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コンピュータは事典の代わりか?
2016/02/18 22:55
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:山好きお坊さん - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンピュータが言語応答形式の物知りクイズでチャンピョン経歴者を破った。アメリカでは高視聴率のクイズテレビ番組「ジョバディ」の知識については皆無であったが、とうとうコンピュータがここまで辿り着いたことに感激して読んだ。SF小説『2001年宇宙の旅』に登場するコンピュータ“ハル”が人類を超え宇宙船を支配する。これは人々に、コンピュータに対する負のイメージを植えつけた。IBMの創設者ワトソンの名前を与えられた『ジョパディ』用コンピュータは、発する声、イメージキャラなど“ハル”を思い出させない多くの配慮をしたそうだ。
コンピュータに情報、知識集積を任せきったら、情報、知識を蓄えるための学習は無意味と化すのであろうか。判断力は蓄えられる情報・知識により育成されるものであるから、コンピュータは事典代わりか。現代の情報化の一端を覗くのも面白い。
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コンピュータは、クイズ番組で優勝できるか?そんな難題にIBMが挑戦した。その取り組みが見事に成功し、アメリカの人気番組『ジョパディ』でクイズ王を破ったと報道されたのは、2011年2月のことである。あれから約七カ月、その詳細をまとめたルポがようやく出版された。それが、本書『IBM奇跡の”ワトソン”プロジェクト』だ。
人類とコンピュータの闘いは、すでに三十年近い歴史を持つ。古くはチェスの世界チャンピオン・カスパロフとIBM製スーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」による対戦が有名だ。また日本でも、将棋の世界において「あから2010」と清水 市代 女流王将が対戦したのは記憶に新しい。ちなみに、これらの戦いは、いずれもコンピュータが勝利をおさめている。
しかし、全人類の財産でもあるチェスや将棋と違い、クイズ番組への挑戦はずいぶんと勝手が違うようだ。問題には、洒落や語呂合わせ、凝った言い回しなどが頻発するうえ、ルールも質問形式で答えを解答しなければならないなど、複雑きわまりない。おまけに番組スポンサーがSONYということにより、企業間の代理戦争の様相も呈してきてしまうのだ。
このワトソンと呼ばれる人工知能のメカニズムは、人間の手による教育の賜物である。まず、膨大な量のWikipedia記事、プロジェクトグーテンベルクにある書籍などを大量に詰め込む。そして、大変なのはここからだ。言葉の意味を一語一語から汲み取らせ、さらに名前と事実を正しい文脈に置き、どのように関係しあっているかを教え込まなくてはならない。こうして、関係の網の目を正しく辿っていくことが、答えに到達するのための準備のプロセスとなる。気の遠くなるような作業の連続だ。
しかし、本書の最も特徴的な点は、人工知能の進化という側面ではなく、人間社会への適合という側面を色濃く描いているというところにある。それはIBMのブランディングチームが、マシンに個性やメッセージ性を持たせるために、世界的な広告代理店とパートナーシップを組み、名前や顔、声を与えたという点からも伺い知ることができる。
例えば、ワトソンという名前は、IBMの創立者の名前であるとともに、シャーロック・ホームズの友人ワトソンもイメージしているという。「一所懸命ながら飲込みの悪い相棒」という不完全さを、あえて組み込んでいるのである。また、顔についても同様だ。人間に近付けようとすればいくらでも近づけるものを、気味悪がられることのないように、あえて抽象的なデザインを施したという。
ここで注目したいのは、適合という行為の多くは、退化と受け取られかねない目的を持つケースが多いということだ。このプロジェクトは、あくまでもIBMの企業ブランディングの一環である。悪名高き「2001年宇宙の旅」のHALのように、コンピュータが人間を支配するのではという恐怖感を抱かせることには、あくまでも慎重であったということだ。まさに「智に働けば角が立つ」ということなのである。
一方で、人間社会はどうだろうか?我々もまた日々、進化と適合の間を行ったり来たりなのではないだろうか。人から抜きんでるための努力をしながら、周囲から浮かぬようなケアをしたりもする。状況に応じて自分のポジショニングを定めるのは、世の常だ。
突き詰めれば、人工知能の世界を覗き込むということは、人間社会を鏡に映した世界を見るということでもあるのだ。はたして自分が現在行っている努力は、進化のためなのか、適合のためなのか、自問したくもなる一冊だ。
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アメリカの人気クイズ番組「ジョパディ!」にIBMのコンピュータ「ワトソン」が挑む。
