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種の起源 上(光文社古典新訳文庫)

種の起源 上 (光文社古典新訳文庫)

ダーウィン (著), 渡辺 政隆 (訳)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:88025pt
  • 発行年月:2009.9
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2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2012/01/18 23:38

世界の不思議を二つの原理で捉え直す

投稿者:king(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

科学史、進化生物学を専門とする渡辺政隆による進化生物学の古典の新訳。原本は1859年の第一版。岩波文庫版の訳文を吟味したことはないので比較はできないけれど、普通に読んで充分読み通せるものとなっている。原書に比べて段落等を増やしているらしく、ちょうどよく区切られているのもいい。

ただし、当時強い影響力のあった創造論に対するガードを固めるためと、進化論(ダーウィン自身は「変化を伴う由来説」または「由来の学説」と呼んでいる。進化は環境への適応であって進歩ではなく、誤解を招きかねない進化と言う言葉を避けた)自体がまだいくつもの難題を抱えていることもあって慎重に慎重を重ね、着想から二十年を経ての執筆となったことが反映した非常に周到な書き方になっている。読んでみて気がつくのは、幅広い資料を蒐集していることと、アマチュア等のネットワークを活用していること、そして自分自身も手間のかかるさまざまな実地検証を行って論拠を分厚く積み上げていることだ。これは、進化というのが何か決定的な証拠を提示すればよい議論ではなく、どうしても間接的な根拠から類推するほかない問題だということを、自身強く思い知っているからこそだろう。

まずダーウィンは人の手によって飼育、栽培されてきた動植物に見られる性質から話を始めている。ここでさまざまな実例を豊富に紹介しながら、そして自身も愛鳩家の組合などに参加して実際に飼育を行って、観察を積み上げていく様子が描かれている。それぞれに見た目の異なるいくつもの品種が、一種の鳩から人工的に作り出されたことを傍証とし、微細な変異の蓄積がいかに大きな違いを生み出すかということ、これと同じことが自然界でも起こりうるということを間接的に示す。

飼育栽培下における人為淘汰によって多数の品種が作られることと、自然淘汰によって新種が生み出されることには隔たりがあるという批判はあるけれども、この時点ですでに結構な説得力がある。人間がこれまでに行ってきたさまざまな品種改良を事例とし、より大きな時間を掛ければ新種が生まれうるだろうということは容易に想像できるからだ。

しかし、当然直接的な証拠がないので、決定的なことがいえるわけではない。それでも、変異と自然淘汰によって進化が起こったということにダーウィンは強い確信を持っていることが伺える。

「私自身は、本書で概要のかたちとして紹介した見解は完全に正しいと確信している。しかし、私の見解とは正反対の立場から見た多数の見解を何年もかけて脳裏に刻み込んできた熟達のナチュラリストたちを、これで説得できるとは期待していない。自分たちの無知を、「創造の意図」とか「デザインの統一」などといった表現の下に隠し、ただ事実を言い換えているにすぎないのに説明をした気でいるほうがよほど気楽だからである」(下)391P

世界にあふれるさまざまな動植物の様子や、分布など、何故このようにあるのか、という疑問に、創造論ではトートロジーでしか説明できない。しかし、変異と自然淘汰という二つの原理を採用すれば、自然界における生物のさまざまな謎が説明可能になる。元々そうであるように作ったとすれば理解できない不自然な体の構造とかもそうだ。

この説明力の高さはやはりものすごい。シンプルな二つの原理と、地質学的な時間スケールを用いれば、どうしてそうなのか、ということに説明が付けられるわけだ。ダーウィンはさまざまな動植物の分布等の事例を用いて、このことを根気強く説明している。ここらへんの詳細な具体例の面白さは本書の大きな魅力だろう。

150年前の自然科学の著作だというのに、今読んでも「だいたいあってる」感じがするのは凄いと思う。

以下ではダーウィンの力強い意志と、自説への冷静なスタンスが垣間見られる。

「この先も本書を読み進め、とても多くの事実を説明できるのは由来の学説以外にはないことを知った読者は、さらに一歩踏み出してほしい。自然淘汰には、タカの眼のように完璧な構造を形成する力があると認めることを、たとえその中間段階は知られていないにしろ、ためらうべきではない。必ずや理性は想像力に打ち勝つ。もっとも、自然淘汰の原理の有効性をそこまで拡張する困難さを誰よりも実感している私としては、そのことに少しでもためらいを見せる人がいても驚きはしない」(上)318P

今読んでみても面白いし、現代進化学の広がりを予告したような部分もあって新鮮な驚きもある。ここでは変異と自然淘汰のことしか紹介しなかったけれど、本書の内容は多岐に渡り、特に後半の雑種交雑の可否と、雑種が子をなせるかどうかを縷々論じたところは、種とは何か、種は実在するのか、という科学哲学的な問題として現在も議論がなされているようだ。

個人的には『種の起源』以降、この本の記述がどのように実証されたり、反証されたりしたのかを追った本というのが読んでみたい。「註釈『種の起源』」みたいなものを。

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