紙の本
こうした徹底取材はマスメディアが果たすべき基本である
2012/03/20 13:48
21人中、17人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
原発を巡っては、マスメディアが機能していないといった批判が多く聞かれる。事故報道はするものの、なぜそうした事故に至ったのか十分な説明がないという人が多い。「ただちに健康に影響のないレベル」という政府の発表を伝えるしかなかった事故直後の新聞・テレビ。
マスメディアは権力から距離を置き、だれよりも厳しい目でその行いをチェックしなくてはならないはず。マスメディアもまた原子力をとりまく不可思議な磁場に絡め取られていたのだ。
ただし、そのことの反省に立って、検証をし、自己批判をしながらでも、報道をすると決めたメディアがある。そのひとつが朝日新聞だろう。テレビではNHKだ。
へたをすると読者を失うかもしれないことを、果敢にやってみせている。本書は震災および事故から1年以上を経てもなお連載が続く「プロメテウスの罠」を2月時点でいったん区切って、書籍化したものだ。この連載を切り抜いて保存していた人は少なくない。その切り抜きが必要なくなるのだからありがたい。
特に、首相官邸で何が起きていたのか、可能な限り真実に迫ろうとしている点は貴重なものだ。東電が撤退して、福島第一原発を放棄しようとしたのか、それとも一時的に第二原発に待避して様子を見ようとしたのか、いまだ判然としない点がある。
本書では、「官邸の5日間」の項で検証されている。官邸にいた菅、枝野、寺田、細野、福山といった人たちは、第一から撤退すると受け止めていた。撤退はありえないとしつつも、万一原子炉自体が爆発すれば、作業にあたる人員がいなくなり、首都圏も含めて日本の主要地域が人の住めない土地になる。ひょっとしたら、撤退もやむを得ないのかもしれないという空気が漂ったことを本書は教える。
一方、東電は「作業に直接関係のない一部の社員を一時的に待避させることがいずれ必要となるため検討したい」といった、まわりくどい主張を今年の1月時点でもしている。
こうしたところは、ほかにも出ている原発事故をめぐる類書と照らし合わせながら、事実関係を整理していくしかない。
菅首相は怒鳴り散らす癖があるために、霞ヶ関、永田町では不人気となり、退陣した。しかし、その迫力が、東電の清水社長に撤退という選択肢をあきらめさせ、最後まで事故収束にあたらせる結果をもらたしたのは、たしかなようだ。それにしても、東電の清水社長(当時)は、きちんとメディアの前に出てきて、事故後にどういう方針を立て、どういう対応をしようとしたのか、説明すべきではないのか。
いまだに原発事故の影響で生活の見通しが立たない方がたくさんいることを考えれば、引責辞任して、それで終わりという訳にはいかないだろう。マスメディアがまだやり遂げていないとすれば、東電の体質、経産省の有形無形の電力業界の後押しを歴代の社長や幹部に徹底取材し、明らかにしていくことだろう。
学長の逮捕の項も興味深い。チェルノブイリ事故後に健康被害を調べたバンダジェフスキー医師が、別件で逮捕され、服役したことを書いている。同医師は内部被曝の危うさに警鐘を鳴らしている。一方で、この項では、ウクライナの検診センターのグーテビッチ副所長の言葉として、子どもの甲状腺がんは増えたものの、がん一般に関しては「とくに増えていません」と伝える。ただし、免疫力の低下の話となると同副所長は歯切れが悪くなることも記者はしっかり伝える。別の医師、ゴルディエンコから「確かに、がんがとくに増えているとはいえません。しかし、免疫系がダメージを受けているのは確実だと思います」という言葉を取材によって引き出している。
放射性物質が飛び散ったチェルノブイリ事故の例があるのだから、健康への影響があるのかないのかよくわからないはずはない。この朝日の取材はその先鞭をつけている。日本の専門医や厚生労働省は、すでに海外で明らかになっている事実を日本国民にしっかり伝えるべきだろう。
本書は、事故後のさまざまな関係者の動きをダイナミックに描き出すのに成功している。朝日新聞が好きとか嫌いとか、まったく関係なく、福島第一の原発事故後を生きていかなくてはならない日本人は、目を通しておいた方がよいと思われる。
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原発事故のある真実…いったい何なのこの国はと、思う。
2020/11/05 15:47