コンピュータ対人間のクイズ王。勝者はどちらか。
チェスチャンピオンがIBMのディープブルーに敗退したのは1997年。IBMが次に狙いを定めたのは、全米で2番目に視聴者が多いクイズ番組だった。
読みやすく、非常におもしろい。
クイズ番組という親しみやすいものを対象として、「クイズに勝つ」ためにはどうすればよいのかに始まり、問いが発せられたときに何が問われているのかをどのように判断しているのか、人は雑多な知識をどのように整理しているのかを含めて、人間が思考する過程、知能とはどういうものなのかまで、地平が徐々に広がる楽しさがある。コンピュータ開発に関する初歩的な知識も俯瞰でき、刺激的である。
企業の生き残り戦略を掛けたIBMと、企業の宣伝だけには使わせまいとする人気番組の矜恃を掛けた「ジョパディ」陣営の駆け引きも人間臭くておもしろい。
また、「ワトソン」の技術を(単にクイズに勝つだけに留まらず)どのような分野に応用できるのかを考える第9章「ワトソンの就職活動」も興味深かった。
ただ、本書の難点は、「ジョパディ」が、アメリカでの人気の割に、日本ではなじみの薄い番組である点だろう。ジョパディ出題の形式が、答えを提示して、問題を当てさせるという特殊な形である点、問われる問題がアメリカ文化に関わりの深いものが多い点、ウィットやユーモアを駆使しており、英語ネイティブでないと意味が取りづらい点などが挙げられる。こうした点がまた、「ワトソン」開発の障害となったものでもある。(ちなみに、一番視聴者が多いクイズ番組は“Wheel of Fortune”。こちらは、アルファベットを1文字ずつ挙げながら、フレーズや単語が何であるかを当てる比較的単純なもの。こちらなら、「ワトソン」はあっという間に勝てる水準に行けただろう。)
巻末に、訳者による「ジョパディ」の説明と、日本IBMに勤務し、「ワトソン」開発にも携わった研究者による技術的な解説がある。
親切な作りの本なのだが、でもまだ少々取っつきにくい感は残るかな・・・?
<以下、覚書き>
*開発統括のフェルーチが時々、「ワトソン」を「私」と呼んでしまうという話がおもしろかった。
*表紙から裏表紙カバーまでつながる、活字の配置を含めて遠近法に則ったデザインが近未来的でなかなかよい。装幀は水戸部功。
*訳者の土屋政雄氏はカズオ・イシグロを初めとする英米文学の翻訳でも知られる。技術翻訳と2足のわらじ、という話は聞いたことがあったが、技術畑の専門分野はITとか工学関係だってことかな・・・? 守備範囲が広くてすごい。
*副題は「人工知能はクイズ王の夢をみる」だが、原書のタイトルは“Final Jeopardy Man vs. Machine and the Quest to Know Everything”であるため、これは邦題独自の副題のようだ。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(Do Androids Dream of Electric Sheep?)』のパロディなんだろうか?『潜水服は蝶の夢を見る』という本も(映画も)あったが、こっち?(蝶と夢といえば、荘子の胡蝶の夢・・・)。
この2冊はどちらも未読なので、これ以上何とも言えないが。
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チェスで世界一になったディープブルーの後継機?であるワトソンの話。自然言語処理や機械学習を駆使してクイズ番組で世界チャンピオンを負かす。
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面白かった!村永さんありがとうございます。ワトソンくんの進化の過程を追うことで、人間にできること、コンピュータが得意なこと、いろんなことを考えさせられました。
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IBMのワトソンの開発ストーリー。
アメリカの人気。クイズ番組ジョパディでグランドチャンピオンに勝つことを目標にプロジェクトがスタート。企業としての意義や、技術的な難しさ、商業主義に対する学術会の反応、そもそも人工知能はどうあるべきか、などなどいろんな観点での議論があったことがわかる。
今のところ医療分野への応用が検討されているらしいが、今後、ワトソン自体がどうビジネスに活用されていくのか、興味があるところ。
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基礎技術に金をかけられる会社は素晴らしい。と思うが、実際はどうかなと…
10/23:読み終える時間がなく、返却。
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1997年にチェスの世界チャンピオンを破ったコンピュータ”ディープブルー”を生み出したIBMの次なる挑戦は、コピュータに人間の言語を理解させることだった!
