紙の本
薬の「2010年問題」とはなにか。「医薬品・医薬品業界」からこの問題を明快に説明する。
2010/04/17 09:48
11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2010年は医薬品業界には大変な年なのだそうだ。一体どういうことなのか。ここ数年新薬がパタリと生まれなくなり、大きな利益を上げていた薬(ブロックバスターという)の多くで特許の期限が2010前後に切れてしまう。売れる薬の特許保護が外されて新薬も出てこない、ということは会社組織としては存亡の危機。簡単にするとこういうことらしい。
なぜ新薬が生まれなくなったのか。なぜ特許で守られているのか。それがなぜ危機といわれるのか。本書は「薬とは何か」「医薬品を創るとはどういう行程か」からはじめ、要領よくこの問題を説明している。さらには組織というものの性(さが)までも考えさせてくれた。
患者を救うという崇高な目的のもとに莫大な資金や情報が飛び交う薬の世界。薬の基礎から、製薬会社のありようと現代の問題までを小気味良く解説してくれる一冊である。
著者は医薬品メーカーの研究職を経験し、現在はサイエンスライター。分子の面白さをわかりやすく説明した「有機化学美術館へようこそ」の著者でもある。本書もテンポの良い文章で、問題点を浮き出させている。
前半部分は、薬や製薬会社の仕事を理解するための一寸した解説としても充分読める。具体的な医薬品の名前や作用、会社名なども出てくるが難しくならず、かえって「具体的で良くわかる」効果になっている。2010年問題に関心がなくても、面白い。
新薬が登場しなくなった原因分析として、世界的な「大合併」にも要因がある、と著者は書く。大型化すれば扱う薬の種類も増え、安定するが特殊な活動はしづらくなる、などメリットとデメリットがともに発生するのである。
終り近くの第五章で「画期的な医薬の創出に中心的な役割を果た研究者が何人も会社を中途退職している(P180)」とあるが、これなども巨大化したことで発生したマイナスの面の表われとも考えられる。これは「グローバルな競争力のため」と合併した他種の会社(銀行やスーパーなど、合併で名称がめまぐるしく変わり、覚えるのが辛い、と感じた人は少なくないだろう。)にも共通する問題点でもあると思う。
しかし、ではもう新しい薬が世に出ることはないのかというと、暗い話題ばかりではない。幾つかの新しい模索の方向も示されている。「薬」という物質ではないが、病気を治療するものとして注目されているiPS細胞などにも触れ、今後への期待をつないでくれている。
2010問題が現実化しても、一日でどうなる、ということはないとは思う。しかし薬のお世話になっていない人はいないぐらいの現代社会。薬のしくみ、薬が世に出るための仕組みを少しは知っておくことも必要なことだと思う。時にはこういう本で現状認識もしなおしてみたい。
電子書籍
新薬が生まれない理由
2016/10/25 08:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:せいけん - この投稿者のレビュー一覧を見る
30年前の新薬開発者の講義がオカルトに思えるほどの技術の進歩を持ってしても新薬が生まれないのはなぜか。命を救うためという純粋な開発者の使命感とは裏腹に、知識が増すために厳格化する安全基準と増加する開発費用の矛盾。研究するほど深まる生命の神秘。健康や健康産業に興味のある方は必見。
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私(薬剤師)にとって、特段目新しい事が書いてあるわけではないのですが、一般の方には、大変分かりやすい製薬業界の解説書…と言う印象です。特に、病院で処方されるお薬の開発から発売されるまで、また、ジェネリックとの関係?に関して詳細が理解できる本です。
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全世界で七十八兆円、国内七兆円の医薬品業界が揺れている。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、生まれなくなった新薬。ブロックバスターと呼ばれる巨大商品が、次々と特許切れを迎える「二〇一〇年問題」----。その一方で現実味をおびつつあるのが、頭のよくなる薬や不老長寿薬といった「夢の薬」だ。一粒の薬に秘められた、最先端のサイエンスとビジネスが織りなす壮大なドラマ!
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元同僚でサイエンスライターになった方の著書なので、応援購入しました。一般の方には大変読みやすくわかりやすい薬のお話です。
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Thanks to this book, I realized how difficult it is to produce a new medicine. And I understood the peculiarities of pharmaceutical industry. For instance, new products are hard to give birth and once a blockbuster drug is made it will create enormous wealth. But expiration of patent is the fatal thing because other drug companies start making generic drugs.
Besides these points, I'd like to say something positive about the book. But my English skill is too poor to allow it.
I may add something to this review in the future, thank you.