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投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は2011年10月から朝日新聞紙上で連載がスタート。あっという間に読者に支持され、ほぼ連日の掲載が長く続きます。そしてそれをまとめたシリーズも9作目まで発行。本書はそのシリーズ1作目です。
タイトルに使われた「プロメテウス」は、ギリシャ神話の神さまのひとり。プロメテウスは、良かれと思って人類に「火」を与え、ゼウスの怒りをかいます。「火」を手にした人類は、その後文明を発達させることができたけれど、多くの災いや争いも引き起こした。
そして、今「原子力」による「火」に振り回されている。
あれだけ大きな事故を起こし、今後もその危機に満ちている原発という存在。
人類は、「火」を我が物として自在に活用できる能力があると過信しすぎたのではないだろうか。少なくとも、日本の権力者に、原発を社会を真の意味で豊かにする方向に使いこなす才覚はない。
まだ1巻目しか読了しておりませんが、正直な読後感はこんな風です
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客観的な視点で原発事故について、物語的に書かれている。特に第六章「官邸の5日間」は必読だ。刻一刻を争う未曾有の事故に対応する政府の様子がありありと描写されている。
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大震災・原発事故のあと暫くした2011年10月から朝日新聞の朝刊に連載されていた(現在も連載中)コラムの書籍化だ。
このコラムは大震災・原発事故の対応の検証を行うことを目的としており、その中心に位置する官邸・東電の対応も勿論触れられているのだが、其れが中心ではなく、此れまで余り報道されては居なかったものの、その周辺で様々な国の組織・機関が行っていたことを積極的に取り上げている視点が目新しい部分だ。
更に、後書きでも触れられているのだが誰が何をやっていたのか、何をやらなかったのかを検証する過程で官僚組織の匿名性を敢えて排除し「xx省xx部の何某がxxと言った」という形で書いていることだ。官邸や東電の一部については此れまでもかなりのメディアで実名で活字になっているが、多くの場合官僚組織は「xx省」はとか「xx省筋」という曖昧な書き方で責任の所在が明らかでない場合が多いのだが此れも目新しい試みだろう。
コラムは幾つかの話題をシリーズで連載しているが、例えば、(1)厚生労働省所管の独立行政法人である労働安全衛生総合研究所の研究員が「指示があるまで勝手な行動は慎め」と現地での放射能測定を止められた結果、退職する経緯、(2)気象研究所が過去60年に亘って積み上げて来た放射能の測定を一番大事な時期である2011年3月末で予算を取り上げられ急遽中止されてしまった経緯、など世にも不思議な話が満載だ。
政府(官邸)が事故直後に足並みを揃えて事故を矮小化しようと各省庁に指示するほど機能していたとはとても思えないが、そのような意図を密かに汲み取り誰も知らないうちに部下達に指示を出していた各省の官僚組織の在り方はもっと真剣に見直されてしかるべきだということだろう。
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朝日新聞・特別報道部の成果。なかでも、後にNHK・Eテレ「ネットワークでつくる放射能汚染地図」へと結実する苦悩と困難な歩みを丁寧にトレースした、第二章「研究者の辞表」は出色の出来。調査報道の真髄。
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事故直後、既にメルトダウンしているのではないかと言ったフリージャーナリストはいい加減なことを言うんじゃないと叩かれた。菅前首相が我を通して現地に乗り込んだため、ベントが遅れたと言われて叩かれた。どちらも間違いだが訂正されず、謝罪もされていない。あのとき何があったのか、「どこの」「誰が」「何を言ったか」の積み重ねで解き明かされる。広島の被爆者を治療した医師やチェルノブイリの情報も参考になる。
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新聞の連載記事だけあって読み易く、理解し易い。被災者、政治家、官僚、
研究者のそれぞれに丁寧な取材も行っている。でも、東京電力は取材拒否。
福島第一原発事故の発生前夜から、その後の事故対応を様々な観点から
検証している。ただし、官邸の対応については本書をそのまま鵜呑みにに
は出来ないが。
