紙の本
小さな世界の大きな危機
2021/04/09 21:59
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
2つの恒星による連星があり、熱くて大きい方の周りを公転している惑星に、海で漁業をしている人々と、農業と狩猟で暮らしている人々が住んでいる。そこに鉱山採掘のために地球人も滞在している。すると現地の人々は人類ではない何者なのか。海水の組成も、動物相、植物相も、地球のものとは大きく異なり、何より先祖の記憶を遺伝によって受継ぐという能力を持っている。そして「根掘り虫」の少年と、「水掻き持ち」の少女が恋に落ちる。
地球人は不干渉方針でありながらも、文明は代々で少しづつ進歩しているようでもあり、過去の記憶はむしろ人々を強く保守的にもしている。そして連星の重力の影響で気候変動が起きるために、人々に危機が見舞う。若者たちはそれを救えるのか、どんな運命に導かれているのか、彼らは一体何者なのか。
成長していく若者たち、あるいは挫折する者、変わることのできない者、様々な思いの中で事態は進行していく。そもそも宇宙には、地球人と、もう一つの宇宙航行種族がいて、そちらの方の実態はよくわかっていないのだが、この惑星の謎にはその種族が深く関わっているらしい。とは言えこの惑星の住民にそんな謎を解き明かすようなことは望めないわけで、ただ自分たちが生き延びること、絶滅の危機から逃れることで精一杯だ。大きな宇宙の動きの中で、人間の営みはいかにも矮小だ。世界全体から見たら小さなことかもしれないが、この人々の運命はまさに逼迫したドラマとして惹きつけられる。主人公の少年は人々のリーダー的な立場になるが、決して有能なリーダーとはいえず、もたつきながらも周囲の人たちの力によって、なんとかことが進むのだし、成果もかつかつである。
英雄的でも魔法的でもない、平凡な少年のささやかな成長が、この宇宙的危機の中でも感じられはする。危機が来たら突然スーパーマンになったりできないし、世界が破滅するからといって覚醒したりもしない。普通の人々が、失敗と成功を繰り返しつつ、なんかもやっとした結末に辿り着く、それは生活感溢れるというのかもしれない。自然の中で育まれる生命力、そして自然を愛してよく観察することから運命が拓ける、そんなところにこの作者らしさがあるようでもある。
紙の本
イギリス・カナダで活躍したマイクル・グレートレックス・コーニイの面白いSF小説です!
2020/05/31 11:18
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、20世紀に活躍したイギリス・カナダの作家マイクル・グレートレックス・コーニイ氏のSF作品です。『パラークシの記憶』は、『ハローサマー、グッドバイ』の続編にあたる作品で、1990年代に執筆されたたのですが、しばらく出版には至らなかったという経緯がある作品です。内容は、惑星スティルクに住む少年ハーディは星に伝わる伝説の女性ブラウンアイズと同じ色の瞳を持つ少女、チャームに出会います。また、時を同じくしてハーディの住むヤムの村は寒さからくる凶作に見舞われていました。村長である叔父のスタンスや父親のブルーノは厳冬期を乗り切るための策を講じるのですが、チャームの住むノスの村で殺人事件が発生します。殺人の嫌疑をかけられ、自身も命を狙われていることに気付いたハーディは、真犯人を探しながら長い冬を乗り切る術を模索していきます。一体、ハーディはどうなっていくのでしょうか。続きは、ぜひ、同書をお読みください。
紙の本
前作の謎が明らかに
2017/01/08 19:01
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作ハローサマー・グッバイの続編です。前作の謎が明らかに。
投稿元:
レビューを見る
出る出ると言われ続けて漸く出た『ハローサマー、グッドバイ』の続編。
『ハローサマー、グッドバイ』の数世代後が舞台で、前作の主人公2人は神格化されており、幾つかの追加設定がある。
その中で最も重要なのが、制限はあるものの『記憶が継承される』というもので、これが作中でも重大な意味を持つ。
ストーリーは前作と同じくボーイ・ミーツ・ガールを基本としているが、今回はミステリの色彩が濃い。但し、犯人当てという意味ではだいたい予想がついてしまうのが残念。
投稿元:
レビューを見る
『ハローサマー、グッドバイ』の続編。
続編、とは言っても前作から数百年単位であとの世代の話。だけれど、その数百年の“記憶”が上手く話に生かされているので、前作を読んでから読んだ方が絶対に楽しめる。
記憶遺伝子をもつ人間型の種族で、世代間に記憶が継承されていく(制限はあるし、自主的に制限をかけることもできる)という設定がとても面白かった。