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医薬品業界の歴史、展望だけでなく、医薬品とは何かから詳しく書いてあるところがGood.化学やってても以外と知らない「くすり」を勉強できたと思います。
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医療関係者だけでなく、広く読んでいただきたい。
使用する側も多少の理解が無ければ、本当に創薬に未来は無く、守れるかもしれない大切な人を失うことになりかねない。
というのは大げさにしても、この本は事実を比較的客観的に書かれているので、読みやすいと思います。
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●100327
医薬品業界の特殊性について、おぼろげながら理解できた気がする。
財務諸表分析などを行うと、決まって目に付くのが医薬品業界の粗利率の高さであり、利益剰余金の膨大さである。それだけを見ると、つい「医薬品会社って良いよな。簡単に稼げて。」と考えてしまうのだが、それが甘い考えだということが良く分かった。オリンピックの金メダルよりもノーベル賞よりも難しい創薬という夢に向かい、実らない努力を日々続ける優秀な研究者達の姿を想像し、彼らの努力に感謝したい気持ちになった。
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非常に分かりやすく創薬のこと、薬品業界のこと、薬の効用のことが書かれていた。この本のお陰で薬に対する盲目的な拒絶がなくなった。
病気とは誰しも無縁でいられない。薬の背景、基礎知識を知っておくといざというときに不要な恐れなく医薬を服用できると思った。薬を不当に持ち上げることなく、不当に下げることなく書かれていた。
著者の誠実で真面目な性格が伝わってくる良書だと思う。
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分かりやすくて、面白かった。元研究者としての専門的な話もありつつ、業界全体の話もある。
研究者としてのキャリアにやや憧れを感じつつも、大半の人が一生に一度も薬を世に出せないこの業界で、働き続けるのは自分には無理だったろうなぁと改めて思った。
ブロックバスターが当初の想定と違う効能でヒットするのを見ると、改めてイノベーションって狙って出来るもんじゃないなと思わされる。
ただ、想定外の効果が出てもハズレと思わないような知識の幅、組織の専門性の幅を用意しておかなければいけないんだろうなぁ。
これから新薬を創りだすのは相当厳しいというのは良くわかった。全くの素人考えだが、案外昔棄却した化合物とかに鉱脈があるような気もする。そんなことはとっくにやってるのかもだが。
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新書の割には、かなりクオリティの高い本。製薬会社のR&D部門にいた著者自らが製薬R&Dの現実を突きつける。薬が主に法制度、技術的な観点からどれほど作るのが難しいかがわかる。こんな状況ならマイナーな難病の治療薬など誰も作らない・・・
個人的には、「現状では動物に有効じゃなくても人間に有効な薬が現状では生まれることがほぼ不可能、さらなる薬の開発のためには動物実験に関する技術開発が不可欠」という記述が印象に残った。その理由は、この技術が「新薬開発のための技術」というより「安全第一を掲げる法制度の壁を突破するための技術」であり、地味であるが確実に必要とされる技術のように感じたからだ。
また、「ファイザーは多額の研究開発費をかけている割には主要な薬(業界ではブロックバスターというようだ)はベンチャーの買収から得たものである」という記述は何か物哀しいっていうか新薬開発の現実を物語っていると感じた。
ただ、バイアグラだけはファイザーが自力で開発したみたいであるが。
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医薬品業界の現状を知ることができて、興味深かった。
景気に左右されない業界とは聞いてはいたが、この本を読んで、やはりこの業界も時代の変動期を迎えているのだという印象をもった。
一方で、医薬品の開発は大変で崇高であろうが、そればかりに頼る人類もどうかなと同時に思った。例えば、生活習慣病の治療薬が、かなり売れているとのことだが、本当にそんな薬に頼っていいのだろうか?人々が不摂生をさけ、適度な運動をすることに対して、国は積極的な政策を打ち出してもいいのでは、なかろうか。
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医薬品業界の過去・現状・未来を、一般人にも分かりやすく解説している一冊。大学での専攻分野と非常に関係していることもあり、すんなりと読むことができました。
医薬品とは何なのか、医薬品が商品化されるまでの莫大な時間・コスト、副作用との付き合い方、ジェネリック医薬品について等、是非とも知っておくべき事項が多かったですね。専門知識を持たない方にこそ、薦めたい一冊です。
特に、「完璧な医薬品などない」という考え方を浸透させることは、非常に重要だと感じました。
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2010/5/5
科学の進歩や革新的な創薬技術の登場とは裏腹に、新薬の承認数は減っており、製薬業界は2010年問題を迎えようとしている。新たなブロックバスターを開発できずにいるメガファーマはバイオベンチャーの買収を繰り返して生き残っていくしかないのだろうか。構造生物学の発展やライブラリーの質の向上による低分子医薬品創出の革新とか、抗体医薬や核酸医薬などの低分子以外の医薬品の開発とか、iPS細胞を使った医薬品評価や動態・副作用の予測精度の向上などなど、何かイノベーションが起こることはあるのだろうか。