そこで浮かび上がったのがアメリカの名クイズ番組”ジェパディ”(本文では”ジョパディ”になってるけど僕的にはこちらの方が自然なのでw)
風変りなそのクイズ番組は、比喩や冗談、言い回しなどが多く、まさに言語そのものや文脈を理解していなければ到底正解できない。
そしてついに伝説的なチャンピオンとの対戦が実現する。
4年間での進歩の過程を見ていると、このワトソンを作り上げた技術者が本当にどれだけすごいのかを思い知らされます。
人工知能の話とかはほとんど出てこないし、技術的な話も無いですけど、読み物としては非常に面白かったです。
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対話システムの研究者の方に推薦頂いた本。IBMの人工知能(質問応答システム)「ワトソン」の誕生から大人気クイズ番組へ挑戦するまでのプロジェクトストーリー。
本書はワトソンのストーリーを追いながら関係者のコメントや解説を通して
人口知能(AI)についての積み上げられてきた考え方、最新の業界の肌感覚を掴むヒントにもなる1冊。
ワトソンについてはWebで検索すると動画も出てくるので、読了後に見ることをお薦めする。
まず、本書から人工知能については、
①理想主義
②実用主義
の2つがあると理解できる。
①は文字通り人間の脳にいかに近づけるかの世界で、科学技術の進歩の状況はというと、
「AIを宇宙計画に重ねると、現在はガリレオの段階でしょう。まだニュートンまで行っていません」とテネンバウムは言う。 ― 201ページ
らしい。
対して②の主義は、今ある技術で実用化しようという考え方で、
今回のワトソンは②の考え方の質問応答システムである。
質問応答システムとは文字通りのシステムで(Googleの検索のようなもの)、
ではその実用性の先はというと、
高度な質問応答技術を生かせる市場が存在しなければ、IBM社としてはジョパディマシンの開発に乗り出せない。だが、この問題はクリアできる、とフェルーチは考えていた。いまやIBM社の最大部門はグローバルサービスだ。そこには世界最大規模のコンサルタント業も含まれていて、世界中の企業に技術的・戦略的なアドバイスを売っている。コンサルタントのアドバイスには、当然、この技術が生かせるだろう。 ― 20ページ
近い将来に限れば、ワトソンの就職先にはコールセンタが有望だろう。音声認識ソフトウェアを加え、具体的な製品名やサービス名で訓練を積めば、電話に出て質問に答えることができよう。だが、デジタル版マーケティングコンサルタントとなると、いささか難度が高く、まだまだ先の話になるだろう。 ― 266ページ
ということだ。
「ワトソン」は社運をかけた一代プロジェクトとして、クイズ番組での勝利をゴールに、
これまでにない性能の質問応答システムと進化していく。
その経過からは、いかにコンピュータが考えることが難しいのかがよく伝わってくる。
また、本書で興味深いのは、
「ワトソン」お披露目に向けて、人工知能への大衆の印象にナイーブな対応をしているエピソード。
人間はたまたま出会ったマシンにすぐに何らかの感情を抱きはじめる。感心から敵意までさまざまな感情がある。 ― 153ページ
それから、コンピュータの学習についてまとめのようなコメントで、
こうして、二十一世紀最初の十年間が終わったいま、知識マシンの教育についてはどちらがましかという選択になる。人間を教師とするコンピュータは学習速度が遅く、教育に法外な手間と金がかかる。一方、勝手に自習するコンピュータは息をのむほどのスピードで答えを探し出してくるが、その知識は浅薄で、知識からの推論もできない。マシンの速度と間口の広さ、人間の深さと繊細さ。その二つを組み合わせることがAIの目標であるとするなら、達成にはまだ厚い壁を突破する必要がありそうだ。 ― 211ページ
ここも参考になる。
この学習についてのコストの問題についての新しいアプローチとして紹介されているのは、
これからのコンピュータシステムは、いまのワトソンよりずっと人間味を増していくだろう。いまAI界では、人間から情報を吸い上げるシステムが注目されていて、カーネギーメロン大学のルイス・フォン・アーン教授が、その分野の第一人者だ。 ― 271ページ
