しくない。素人にも分かりやすく書いてくれてある。でも、あまり新鮮味はなかった。目から鱗的な発見もなかった。でも、分かりやすくて面白い本だ。
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少子化の今貴重な子供として両親のみならず祖父母の願望や過剰な悩みの対象となりやすく生まれながらに親や祖父母を慰める役割を背負っていると言えますp114
彼の日本社会の今後の教育論には納得いかず。そんな甘いこといってたら日本やばいよ。格差広がるだけだし。それとも下流層の学力や生徒の意欲がわたしの想像を超えてるのか?
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[ 内容 ]
児童精神科医として診察をし、学校現場からの相談も受けている著者は、「居場所がない」「疲れた」と訴える子どもたちと接している。
そのような中、日本語の子ども版QOL尺度の開発に関わり、調査を行ったところ、多くの子どもたちが自分に自信がなく、自分自身や学校などの満足度に関する質問に対し、下から2番目の「ほとんどない」という答えを選択していることに衝撃を受ける。
5段階の下から2番目が「標準」となっている日本の子どもたちの心の現状。
ユニセフの調査でも、日本の子どもの主観的な幸福度は、他国と比べて突出して低いことが報告されている。
本書では、調査結果や診療・学校現場での豊富な事例をもとに、自尊感情という視点から、子どもたちの現況を見つめ直す。
[ 目次 ]
第1章 注目のキーワード「自尊感情」を問い直す
第2章 子どもの精神面の健康度を測る-QOL尺度の開発
第3章 自尊感情が低い日本の子どもたち
第4章 なぜ子どもたちの自尊感情が低いのか
第5章 専門外来で診る子どもたちと自尊感情
第6章 学校現場で子どもの心の問題をサポートする
第7章 社会・教育病理現象と自尊感情
第8章 子どもとどう関わったらよいのか?
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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タイトルと本旨が違いますね。
この本は、子どもの自尊感情が低いことによって起こる問題と、子どもとどう接したらいいか、ということが中心です。
要約すると〜、
現代日本の子どもは満足のいく生活が送れていないというデータがある。
理由の1つに、自尊感情の低さがある。
身近な大人の(主に親)過剰な期待で子どもに大きなプレッシャーを与えたり、虐待されたり、いじめられたり、過度に縛られ叱責されることが子どもの自信喪失に繋がり、自尊感情を貶める。
自尊感情の低さは、子どもの非行や不登校、いじめ、自殺などの諸問題を引き起こす。
叱るのではなく、褒めることが大切。子どもの自尊感情を育む教育を。
という感じだろうか?
もっと細かく大切なことを述べているけど…。
確かに一理あると思います。
自尊感情。
全く、褒めて伸ばすなんて甘ったれてる、怒られてしょげる子どもは弱い、などという意見をお持ちの方もいるのでしょうけれど、時代はそういう風に流れているんですよ。
そういう人に限って、「自分が子どもの頃は…」なんて意味のない対比をするんです。
時代は誰のせいでもなく移り変わってゆくのだから、その中に偶然生まれ落ち、その環境社会に生きていくしかない子どもたちを責めることはお門違いというもの。
子どもを責めるよりも、この混沌とした社会の中でいかに教育を行うべきかを考え、実践していく方がよっぽど有益だと思う。
文科省とかのお役人さんがゆとり脱却だのなんだのって言って色々引っ掻き回しているけれど、教育最前線の状況を把握し、そこで動く教師や児童生徒の声をしっかり聞き入れながら、取り決めなどは行ってほしい。
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「自尊感情」をめぐっては、まだまだ開発、研究、実践の余地があると感じた。
その上で、本書の優れている点は
1.子どもの側の小さな声を丁寧にくみ取っていること
2.子ども版QOL尺度の公表
3.オランダ式教育メソッドと海外日本人学校の運営の紹介
4.的確な事例の紹介と分析
ではないでしょうか?
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「自尊感情」って
「ありのままの自分を受け入れ、良いんだって思う」こと。
と解釈しました。
いろんな切り口やデータから語られていたけど、
「そりゃそうじゃん!!!」ってことばかり。
もっと具体的に誰か解決できる人はいないの?
だれか頑張っているの?
なんて思いながら読んでいました。
どう考えたって、この本に書かれた現実は悲しすぎるし、
でも、最後の章に書いていた解決策も何か違うと思う。
もう人と人の繋がりが壊れているのかなって思った。
目と目を見て、相手の事を思って、
本音を話して、ぶつかってっていうこと。
いろんなものがありすぎて、
シンプルにできない世の中なんだなって。
だから私は、YAのワークショップが世の中に必要だと思うんだ。
動かなきゃ。
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「子どもたちには、プライドもあり将来もあります。
大人の不安に振り回されずに、子どもたち自身がたくましく、
目標、希望を持てるように支援することが大人の役目です。」
こんなことを、本に書いてもらわなければ解らない大人たちの作った社会で育つこと自体が不幸だ。
大人は皆、子供だったことがある筈なのに、どうして忘れちゃうんだろう。
それとも、大多数の大人は、子供の頃、何にも考えない、ただ元気で無邪気な生き物だったんだろうか…。
そうじゃなかった私が、今の子達のハシリだっただけなのか。
私の周りにいたコドモ達は、もっとずっと繊細で明晰だった…ように見えたけどな…。
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著者の策定したQOLに関する細かな記述は多いものの、内容は少し具体性に乏しいというか実はあまり頭に入ってこなかった。どうも一般論に聞こえてしまうというか…。とはいえ、日本従来の一斉教育が抱える問題であったり、KYという言葉に見られるコミュニケーション偏重の問題など、自尊感情に影響するファクターについて述べられており、現象の理解には役立った。なんというか、QOL尺度による調査は目安として重要だとは思うが、実際それだけで分かる事は実は少ないのかも。本書の構成としてどうしてもQOLのペーパーテストの内容が中心になっているが、肝腎の現象の原因であったり分析は調査結果を肉付けするために推論ベースで書かれているだけに思えてしまったりしたので、いまいち伝わってこない部分が多かったのかもしれない。