紙の本
良作二本立て
2017/05/20 21:49
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
養鶏場の殺人は実際に起きた殺人事件をもとにして書かれた作品。早く彼と結婚したい女性と、彼女と別れたい男性。彼が結婚をどんどん先延ばしにするようになってから、女性の頭もだんだんとおかしくなりついに悲劇の幕があがる。 火口箱は偏見をテーマにした物語。アイリッシュの青年が老人とその看護師を殺害した容疑で逮捕される。そこから始まる容疑者家族へのいやがらせ。人種差別が主題かと思えば、後半になると、一人の女性を通して、人は色眼鏡をかけて他人と接していることをまざまざと見せつけられた。どちらも緊迫して面白かった。
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中篇を2篇収録。
『養鶏場の殺人』は現実に起きた事件を小説化したもので、『火口箱』は長篇『遮断地区』でも描かれた『コミュニティの暴走』を主題にしたもの。
どちらもウォルターズらしい濃厚な中篇だったが、『養鶏場の殺人』の方が比較的取っつきやすい。『火口箱』は長さの割に登場人物がやや多すぎるように思う。
『はじめに』によると、『養鶏場の殺人』は『クイック・リード計画』のために書かれたもので、『火口箱』はオランダで無償配布されたものだとか。世の中には色々なイベントがあるようだ。
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行き遅れた女の結婚に対する執念怖~~~!(他人事じゃない)(笑)(えない/(^o^)\)な、【養鶏場の殺人】と、イングリッシュ・アイリッシュ間の偏見が交錯する【火口箱】の2編を収録した中編集です。
私にとっての記念すべき初・ウォルターズ作品。既刊も何度か店頭で見ていたんですが、装丁とか説明文がいまいちそそらなかったのですよね(゜-゜)でも、今回の内容説明は面白そうだわ~!というわけで、一目惚れ買いでございます。
まずは、適齢期を過ぎて焦り始めた女の執念が恐ろしい、【養鶏場の殺人】。
実際に英国で起こった事件に題を取っているそうで、何とあのサー・ドイルもこの事件について言及しているんですね~(゜-゜)
「完全にありえないことを取り除けば、残ったものは、いかにありそうにないことでも事実である」と彼の名探偵に語らせたサー・ドイルの目に、この事件の顛末はどのように映ったのでしょうか。そして、一つの可能性として提示された今作をもし彼が読んだら、どんな風な意見を持ったのでしょう。と、しみじみ思いを馳せてしまったのでした。
が、今作の被害者であるエルシー。同性である私から見ても非常に身勝手で癇癪持ちな女性として描かれていて、読んでいてかなりゲンナリしました。
「私は何も悪くない!私が不幸なのはあんた達のせい、悪いのはあんた達よ!」
とヒステリックに周囲にまき散らしながら、盲目的に愛する男には媚び諂い、「ねえ、結婚いつしてくれるの?」と催促する女って…(震)。
そんな年上女性に愛されてしまった青年にも同情の余地はありますが、本作を読む限りでは「どうにか逃げ切れたやろ~」が正直な感想。
最後まで無実を訴えた彼が、絞首刑に処せられた瞬間、真実を知る者は誰もいなくなってしまったわけですが、仮に彼の言うとおり全てが彼女の自作自演だとしたら恐ろしいなあ(震)。私としては、「私を裏切った彼をちょいとビビらせてやるわー!」な動機であんなことをしでかして、結果事故死に至ってしまったってのがまだしも救いがあるのかなとも思いますが、どうでしょう。それはそれで報われないか…汗。でも、当てつけで自殺するよりは…う~ん…。
続いては火口箱!