でも、おかしいじゃないか?当時の首相・菅直人がSPEEDIの存在自体を
知らなかったって…。日本国の緊急事態時の最高責任者だぜ?どうして
そんな人物に、必要な情報が提供されないのか。
危機管理センターには原子炉の設計図もなく、保安院も安全委員会も
放射能拡散予測を伝えない。
東日本大震災では被災された方々に必要な情報が届かないことが大きな
問題になった。しかし、日本の中枢にさえ最低限の情報が集まらないって
のは異常だろう。
先日、NHKスペシャルを観ていたら「住民がパニックを起こすから」との
理由で段階的に退避区域を広げたことの言い訳をしていた人がいた。
パニックになっていたのは危機管理センターではなかったか。
尚、こんな官僚・政治家を尻目に正しい情報を集めようとした研究者が
いたことを忘れていはいけない。それなのに気象庁気象研究所には
なんの根拠もなく50年以上続けて来た放射能観測中止が申し渡される。
誰が、何の為に、中止を決めたのか。判然としないところが、責任を
取らない日本の官僚の体質ってところか。この第3章だけでも読む
価値あり。
尚、本書は朝日新聞の連載で今も続いている。不思議なのは同新聞社
は出版部門もあるはずなのに、発行元が学研なのだ。う~ん、系列に
テレビ朝日があるから?テレビ局の最大スポンサーが電力会社だから
気を遣った?な~んて深読みしてみた。
ところで、朝日新聞もそうだがメディアはメディア自身の震災・原発報道
の検証をしてみてはどうだろう。
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朝日新聞が現在も連載しているルポルタージュ記事の書籍化。福島原発事故における、官邸の混乱、なぜ放射能拡散シミュレーションが公開されなかったのか、内部被曝の問題などなどをおっている。
かつて新聞の価値は、特ダネ記事の掲載、記事の序列づけ(一面トップ記事は何か?)、そして何より多くの人にとって数少ない確かなニュースソースのひとつ…であったわけだが、RSSリーダーやYahoo!ニュースや検索で記事が読まれる時代、そのいずれも役目を終えている。
ならば、各個人ではなしえない取材と、一般人ではなしえない高い目線からの分析と提言こそが今後の生命線だろう。
今回の連載スタート時の約束事として、「関係者によると…」ではなく、「○○の○○が○○と言った」と実名で踏み込んで書こう…というのがあったそうだが、特に官邸と東電と官僚の混乱ぶりのあたりなど、その試みは一定の成功をおさめているように思う。
であるならばもう一つのほう、ただ「庶民はこんな風に翻弄されて困ったぁ」と投げっぱなしにするのではなく、建設的な分析と提言を今後の連載に期待したい。
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SPEEDIは意図的に隠されたのだろう。首相に隠匿して、米軍には情報を流す。酷い話だ。
政府から止められて警官が線量が高いことを住民に伝えられない…日本ってそんな国だったんですね(@@;)
「誰もいない道を走ってごらんって。そうすれば、自分のしでかしたことの大きさを感じられるからって」
国も東電も自分たちのしでかしたことの大きさは最初から知っていたんですよ。だから隠したし、責任逃れしたんですよ。
しかも管元首相に全部責任転嫁か…おそろしい…。彼も被害者ですな。
ネイチャー掲載の取り消しって…酷すぎる。これスポーツ選手でいうと、金メダル確実のオリンピック出場禁止のレベル。
第六章の「 総理に助言すべき組織が機能せず、当事者意識が欠如していた。組織の都合が優先され、必要な知識を持った人間が役職にいなかった。」
結局これに尽きるのだろう。そしてこの問題はこの国の基本的な問題点である。医療も年金も外交もすべてそんな印象だ。
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最初はなんでこの本がそんなに話題なの?と思ったが、さすがに第六章は息を詰めて読みました。よくも悪くも極めて日本型ジャーナリズムですね。誰があのときこう言った、、みたいなのはとてもよく書けていますが、科学的な分析はかなり甘いです。個人的には第三章もよいです。坪倉先生の活躍も紹介されています。
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不確定性の強い事象に対する強靭な組織を構築できていなかったことにつきる。HROの構築に全力をあげていかねばならないだろう。
