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大女伝説 歌集

  • 出版社:短歌研究社
  • サイズ:20cm/173p
  • 利用対象:一般
  • ISBN:978-4-86272-199-0

大女伝説 歌集 (かりん叢書)

松村 由利子 (著)

  • 全体の評価 51件のユーザーレビュー
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  • 税込価格:2,62575pt
  • 発行年月:2010.5
  • 発送可能日:24時間

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商品説明- 「大女伝説 歌集」

短歌研究賞受賞作「遠き鯨影」を含む壮大な意欲作。【「BOOK」データベースの商品解説】

【葛原妙子賞(第7回)】殉教者さかしまに息絶えしのちバンジージャンプを人は楽しむ 蛇行する島の時間の遠くあり電車の中を歩く人々 昔語りぽおんと楽し大きなる女が夫を負うて働く 『短歌研究』掲載を中心に、ほぼ4年間の作品をまとめた歌集。【「TRC MARC」の商品解説】

ユーザーレビュー- 「大女伝説 歌集」

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3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2010/06/23 20:41

31文字から生まれる大きな物語

投稿者:ろこのすけ(女性|未指定) - この投稿者のレビュー一覧を見る

 タイトル「大女伝説」を見て、これはいったいなんだろうと思わず歌集を手にとってしまう。そこからもうこの歌集の魅力の始まりと言って良いだろう。

  昔語りぽおんと楽し大きなる女が夫を負うて働く
  雨降れば大女ひょいと石臼を笠の代わりに被るかわゆさ

「あとがき」に寄れば「大女」の話を聞いたのは群馬県・猿ヶ京を訪ねた折のことだったそうだ。
 「おおらかな大女は地母神を思わせ、私はとても愉快な気分になった」
 とある。
 大女がよっこらしょと夫を背負って田で働いている姿を想像するとなんともユーモラスでおおらかだ。そして二首目にいたってはあの重い石臼を「ひょいと」笠の代わりにかぶって雨をよけるとなると、その怪力とユーモラスなしぐさがかわゆいばかりである。そういえば松村由利子の第二歌集『鳥女』(本阿弥書店)に
  土器(かわらけ)に縄目残しし女たち土偶は太き足もて立てり

 という一首が記憶に残るが大きくたくましい大女や縄文の女には地母神を思わせる。
 さて、実生活において、松村由利子は長年住みなれた千葉を離れ、石垣島に新居を構えることになった。見晴らしの良い住まいから大海原を眺め、島の人たちとの交流からまたどんな歌が生まれるか楽しみであるが、この第三歌集にも島の歌は多い。

  来歴を知れば歩けぬ道もある南島の隠す深き傷跡
  島豆腐になりたし渾然とチャンプルーになるまでの快
  県民所得最低なればマンゴーのよき実は島の外へ運ばる
  島豆腐どっしり甘し来るものを拒まぬ淡きたまご色して
  毒をもつオオヒキガエル島に増えあめりかーのようにしぶとし
  原産はアメリカ大陸害虫を食うよきものとして運ばれき

 松村由利子は毎日新聞の記者として20年余りを過ごしてきた。その鋭いジャーナリストとしての目が発揮されるとき、他の追随を許さぬ歌となる。上にあげた歌にもそれはかいまみれる。特に沖縄に移り住んだ今、そのまなざしは深く鋭くなる。一方、時事性に富みながら、時に絶妙な機知にとんでいて知が輝く歌は素晴らしい。
 『大女伝説』の中でも白眉なのは短歌研究賞を受賞した「遠き鯨影」からの歌である。世界の捕鯨に反対する国を意識したと思われるシニカルでひねりが効いた歌がそれである。
 かつて石油に頼らない頃、燃料を鯨の油に負うた国は多かった。アメリカもそうであった。

  鯨油求め日本海までやってきた米国捕鯨の歴史もありぬ
  海の牧者(シー・シェパード) 守らんとする傲岸を彼ら笑えば大波となる
  鯨類の群舞愛でつつ着々と進められたるカンガルー駆除
  アボリジニの女は祈るカンガルージャーキーを犬がひしと噛むとき
  角笛が遠く聞こえる食べもせぬキツネを狩っていた奴らだよ

捕鯨反対を訴える某国は同じ哺乳類のカンガルーを平気で駆除しそのジャーキー肉を犬にあたえている現実。食肉にもしないキツネを狩って(殺して)楽しむイギリス貴族よ!この歌を読みたまえ!!!
 そして次にあげる歌は松村由利子のスケールの大きさにふっとんでしまう。
 
  観賞用鯨飼いたしふたつ三つ丼鉢にあおく泳がせ
  鯨幾千飴煮すれば楽しからんガルガンンチュアの豪奢なる餐

 鯨を「二つ三つ」「丼鉢」に泳がせるなどといいう豪胆な発想に肝をつぶしてしまった! 鯨幾千という数字のおびただしさは海と云う海を埋め尽くす鯨を想像しただけでその桁外れぶりに気絶しそうである。
 第三歌集『大女伝説』はこれらの歌を含めて、おおどこかで大変魅力に富んでいるが、子を想う深い母の歌もあることを忘れることができない。

  君を産んでごめんねごめんねわたくしの骨を見る日の雑務多からん
  いつ死んでもいいような夏の茜空こころ濡らして恋せよ息子

なにげなく挟み込まれた息子への歌二首。子を想う母の胸の奥を垣間見たおもいで鼻の奥がつんとしてむせんだ。
 第一歌集『薄荷色の朝に』の歌:

  愛それは閉まる間際の保育所へ腕を広げて駆け出すこころ

多くの人の心に共感と熱き思いを呼んだこの歌は1991年から98年までに作られた歌の中の一首である。それから二十年近くが経った今、松村の胸に去来するものを読者も『大女伝説』から読み取るのである。
 わずか31文字から、繊細な心の内から壮大な物語までを紡ぐ短歌とは何と魅力ある世界だろうか。そんなことを思わせる歌集だった。

 最後にこんな歌を紹介して締めくくることにしよう。

  体内に異物を受け入れ吐き出せぬ沖縄という貝の抱く闇

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