- 出版社:文藝春秋
- サイズ:20cm/210p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-16-328980-9
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商品説明- 「岸辺の旅」
なにものも分かつことのできない愛がある。時も、死さえも。あまりにも美しく、哀しく、つよい至高の傑作長篇小説。【「BOOK」データベースの商品解説】
3年間失踪中の夫がある夜ふいに帰ってくる。ただしその身は遠い水底で蟹に喰われたという。妻は、彼とともに死後の軌跡をさかのぼる旅に出る−。『文學界』掲載に加筆して単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介- 「岸辺の旅」
湯本 香樹実
- 略歴
- 〈湯本香樹実〉1959年東京生まれ。東京音楽大学音楽科作曲専攻卒。「夏の庭−The Friends」で日本児童文学者協会新人賞ほかを、「くまとやまねこ」で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。
ユーザーレビュー- 「岸辺の旅」
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/04/13 21:30
せつなくも美しい、夫婦の旅物語
投稿者:佐々木 なおこ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「あのね」
「なに」
「こういうのも、いいかもしれない」
「こういうのって」
「こんなふうに旅をするの」
「そうか」
「こんなふうにいろんなところで暮らしたことなかった。もしかしたら、前からしたかったのかもしれない」
夫が好物だったしらたまを作っていたら、三年間も失踪中だった夫がいきなり帰ってきた。呆然と目を見張る妻。
嬉しくないわけがない。でも、いろんな疑問がわき上がってくる。
これまでどこでなにをしていたの?
どうして帰ってくる気になったの?
夫は今はもうこの身はないのだと言う。
蟹に食われてしまってないと言う。
そんな夫婦が、かつて夫が死んでから後に立ち寄ったと言う場所を訪ね歩く旅に出た。
二人は分かりあえていたようで、実は分からないことや知らないことばっかりだった。
知らない相手と知らない自分…。
旅を続けるうちに、見えてくるものがいろいろあった。
そんな二人の旅の途中のなにげない会話が、しみじみ心に響いた。
そうして妻は悟る。
「よくわからないけれど…人って私が思っているよりずっと複雑なんだって思った。
そういう複雑さのなかで、少しでもほっとできたり楽しかったりすることを自分で見つけていくしかないんだなって」
ヤコブの梯子、
ハマナスの赤い実、
エメラルド色に凍っている海水、
灰色の空…。
二人の旅の終り近くの情景は、ありありと目に浮かぶようだった。せつなくも美しい、夫婦の旅物語。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/05/15 07:39
水の淡い
投稿者:夏の雨(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
死者はどこにいるのだろう。
導くものとして我々の前をいくのか、残されたものとして我々の後にあるのか。それとも。
そう、それとも、我々生きる者とともに死者はここにあるのだろうか。
三年前に忽然と姿を消した夫優介がある日妻瑞希の前にもどってくるところから、この生者と死者の物語ははじまる。
「海の底で蟹に喰われてしまったんだよ」と、最初から優介は死者であることを隠そうとはしない。瑞希もまた目の前の優介が死者であることをなんとなく納得している。すでに瑞希は、優介という死者とともにある。
二人は優介が妻と再び出会うために過ごしてきた時間を遡るように、「あるときは海辺を、あるときは山里をとさまよう」。
めざすのは、おそらく永遠の別れ。
旅の途中で出会う人々も、死者であり、生者であり、彷徨うものたちである。
優介は死者であるにもかかわらず、彼らとつながることで、妻の知らなかった存在を身にまといだす。あるいは、夫婦として過ごした日々のそれでも知ることのなかった夫の過去があぶりだされていく。
生者は死者の何をわかっていたというのだろう。もしかしたら、生者は死者とこのように繋がることでしか、死者を理解できないのだろうか。
なんとも切ない物語である。
切ないのだけれど、手のひらで水をすくうように、こぼれ落ちた水の淡いがたまらなくいとおしい、そんな物語でもある。
死者はここにいる。やがて、別れゆく、そのために。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/04/13 13:56