興味があるあるのは、官僚機構の不全が、民主党政権が信頼性を壊したからなのか、それとも制度疲労によって機能不全に陥っていたのか?ということ。前者であれば、故意にサボタージュしたという批判を受けかねず、国家を預かる専門家の集団としては許し難い。後者であれば、組織上の課題の洗い出しと検証が急がれる。
いずれにしても、危機管理が重視されるようになった2000年以降、初めて政府が直面した危機であり、その対応に失敗したということ。様々な企業や組織が危機管理に失敗してきた状態を監督官庁が指導してきながら、自分たちの組織には目を向けていなかったことに、失敗の主因があるように思われる。
最後に、本書の帯には「政府、官僚、東電の罪をあばく」とあるが、マスメディアには、全く罪は無いという書きぶりが気になりました。
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福島原発事故のドキュメンタリー。いかに行政と対策本部が機能しなかったかというルポは一杯出ていますがこの本では実際高放射能域に放置された住民や放射能拡散についての論文掲載を上司から止められた気象研究所職員、など当事者の目線でまとめています。情報が交錯するからという理由で職員の放射線計測を止める。ビキニ環礁での核実験以来57年継続してきた放射線観測予算を原発事故直後に削減する…など驚きの事実が。
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放射能を測定に行こうとして厚労省管轄の職場から圧力をかけられ、辞表を出して現場に向かった科学者。長年続けた放射能観測を福島後の高レベルが続く最中予算を切ってしまう文科省。「混乱を招く」と放射能の分析結果の論文掲載を認めない気象研。「不安を招くから」と内部被ばくを測ってくれない検査期間…感動させられる一般の人達の話、こんな国だったのか?と驚く話、などなどまだ未解決の話満載です。
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もうこのテの本は食傷気味なのだが,またもや読んでしまった。朝日新聞に連載中の原発・放射能ルポの書籍化。「正義の味方」って何か苦手…。
去年の10/3から始まったというこの連載のコンセプトは,①連続テレビ小説方式,②客観的記述,③分かりやすい表現,④市民目線,⑤官の理屈に染まらない,といったところだという(p.267)。しかし②で徹底的に事実を書き,主観を省くとしてるのはあんまり守れてない気がするよ。
どうしても取材における取捨選択で,放射能怖い情報ばかりが残ってしまう感じ。表現方法も不安を掻き立てるような印象操作臭がプンプンする。出てくる科学者も,市民に優しい木村真三氏,肥田舜太郎氏,崎山比早子氏,バンダジェフスキー氏…。「いったい何を信じていいのか」「命は二つありませんから」こんな調子で記述が続く。
肥田氏の言「政府が被害を小さく見せようとし、事実をきちんと言わないから、住民の間で反目が生まれるのです。そして住民の対立は、政府や東電にとっては都合の良いことなのです。」(p.134)なんて,偏見に満ち満ちている感じがするのだが,「正義の味方」なんだろうねえ。いやはや。
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あとちょっと…を残して放置プレ~だったのを、先ほど読了。
終盤では特に「『あの時』政府の中枢や東電は何をしていたのか」が、当時関わった人の証言で検証されていて、『今だから、知ることのできる』事実に、嘆息の連続。
それでもきっと、明かされているのは、ごく一部なのでしょうけれど…。
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、今も(本当は)収束していない状況と思われますゆえ、この本においても、最後まで読んでも「何も、終わっていない」という印象です。
朝日新聞では、今も連載が続いているようですし、数ヵ月後には続編が発刊されると思われます。
首都圏では、日常会話から、あの事故を語る回数が減っていると思います。
まだ何も、解決しておらず、今後何十年も覚悟を決めて向き合わなければならない事態でありながら…。
でも実際、私も「いま、この話をしたら相手は嫌がるだろうな…」と空気を読んで、口をつぐむことが多いです。
こうしているうちに、自分の感覚からも遠くなる…という、それだけは、絶対に避けなければ…と思います。
何も出来なくとも『考える』ということまでやめてしまっては、あの時、すべてを放棄して撤退しようと考えていた(らしい)あの会社と同じになってしまう…。
重い気持ちになったとしても、未来に向けての『責任』からは、逃げてはいけないのです。