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紙の本
盤上遊戯の世界史 シルクロード遊びの伝播
著者 増川 宏一 (著)
囲碁、将棋、チェス、麻雀…。陸と海のシルクロードを伝って、人から人へと渡り、やがて奈良にいたった盤上遊戯。その伝播の経路を検証し、人類の「遊び心」の壮大な歴史を描く。【「...
盤上遊戯の世界史 シルクロード遊びの伝播
盤上遊戯の世界史
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商品説明
囲碁、将棋、チェス、麻雀…。陸と海のシルクロードを伝って、人から人へと渡り、やがて奈良にいたった盤上遊戯。その伝播の経路を検証し、人類の「遊び心」の壮大な歴史を描く。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
増川 宏一
- 略歴
- 〈増川宏一〉1930年長崎市生まれ。旧制甲南高等学校卒業。以来、将棋史および盤上遊戯史を研究。大英博物館リーディングルーム・メンバー、国際チェス史研究グループ会員など。著書に「将棋の起源」等。
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紙の本
遊びませう
2010/12/23 22:15
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
将棋や囲碁、チェスといった盤上遊戯の起源をご存じだろうか。本書によると最古の遊戯盤は紀元前7000年頃という報告があるとのこと。紀元前7000年頃は、人類が主要道具を石で作っていた新石器時代で、日本では縄文時代に相当する。場所はレバント、メソポタミア地方。出土した遊戯盤は石板に小孔(貫通させない)を2~3列あけたものである。この遊戯盤の具体的な遊び方法は不明であるが、後の時代に遊ばれた類似遊戯盤から農作業の種子を蒔く行為を真似た「マンカラ」という現在でもアフリカ、中近東からインド、東南アジアで広く遊ばれているゲームや、小孔を桝目として駒を順次進めていくゲームの可能性が考えられるらしい。
本書は、この新石器時代の遊戯盤をはじめとして各時代、各地域の盤上遊戯について、出土遺物やレリーフ、絵画など具体資料を示しながら、各地の報告書や研究成果を検討して、考察を加えたまさしく盤上遊戯の世界史である。
さらに、本書では遊戯盤の具体的な説明以外にも様々な観点で考察が深められている。例えば、遊戯盤の遊戯以外の使い道について。それは卜占の道具としての使用である。その最たる道具は動物の踵の骨であるアストラガルスやサイコロであろう。いずれも振るって目を出すわけであるが、出る目には偶然が伴う。この偶然性に占いの雰囲気が濃厚に漂う。偶然の行為を盤上遊戯と重ね合わせることで、卜占の結果はほんのひと時だけ先送りされる。そこに偶然を遊ぶ余地が芽生えたのかもしれない。偶然に向き合うという点で、遊戯と卜占は非常に似通った性質を持つと言えよう。
また、著者は類似遊戯盤が世界各地に存在していることも指摘している。この背景にシルクロードや海上の道などの交流が大きな役割を果たしたという。このことをダイレクトに示すものは、海上交流に関連する資料である。例えばレリーフ。アンコールワットやバイヨン寺院、ブレア・カーン寺院など、船上で将棋に興じる様子が彫り込まれたレリーフが確認できるとのこと。さらに広東省陽江市の沖で沈没した宋代の貿易船「華光碓1号」には、様々な交易品とともに象棋の駒が含まれていた。これらは船旅の慰みとしての遊戯を直接示す資料とされている。交易という行為は、各地に類似遊戯を拡散させた。当初、そこには遊戯を広めるという意図はなかった。あくまで、船旅の慰みとして持ち込まれたものが、結果的に交易都市を中心として受け入れられたのだ。
前述したように盤上遊戯の歴史は新石器時代にまで遡る。この事実は、単純な驚き以上のものを思い浮かばせる。それは遊戯が人間の本質に深く結びついているということ。遊戯が人間の本質に深く結びついているからこそ、新石器時代以降の長い年月にわたり盤上遊戯は様々に進化しながら、そして各地に拡散しながら楽しまれ続けた。現在ではテレビゲームそしてネットゲームが凄まじい勢いで進化しながら世界中のユーザーに親しまれている。しかし、盤上遊戯を駆逐することはできていない。そこにはユーザー側の関わり方の差が絡むのかもしれない。テレビゲームやネットゲームは与えられたルールの範囲内での楽しみであるが、盤上遊戯はルールの改変も可能で、それが面白みを増幅させる。そもそも盤上遊戯の歴史は、創意工夫の繰り返しであった。盤上遊戯の発想、制作、使用そして改良には、高度な知的活動が必要である。そして、知的活動が必要とされるからこそ人は熱中するのだ。
本書は盤上遊戯の歴史の紹介に留まらない、多角的な読み方が楽しめる。ぜひ一読をお薦めしたい良書である。