今、気付くべきこと
投稿者:ナカコ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
「岸辺の旅」のタイトル通り、水の風景、そして、そこに吹く風が印象的だった。
電話の後突然姿を消した夫が、三年経ってふいに戻ってくる。夢が幻か、妻まであの世に行ってしまったのか・・・。夫は、妻のつくる「しらたま」を三杯も食べる。わけがわからない。
妻の一番聞きたい質問「どこに行ったの・・・」に、絶句する夫。「椀に目を据えて動こうとしない。椀の中身を目ですすりあげんばかりだ。」二人の間の緊張感を伝える見事な表現だと思った。
二人は旅に出る。二人がわかりあうための旅だ。三カ所で、住み込みで働く。三人の主人の顔を一言でたとえた比喩がおもしろくて、漫画みたいな顔を想像した。
潮時を知らせる風の音---五感をいっぱい働かせて、川の流れに身を任すような、そんなおだやかな旅。こんな人生を二人で歩むべきだったのに。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/03/06 14:49
哀しく切ない夢のような、 妻恋い&夫恋い(つまごい)のゴーストストーリー
投稿者:Dolly-the-Cat(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
三年前に失踪した夫を探して、疲れ果てた妻瑞希。ある晩彼女のもとに、夫優介が戻ってきて、自分はうつ病のせいで入水自殺したと告げる。その翌朝二人は、彼が死んでから関わった人たちを訪ねる旅に出た…… 。
旅のなかで瑞希は、エリート歯科医だった優介の隠された面や弱さに気づき、より深く彼を理解するようになる。一方で彼女は、死者であれ戻ってきた夫を、いずれ再び失わなければならないという不安に、つねにおののいている。ところが優介は「泣きながらでもちゃんとご飯を食べそうな」瑞希の本来的な性格を思い出させ、一人で生きていく道をさりげなく示してやるのだ。やがて、瑞希の悲しみは、ほろ苦いあきらめへと変容していく…… 。
湯本さんの作品には、人が忘れていたこと、あるいは忘れようと心の奥底にしまってきたことを引きだすような真実がある。愛する対象を喪失したとき、人はいわゆる「悲哀の仕事」をいかに経験するか? それを、哀しく美しい夢のように描いたのがこの話だと思う。『夏の庭』や『くまとやまねこ』からもわかるように、死の圧倒的な手ごわさと、喪失から立ち上がることの困難さを、湯本さんはよく知っている。
ひらがなや擬音の多い文章には、心を慰める優しさと昔語りのような静けさが満ち、つきまとう水音と、しらたまの素朴な白さがいつまでも心に残った。季節が止まったようなカバーも印象的だ。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/11/06 13:53
わがまま言ってすいません。
投稿者:kumataro(男性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る
岸辺の旅 湯本香樹実(かずみ) 文藝春秋
名作と呼ばれる同作者の「くまとやまねこ(絵本)」を読んだあと興味をもって読みはじめました。岸辺とは、最初、装丁の絵が「石狩川」とあったので、石狩川と思って読み始めましたが、すぐに三途の川(さんずのかわ、死後の世界へ渡る川)と気づきました。
瑞希(みずき)さん38歳、結婚歴9年、夫の優介は3年前に家を出て行方知れず。夫がどうもどこかで亡くなったらしく、されど、死後の地へ旅立てず、妻の元へと姿を出したのですが、どうも、奥さんの瑞希さんのほうも亡くなりつつあるのか、そんな、ふたりが旅をするのです。映画「シックスセンス」の世界です。夫は歯科医となっています。
全体的に上品で高尚(こうしょう、気高くて立派)な運びとなっているので、上品とはほど遠い暮らしをしてきたわたしにはピンとこない作品となりました。精神世界のなかの旅となっています。夫と父親が重なる部分は唐突であり、表現方法について首をかしげました。
女性から見た夫像、そして父親像の記述です。男性の側から言うと重荷です。男性に女性を包み込む包容力を期待しないでください。夫婦の意識のすれ違いを感じます。物語は、夫に父親像を求めています。
夫がいなくなって、自殺を企図した妻が、幻想の世界で夫の魂と出会い、ふたりで旅をした結果、妻は自殺を思いとどまり、夫の思い出を抱えながらひとりで生きていく決心をした物語と理解しました。
夫が、家を出た理由が、男であるわたしにはわかるのです。瑞希さんは、夫をいじりすぎたのです。夫はそっとしておいてください。