それにしても、前作のドローヴとブラウンアイズのいちゃつき具合も大概だったけど、今作のハーディとチャームもなかなかのものでした…(笑)まあ、どちらも愛は世界を救うというところなので。良い青春恋愛SFでした。
投稿元:
レビューを見る
待望の『ハローサマー、グッドバイ』の続編。前作の数百年後を舞台とし、幾つか追加設定も。青春恋愛SFとしては勿論、その世界ならではのロジックが活かされた異世界ミステリとしても傑作。
投稿元:
レビューを見る
「ハローサマー、グッバイ」の続編が出るなんて誰が予想しただろうか!が、続編が出たおかげで前作のあの読後に訪れる余韻がかなり薄まってしまった。もったいない。そして内容はいいのだから、このカバーはやめてほしい。前作と合わせてほしい。レジに持ってくのかなり恥ずかしいです、河出さん。
投稿元:
レビューを見る
『ハローサマー、グッドバイ』続編。こっちも前作に劣らず面白い。先祖代々の記憶を受け継ぎ、必要な知恵を再生することのできる、地球人に似た生命体のお話。今回も中心となるのは若い男女で、古い体質にたちむかう姿は痛快。殺人事件の犯人探しという伝統的ミステリの側面もあり、前作から引き継いだロリン何者? を始めとする星の謎が明かされると――これはやられた。
投稿元:
レビューを見る
一応ハローサマー、グッドバイの続編。前作の主人公たちは今作では神話上の人物として出てくる(ネタバレだけど、本作の主人公のハーディとチャームは、ぞれぞれ前作のドローヴとブラウンアイズの子孫)。
やっぱり前作と同じで少年少女の成長と恋が描かれてるけど、今回は後半からミステリ的な要素もある。
終盤、「舞台となる星は大凍結と呼ばれる氷河期に向かっており、大凍結をどうやって乗り越えないと人類は絶滅してしまうので、大凍結を回避するために方法を探す」という展開は前作と同じ。しかし、ここで前作のラストの「ネタばらし」がされる(正直私は前作のラストは意味がわからなかったけど、今作を読んで納得した)。
ハローサマー、グッドバイが気に入った人は今作も楽しめると思うし(前作より多少血なまぐさい展開はあるが)、今作で新たに出てきた様々な設定(星夢、ロリンの正体、地球人類の登場、etc…)によって、前作よりもSF度は上がってる。少年の成長物語であり、恋愛小説でもあり、ミステリでもあり、SFでもある。
個人的に一番格好よかったのは地球人のミスター・マクニール!
投稿元:
レビューを見る
典型的なボーイ・ミーツ・ガールのストーリー、いけすかないムカつく敵役、繰り返される災厄等々、前作をそのままトレースしたかのように見えて、それでも一気に読ませられてしまうのがスゴイと感じました。
前作から、もう一度、通して読み直したくなりました。
投稿元:
レビューを見る
前作に続いて、震えるほどの傑作!!!
昨年の秋、発売と同時に手に入れていたのだけど、最後まで読み切れずに、100Pちょいだけ読んで放置してしまっていた。で、このタイミングで最初から読み直す。ページをめくる手が止まらず、1日で読了。物語の世界にずぶずぶに浸り本当に楽しい時間だった。コーニイなのか、訳者・山岸さんなのか、あるいは版元の編集者なのか、誰に感謝したらいいのかわからないけれども、前作『ハローサマー、グッドバイ』に引き続き、素晴らしい物語をありがとう!と読み終わった後も、しばらく叫んでいる感じ。
主人公のハーディにやきもきしたり、少女・ハーディとの恋のやりとりに思わず笑みがこぼれたり、死体が上がった時はまさかまさかとドキドキして、叔父のスタンスには、こんちくしょうめ!と本気で憤ったり、スプリングの母としての愛情<この物語世界では異質な在り方>に救われたり、ミスター・マクニールにすがるような気持ちになったり、読んでいる最中は常に登場人物と共にあり、喜怒哀楽に満ちた読書時間だった。しばらくたったら、また読み返したいと思うし、子どもにも読ませたいと思った1冊。
投稿元:
レビューを見る
前作が、夏の日差しから凍期を前に
希望も恋も失われていき、徐々に灰色が濃くなって
行くかのような雪の中、ラストを迎えるのに対して、
続編は、前作になかった異星人の特徴や前作と異なる
文化、文明状態など戸惑いもあるが、前作のことも
全て(一応)説明を付けたうえで、日差しのなか
終わるのが、皆が待った続編が届いた、
という感じでよい。
まわりの青二才がアホで、少しはそれより優れている
といっても、二人を隔てる障害があっても、
主人公が初めからビシッとしていて、
美少女と惹かれあっては一般人には妬みの
種なだけだし、徐々に古くからの世界を
新しく築きなおすという所につながって、
青二才が一人前の男になる過程を見ていけるのもよい。
投稿元:
レビューを見る
文句を言いたいわけじゃないが、5年待った。『ハローサマー、グッドバイ』のあとがきに触れられていた続編のようやくの登場である。