教授の言う「ブレインサイクル」結集のためのオンラインゲームがいくつか作られている。たとえばESPというゲームでは、赤の他人どうしのプレーヤ二人に一つの画像が示され、それを記述する言葉を入力するよう指示される。もし二人が同じ言葉を入力すれば、また別の画像が示される。こうして互いに相手の思いを推し量りながらゲームを進め、二分半で全十五画像の記述を目指す。実は二人が遊びながらやっていることは、画像にメタデータでタグ付けする作業だ。 ― 272ページ
ゲーミフィケーションだ。
さて、こうして読んで実用主義でさえまだまだ道のりは長い印象だ。
しかも今回は、あえてテキストベースの純粋な質問応答によってクイズ番組で勝負したが、
実際にはiPhoneのSiriのように音声認識+合成と合わせてサービス化されることもある。
人の声を聞くこと、すなわち音声認識は、重要な技術ではありますが、質問に対する答えを求めるという技術の本質ではないことから、Watosonには搭載されていません。音声認識の正解率が全体の性能への影響の大部分を占めてしまいかねず、司会者の発音が流暢か、会場の雑音が無いか、といった点が影響してくることを考えると、テキストデータを入力することは妥当な判断です。 ― 343ページ
それについては以上のようにかかれている。最もだと思う。
音声認識自体、まだ発展途上の技術だそうなので、組み合わせたら相当厳しいだろう。
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アメリカのクイズ番組にIBMのコンピューターが人間と対決して勝ったと言うニュースは見たが、その開発の物語。
最初にこのニュースを見たとき、コンピュータが人間の知識を上回ることは当たり前だと感じていたが、山にような情報から正しい答えを導き出す仕組みはそんな生易しいのものではなく、またこのワトソンはスタンドアローンで問題を読まれてから2秒で回答ボタンを押すなどの仕組みを考えると、凄まじい技術の集合だと思った。
しかし、これは決して人工知能では無いと開発者は考えているようだ。
チェスは数理分析と言うコンピューターの得意分野のみで人間に勝ったが、人間がクイズに答えるのは、閃きなどある種説明できない事もあるので、それを導き出す仕組みを構築したことは、QAなどの事業への横展開が期待できるらしい。
IBMのサービス領域の優位性が高まるのかな?
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読んで良かった。面白かった。すっごく。人工知能の現状とか。質疑応答
マシンって、脅威ですね。今後、近い将来、社会構造って大きく変革しそう
ですよね。三次産業とか、だいぶ人件費削減できそうだし。TPPより、こっち
の方が経済的に影響ある気がする。エキスパートを排除する向きで考えると
建設的ではあるけど、考えようでは win-win になるのかなぁ。どうなのかなぁ。
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純粋、理想的な人工知能ではなく、エキスパートシステムの延長線上にクイズ王としてのコンピュータの解を求め、明確な目標とスケジュールにのっとって実現させる。
テーマ、方法論、ノウハウ、色々と勉強になる。
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IBMが頑張ってつくったすごいコンピュータの成長物語。テクノロジーっていいなーっとしみじみ思う。ライフログとかビックデータとかいろいろあるけど、データの分析ってほんと難しいってことがわかる。
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ディープブルーの後、IBMが選んだのはクイズで人に勝つこと。当初の技術では途方もないように見えた挑戦も、あえてゼロベースで始め、作り上げていく物語性は読み応えがある。人物面や会社の歴史的な描写もIBMへの興味を深めるのに良い。
専門でなくても十分わかるが逆にもう少し技術的なところが欲しかった気がする。
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ここ重要かも -- "何か一つの発展があるたび、人間はそれにあわせて頭の中を調整し、記憶や計算や道案内のますます多くの部分を自分の作り出した道具に任せるようになってきた"