強盗殺人事件に端を発した、人種差別的偏見が生んだ悲劇と、その後の関係者達の交流と闘争が描かれる中編です。
イングリッシュとアイリッシュという分かりやすい対立軸が大前提にあり、容疑者とその周囲を取り巻く人々の分かりやすい対立図式があり、それによって読者に「ある偏見=思い込み」が刷り込まれることで意外なラストが演出される、フーダニット物です。うむ、見事に騙されました(笑)。よく考えたら、一番怪しい筈だけどな~(笑)。
殺人事件発生直後、放火事件前後、そして語り手と担当警部のやり取り、これらが交互に描かれるカットバック構成も、物語に緩急を付けてリズム良く読めます。
「ある人物」が、犯人の仕掛けたこの「偏見によって容疑者圏外に自分を置いた」ことを逆手に取って、自分に対する「偏見」を用いて逆襲に転じたことが明かされるラストは、中々の読みごたえがあるどんでん返しです。
背表紙の説明文がいい感じだったので、そのまま引用~(^O^)
1920年冬、エルシーは教会で純朴な青年に声をかけた。恋人となった彼が4年後に彼女を切り刻むなどと、だれに予想できただろう―。英国で実際に起きた殺人事件をもとにした「養鶏場の殺人」と、強盗殺害事件を通して、小さなコミュニティーにおける偏見がいかにして悲惨な出来事を招いたかを描く「火口箱」を収録。現代英国ミステリの女王が実力を遺憾なく発揮した傑作中編集。
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英国ミステリの女王ミネット・ウォルターズの新刊。
趣向のある中編2本です。
面白く読めました。
「養鶏場の殺人」は実話をもとにした作品。
クイック・リードという企画で、本をあまり読みつけていない人にも楽しんでもらえるような作品として書かれたもの。
1924年に実際に起きた殺人事件で、裁判で主張がわかれ、あのコナン・ドイルが疑義を申し立てたこともあるという。
エルシーという女性がノーマンという年下の若者に教会で出会い、声をかける。
親しくなった二人だが、ノーマンが失職、二人の将来には暗雲がたれこめる。
エルシーの性格にもかなり問題があったのだが‥
実名のままに経緯を手さばきよく描き、鬼気迫るシーンへ。真相も推理しています。
はたして、何が真実だったのか‥?
「火口箱」のほうは、ブック・ウィークにオランダで無償配布された作品。
読書好きの人に、普段は読まない分野のものを読んでもらう狙いだそう。
とある住宅街で老婦人と看護師が殺され、出入りしていた無職の男性パトリックが逮捕された。
その後、パトリックの両親は、村の誰かから嫌がらせを受け続ける。
相談された女性シヴォーンは、見兼ねて警察に出向くが、取り合ってもらえない。
パトリック一家はアイルランド系で貧しく、村の美観を乱すようなガラクタを庭に放置し、イングランド人のひんしゅくを買っていた。
シヴォーンはアイルランド出身の女性だが裕福で、もしアイルランドにいるままだったら一家とは縁がないような関係。
一筋縄ではいかない登場人物に、村に渦巻く偏見と誤解が、どう絡み合っていくか。
緊張が高まっていくあたりはちょっと「遮断地区」を思わせます。
感じのいい女性シヴォーンの善意と意志が貫かれるのは、いかにもウォルターズらしい。
でも彼女にもすべてが見通せているわけではないんですね。
意外な展開を楽しめます!
