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藤原道長「御堂関白記」 全現代語訳 下(講談社学術文庫)

藤原道長「御堂関白記」 全現代語訳 下 (講談社学術文庫)

藤原 道長 (著), 倉本 一宏 (訳)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:1,41840pt
  • 発行年月:2009.7
  • 発送可能日:1~3日
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6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/10/23 17:01

1000年前のブログを読むには

投稿者:うみひこ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 この書評を下巻から書きおこそうと思ったのは、
この下巻の「おわりに」にまず注目してもらいたいからだ。
この日記の面白い読みどころが、
実に平明な学者臭くない文章で書いてある。
成る程、そこに注目して読めば、
この日記が、ますます面白くなるな、
と思わせるものが、いくつもある。

例えば、「文字について」
各巻の冒頭に、自筆本の写真が載っているのだが、
確かに道長の字は汚い。
おまけに黒々と墨で消してあったりする。
じゃあ、本当にこの国第一の権勢を誇った人が悪筆だったのかというと、
それは、人に見せないつもりの日記だからであって、
寺に奉納した教典の文字は達筆だったという。
そう知ると、この日記が、記録としての半ば公式な日記ではなく、
個人的な日記だったのだということが納得できて、興味が引かれる。
そして、ますます、この文字から、
道長の人柄がのぞけてきそうな気もしてくる。

そんなふうに、この日記の特徴を書いてある
この「おわりに」を読んでいくと、
道長という人への興味がどんどん湧いてくる。
例えば、「記されなかった記事について1」等を読んでいると、
記されなかった一条帝の言葉を色々推理したくて溜まらなくなる。
また、「物の怪」の記されているのは
ただ二カ所だけなのだという指摘もある。
怖いことについて、書くのを避けていたらしいという。
そんな物の怪についての記述のあり場所を探してみる。
そんなふうに、この日記から
自分なりの何かを見つけ出していくのも
面白いだろう。

 けれども、ある日、友人に、
「一巻を買ってそのままにしてある。
 この日記は小説ではないから読みにくい」
と、言われた。
確かに、貴族の日常が
毎日素っ気ない文章で書かれているだけ
と思えば、つまらないかもしれない。
でも、日本史の中ではダントツの有名人、
あの道長さんがブログを書いたと思えば、面白さは抜群だと思う。
何せ、身近にいるのも、安倍晴明やら紫式部やらの有名人だらけ。
次から次へ歴史的事件の中で、
面白い日常が発掘されるてくるからだ。

 とにかく、この本は、上中下とも、
用語解説、人物註、年表、地図、
内裏図、土御門第図などが付されていて、
手ぶらで通勤電車の中でも、読める仕組みになっている。
そして、読みながら、
現代の地図にかぶせられた京都の地図を見ていると、
現代とは違う平安京の様子が、
まざまざと目に浮かび上がってくる気がするのだ。

また、先ほども書いたように、
各巻の冒頭に掲載された自筆の文章の写真がある。
上巻の冒頭の、黒々と墨で塗り潰された跡のある
安倍晴明宛の文の写真。
下巻に掲載されている「この世をば」の和歌の写真。
これらを見ると、その時の感情まで、
墨の間から薫ってくるような気がして、惹きつけられる。

 頻繁に書き付けられる天候の様子に、
小学生の時に買ってもらった日記帳にも、
必ず天気の記載欄があったのを思い出す。
農業国日本の歴史なのだろうか。

そして、
「安倍晴明が五竜の祭を奉仕したところ、天の感応があった、
 被物をたまうこととする」
の一文に、朝廷の祭祀的役割の重要性を思わされるのだ。

かと思うと、
夢見が悪かったり、犬が死んだり、
何かというと物忌みで、
内裏に行かない奇妙な貴族の日常も、ここにある。
なんだかんだと、みんな休んで出てこないまま、
会議もできない朝廷の不思議さ。

 袴や馬が山ほど献納されてきて、
それをどこへやったとか、
誰に下賜したとかの記載の多さも気になる。

ここら辺りから、歴史的な何かを発見していくか、
陰陽師の活躍する怪しげな時代への幻想を得るかは、
読み手次第のお楽しみだろう。

ところで、私が一番気になるのは、
「羮次(あつものついで)を奉仕する」の一文だ。
野菜や魚肉を熱く煮た吸い物(鍋料理)の用語解説に、
宮廷で鍋パーティをする貴族たちの映像が、
頭の中で動いてしまって離れないのだ。
鍋奉行はいたのだろうか。
それとも、下手な料亭風に、お給仕が全て取り分けて、
貴族たちは、ただ、食べるだけだったのだろうか。
いや、それならば、
この言葉だけが時たま出てくるのは、おかしいだろう。
やはり、一種の特別な宴会だったのだろう云々と、
想像が次々に膨らんでしまうのだ。

読みどころ満載のこの日記。
とにかく、飽きてきたら、まずは下巻でヒントをもらってから、
読み直してみてはどうだろう。

そして、独自の読み方で、この一〇〇〇年前のブログを
じっくりと、楽しんでみて欲しいのだ。

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