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自由貿易の罠 覚醒する保護主義

  • 出版社:青土社
  • サイズ:20cm/227,6p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-7917-6511-9

自由貿易の罠 覚醒する保護主義

中野 剛志 (著)

  • 全体の評価 11件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:1,99557pt
  • 発行年月:2009.11
  • 発送可能日:24時間

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商品説明- 「自由貿易の罠 覚醒する保護主義」

自由貿易パラダイムから保護貿易パラダイムへの大転回の予兆は、すでに現われはじめている。プラグマティズム本来の精神に則って、自由貿易を批判的に再検証し、保護主義の可能性を探求する。【「TRC MARC」の商品解説】

関連キーワード- 「自由貿易の罠 覚醒する保護主義」

ユーザーレビュー- 「自由貿易の罠 覚醒する保護主義」

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25人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2009/11/16 11:03

小人閑居して不善を書く

投稿者:塩津計(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

経済産業省。かつて「日本経済の参謀本部」とまで持ち上げられ、過大評価され、米国からは「Notorious MITI」とまで言われて徹底的にマークされた通商産業省は、今、見る影も無く落ちぶれ、仕事がなくなっている。日本経済が成長し成熟して、もはや国の世話が要らなくなって、文字通り仕事がなくなってしまったのだ。通産省出身の江田憲司曰く彼が勤務していた時の通産省の勤務は過酷で「通常残業省」などと言われていたそうな。それでも当時の通産官僚は意気軒昂だった。「日本は我々が支えている」というプライドが彼らの矜持を支えていたからだ。今は違う。経産省と密接なのは東京電力をはじめとする電力会社くらいで(電力会社は徹底的な規制産業で、コストプラス適正利潤などという時代錯誤の論理がいまだに罷り通っている別格企業群だ)、他の主要産業からは「用無し官庁」などと蔑まれている。仕事といったら中小企業の保護くらい。それくらい徹底的に落ちぶれたのが今の経済産業省なのだ。

これが今の経産官僚には我慢がならない。今でも官僚の世界は「ピン財務省、キリ文部科学省」といって、国家公務員上級職試験(今はコクイチという)の成績順に就職できる官庁の序列が厳然と決まっている。トップグループが財務省に就職し最下位グループが文部科学省に就職するのだ。往年では、経済産業省は財務省とトップ層の争奪戦を演じるほどの人気官庁だった。現在鳩山首相の秘書官を務める松井孝治は公務員試験をトップの成績で通過したが、あえて財務省を蹴って通産省を選択したという根強い噂があるくらいなのだ。それが今や見る影も無い。財務省は相変わらず「ピン」の座をキープし続けているが経済産業省は長期低落傾向に歯止めがかからない。

こういう異常に肥大したプライドを持った経済産業省の連中が、減る一方の仕事、権限の中で時間ばかり持て余すようになるとどうなるか。そのグロテスクな見本が本書だ。

官僚の腕の見せ所は「規制」の存在であり、「予算(補助金、公的機関による低利融資)」の配分だ。これがなくなると官僚は文字通り「用無し」になってしまう。だから官僚は「あとは市場に任せましょう」という言葉が大嫌いで、彼らは「市場原理主義者」というレッテルを多用して市場機能活用を唱える経済学者らを必要以上に誹謗中傷し、自らの権限と予算を死守しようとする。その為の口実に使われるのが「社会的弱者」で、「弱者」と「官僚」は共存共栄の関係にある。しかし、弱者はしょせん弱者で、そんなものを幾ら規制し保護しても「うまみ」は少ないし、そもそも社会的意義も少ない。やはり「うまみ」は産業の主流を占める「大企業」を規制してこそえられるものなのだ。だから経済産業省は「努力し上手くいっている産業」に規制の魔の手を伸ばそうとする。要らない保護の手を、あの手この手で施そうとする。

そういう意味で、先に城山三郎なる売文業者がものした「官僚たちの夏」のドラマは格好の応援材料になったに違いない。あのドラマの主人公は佐橋滋なる「規制原理主義者」で、岸信介を師と仰ぐ佐橋は、戦後の自由貿易の時代に戦前の満州国顔負けの「産業政策」を導入しようとして敗北した。彼の行おうとした保護政策はいずれも時代の波を見違えたあさってな政策で、佐橋らの逆の選択をしたからこそ日本は高度経済成長の道を歩むことが出来たわけである。

彼の趣旨は「経済学には様々な特殊な前提条件がついており、その結論には問題がある」というものだが「ゆえに経済学が教える自由貿易の理論は間違い」と結論付ける彼の理論は、当然ながら間違っている。人間社会を分析対象とし、社会を対象とした実験が許されない経済学という学問は、常に様々な前提条件をつけて論理を組み立てていかざるをえない。経済学という学問には多くの制約があり、限界があるのは自明のことなのだ。ただ論理学の基本が教えるとおり「Aはかならずしも常に正しいとは限らない」を幾ら証明したからといって、それは必ずしも「Bの正しさ」を証明したことにはならないのに、中野は「自由貿易を支持する理論」の欠陥や限界を一生懸命あげつらって「貿易規制」「保護貿易」「産業政策」の導入が「常に悪とは限らない」と言い募るのである。そりゃあ、保護主義だって常に悪とは限らないだろう。そんなことは誰もが知っている。しかし貿易立国にして世界第二の経済大国である日本が保護政策を導入したら、得するよりも損することのほうが多いことは、誰もが知っていることである。

著者は現在日本が悩んでいるデフレの元凶は中国であるという。だから中国との貿易を制限せよと言いタイらしいのだが、本書には中国の名はひとつも出てこない。悪者にしやすいアメリカの名は悪役として矢鱈に出てくるにもかかわらずである。こういうところも臆病というか根性がないというか、どうにも中途半端である。

ただ注意しなければならないのは、こういう「小人閑居して不善を書く」人が、ひとり中野くんに留まらず、経済産業省内に「平成の佐橋滋」あるいは「平成の岸信介」になることを夢想し、規制と権限を大幅に強化して、かつての「日本経済の参謀本部」としての経産省の地位を復活させ、頂点に君臨して宜しく日本経済全体を差配したいと目論む「不逞の輩」が霞ヶ関には複数いるということだ。先日、鳩山由紀夫の秘書官に抜擢された佐野忠克氏も貿易制限論者で知られるエマニュエル・トッドの信奉者として知られる。しかし、中国やインドを標的にし、差別的な産業政策を日本が導入したらどうなるか。その結果は火を見るより明らかであろう。我々が辛うじて豊かな生活を維持できているのは中国から安くて良質な製品が多数輸入されているお陰なのであって、これを押さえ込んだら物価は直ちに跳ね上がりインフレが始まる。それだけでない。マハティールがかつて行った「もし日本なかりせば」演説で述べられたとおり、先進国と後進国の格差は再び拡大し固定化して、世の中は世界のシステムそのものに不満を抱く中国インドを中心とする勢力と、これを維持しようとする勢力に再び二極化し不安定化するであろう。中野は「賢い政府(官僚)が導入する適切な保護貿易措置は経済成長の足を引っ張ることは無い」と駄法螺を吹くが、規制する側には適切な保護措置も、相手側からして見れば、ただの自分勝手な政策にしかうつらない。

いくら東大を優秀な成績で卒業したからといって、卒業後、学生時代に思っていた通りの処遇を社会的に受けられるとは限らない。この当たり前の事実を「弱者保護」「社会正義」「弱肉強食」の三代話に摩り替えて自己正当化を図ろうとする「用無し官庁」の駄法螺に我々は騙されてはいけないのである。

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