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紙の本
入門としてはお勧めではあるが
2013/06/25 12:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:能登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
これまでの大内シリーズを通読している人には極端に珍しい内容ではないですが、同シリーズの傾向として日英米を5:2.5:2.5ぐらいに比較して手堅くまとめている感じで、軽く流れを抑えるにはよい読み物だと思います。
ただし、といっては何ですが、視野が設計中心になっているため所々怪しい記述があるのも事実です
大きなところを言えば、日本の戦標船が実質的に戦時設計に切り替わったのは二次からであり、実質的に稼働し始めたのは昭和17年半ばからだという要点のまとめ方も、間違ってはいないのですが、これを関係各所の見通しの甘さと書いてしまう辺りには注意が必要でしょう。
大陸での戦火が激しくなってくるにつれ、特設艦船への改造工事や、徴用船舶の傭船開始前の点検補修が激増しおり、こういった軍官工事は予算的な話もあり期日厳守で作業が行われます。当然、そのしわ寄せは納期に余裕のある民間船にくるわけですが、戦前の段階で艦艇は3月末に進水・竣工&引き渡しし、4月は中だるみとなり、5月に商船の進水が(ry な傾向がみられます。対米英戦を企図し、出師準備が発動された昭和16年半ばよりの1年間は実際問題手持ち工事の処理に追われ、続行船と戦標船を問わず着手できなかっただろう事は想像に難くなく、海務院と艦政本部商船班がある程度の権限を確保して建造予定船と修理船を切り捨て、線表を白紙にできたのが開戦半年後の17年半ばだったという事でしょう。
他にも溶接の問題も、技能工だけの問題ではなくて溶接棒の材質や、鋼板規格の切り下げに伴う工作の再確認が必要になったとの視点は触れられておらず、設計を裏付けする「現場工作」からの視点や、舶用鋼材のうちの特殊鋼の不足が船尾機関船の採用を促したといった点にも触れられていません。
また、改E量産用の4造船所(三菱若松、播磨松浦、石川島東京、川南浦崎)で学徒の勤労奉仕や囚人・俘虜の使役について触れる一方、工場レイアウト以上の母体造船所とのリンクや、各々が異なるレイアウトを採用した経緯は省略されているため、船台と内業工場が増えた以外の生産効率の確保といった面での意味合いがつかめず、結果として別小節にある被曳航油槽やコンクリート船、または三菱広島の新設造船所(A型量産用)といった戦標船トータルの量産にまで話が繋がっていきません。
同時に、鋼材では艦艇優先で商船用が逼迫したものの、木造船も海軍の特務艇建造へリソースが食われて新設造船所や集約工場を作る必要が出てきたといった面へリンクするに至っていません。
あくまで「入門」を冠しているので、刊行された内容以上のものを書き込もうとするとウラの取れないところが中心になるのでしょうが、業界全体で量産させるために艤装図や工作図(ノウハウ)を吐き出させたり、人員を交流させたりといった物品以外の部分や、期日厳守にばかり追われて残工事を担当船会社の手配で修繕用造船所で辻褄合わせ足りといった辺の部分も少しでよいので整理できれば、「戦時標準船」が意味する「量産」がもう少し纏まって理解できるのでは無いかなと思います。