続編というのはいささか語弊があって、直接的な続きというより、同じ舞台を使った作品である。しかも、『ハローサマー』の主人公、ドローヴとブラウンアイズは伝説の人物となっていて、その実在すら定かではなくなっている未来の話。スティルクと自らを呼ぶこの星の知的生命は人間とそっくりなのだが、『ハローサマー』では機械文明初期にあったのが、この未来の話では産業革命以前のような狩猟・農耕社会に退行している。
しかもスティルクたちはこの何百年かのあいだに『ハローサマー』にはなかった能力を身につけている。それは同性の祖先の記憶をアーカイヴのように残しているということである。父が自分を受胎させるまでの記憶、祖父が父を受胎させるまでの記憶、というようにずっと遡っていけるのだ。ただそれを思い出すには、それ相応の努力がいる。そしてもっとも長く祖先の記憶をたどれる家系が、村の長となるのだ。記憶が女系と男系に分かれているせいか、コミュニティも男性集落と女性集落に分かれており、男の子は一定年齢になると母から離されて、男性集落の父のもとで過ごすようになる。
「ぼく」ヤム・ハーディは、男が狩猟、女が農耕を営むヤムの村の男長の甥である。彼の父の弟が男長だ。年少の兄弟のほうが父の記憶をより多く持っているから長になるのである。折しも、年々寒さが強まり、獲物がとれにくくなり、作物も実りにくくなっている。だいたい『ハローサマー』と同じような状況になっていると読者にはわかるわけだ。このため、ヤムの村では漁を営む沿岸のノスの村に援助を求めることになる。そこでハーディはノスの女長の娘ノス・チャームと出会い、恋に落ちる。美しくて、利発で、意志の強い女の子が主人公と相思相愛になるのはマイクル・コーニイの常。
『ハローサマー』の時代よりあと、この惑星には地球人がやってきていて、鉱物を採掘している、というのも、新たな設定。地球人ミスター・マクニールはハーディのよい助言者である。
ハーディの父ブルーノはリーダーの才覚のある人だが、その資質を欠く弟のスタンスが男長を務めており、ブルーノはスタンスを保佐して村を運営している。しかし、ある日、父ブルーノは殺されて発見される。祖先の記憶を有するスティルクたちは、殺人のような不名誉な記憶を子孫に残すのを嫌って、恐ろしく犯罪は少ないはずなのに。
基本的には『ハローサマー、グッドバイ』と同じ話といってもいい。この星の人たちが、40年続く凍期をどうやり過ごすのかという話だ。そして『ハローサマー』を読んでいる人はその答えもすでに知っている。そこで作者は上記のような新たな設定を投入して、似ているけどぜんぜん別の話、でも『ハローサマー』をもうひとつ読みたいという読者のわがままをかなえてくれる本を書き上げたのだ。登場人物たちが『ハローサマー』の舞台だったパラークシ(今では聖地とされている)での出来事の記憶にたどり着けるかどうか、殺人事件の真相はどうなのか、スティルクたちはどうしてこんなに人���に似ているのか、などなど。
そして、あとがきには次のお楽しみが。傑作だったということしかもう記憶にない『ブロントメク!』が本文庫で復刊予定だというのだ。
投稿元:
レビューを見る
最後の最後で、SF的大どんでん返しに驚かされた「ハローサマー、グッドバイ」の続篇。何十世代も後のあの星が舞台だということで、今度はどんな物語が展開するのかと楽しみに読み出したのだが、あらら?なんだかいろいろ違うではないか。
前作では限りなく地球人に近かった住人たちは、はっきり異星人として描かれており、前作にはなかった設定が次から次から出てくる。それはそれで興味深くはあるけれど、ちょっと途惑うのも確か。
「記憶遺伝子」という設定をはじめ、異星の奇妙な文化のありようがみっちり描き込まれており、殺人事件の犯人捜しというミステリ的な面白さもある。しかし何と言っても話のキモは、裏表紙の紹介文に「真相が今語られる」とあるように、例の大ネタに合理的説明(あくまでSF的に、だけど)がつけられることだ。これをどう思うかで、人によって読後感はずいぶん違うと思う。
私は、こういう理屈抜きの前作の方が好きだなあ。なんだかよくわからんところが、かえって魅惑的じゃあないの。あの「ハイペリオン」も、背景が明らかになる「没落」より第一作の方がより好きだし、「ラギッドガール」は大傑作だと思うけど、「グラン・ヴァカンス」の世界により魅了されてしまう。いやまあ、これらは別格に好きな作品で、背後の世界が明かされていくことの愉しさも大きいのだけど。
そういう意味では、本作の「説明」はちょっとどうかなあ。「キキホワホワ」とか、うーん、どうももう一つぴったり来ないのだった。
投稿元:
レビューを見る
文句無く面白い!前半、主人公以外の登場人物が頭悪過ぎて読むのが大変ですが…事件が起こり、謎が波乱を呼び、最後は大円団のハッピーエンド。読んでよかった。この本とおうか、この作者を勧めてくれた神林しおりにお礼を言いたい。貴方のおかげで、SFを読むようになったんだよー♪