初めてウォルターズを読むのにも良いかもしれません。
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2014/5/9読了
・『火口箱』ダラダラ時間ばかり掛けてしまい、一気読みすればよかった、と後悔。
・『養鶏場の殺人』一気読み。古い話だが、今でもよくある普遍的な出来事か。
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中編二作。どちらも面白いが、「養鶏場の殺人」のほうは、ミステリーの手法としてとても斬新な気がした。dそれほど特異性のある事件ではないにもかかわらず、ホラーのような怖さを感じさせる。ちょっとしたことが様々な連鎖によって恐ろしい事態に発展していくのは、最新作の「遮断地区」とも共通している。
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被害者加害者が濃密な関係を持っていて悲劇的な結果を迎えた時、加害者だけが悪い、といえるのだろうか──という作者の前書きにもあるように、当初の関係が悪意や思い込みによって徐々に破綻していくプロセスが面白い。中編なのであっさり描いてあるものの、それでも刻々と変化していく心理描写の上塗りはさすがウォルターズ。キャラ造形が巧いので、シーン毎に共感し反発し、常に不快感を覚えながらも、目が離せない人間ドラマは読み応え抜群。ここにハマると抜けられないよねえ。
『養鶏場』の方が好み。実話っていうところが更に惹かれます。ミステリ色の濃い作者の見解にも納得。『火口箱』は、やや中弛み。『蛇の形』で経験した“しつこさ”がちょっと垣間見えたかも。でも意外性のインパクトが強いので、ラストで丸め込まれたかな。長編はまだコワいけど、中編ならリピートできそう。
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150ページほどの中編2作。
やはりこの作者はエピソードを積み重ねつつ、キャラクターの輪郭をガリガリと削り出して行くのがうまい。
このての結末と言うか真相をはっきり書かない終わり方は読み手に考える余地を与えてくれるので結構好きだったりする。
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読んでいて疲れた。実話をもとにしているからなのか不条理な心の動きや行動。すごく読み終えるまで時間がかかった。
引き込まれず集中できなかった。
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団体から読書推進のために作家が執筆を依頼されるって、それだけ英国は読書に熱心なのか、それともそうしなければならないほど読書人口が減っているのか。確かにいつものウォルターズより読み易かった。日本でもそんな試みをする団体があるといいですね。英国がウォルターズなら、日本は宮部みゆき、それとも恩田陸?
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中編二本が収録されていて、読みやすかったです。養鶏場~の方は実話がもとになってるとのこと。個人的には火口箱の方が面白かったです。
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中編2作。
1作目 実話を元に書かれた作品。
ニールは本当に有罪だったのか、それとも冤罪だったのか。
加害者だったのか、被害者になるのか。
本当の事は今となっては分からないだけに、恐ろしいです。
2作目 集団意識の恐ろしさ。いじめもこれですよね。。。「正義」って何なんでしょう・・・
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中編のミステリー2編を収録。
「養鶏場の殺人」はミステリーというよりはホラーっぽい感じだろうか。
若い男女、人生にも恋愛にもあまりにも未熟なのに互いに「恋愛」を意識しあうも、理想や意思がかみ合わず、若すぎるゆえに相手に思いが伝わらない、相手を思いやることもできず、最後にはあまりにも悲しい結末が待ち受ける。。。
実際に起こった事件を小説化されたようです。二人の悩みや気持ちを真摯に聞いてくれる家族や友達が周りにいればこんな事件は起きなかったかもしれない。
それに、女の子の結婚への焦りや家族からのプレッシャーは万国共通なんだなぁ。。。そういう面ではエルシーに少し同情を感じてしまった。彼女のあまりにも強烈すぎるが純情な心がとてもやるせない。
「火口箱」は、ある小さな田舎の村での殺人事件。差別や偏見でがんじがらめになっている住民たちの思い込みや誤解が生んでしまった悲劇。
証言者と警官の会話の場面、火事の場面、ご近所同士の言い争いの場面など、過去や現在が飛び時系列がごっちゃに描かれているため、前半は頭が混乱してしまったが、後半部分は意外な展開に一気読みだった。
両方の作品とも直訳っぽく、淡々と抑揚なく文章が綴られている感じ。しかしその文体が、この両作品で起きた事件の悲しさと孤独と怒りを表現してくれていると思った。
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二つの風変わりな中編作品を収録した新ミステリの女王ミネット・ウォルターズの初の中編集である。序文は作者本人によるもので、そこで証されていることにより、ぼくは「風変わりな」と称したのである。
『火口箱』は1999年、オランダでのブック・ウィーク期間中、普段ミステリを読まない読書家を誘い込むために無償配布された掌編だそうである。
『養鶏場の殺人』は2006年イギリスのワールドブックデイにクイックリード計画の一環として刊行されたとある。普段本を読まない人に平易な言葉で書かれた読みやすい本として提供されたものであるらしい。
どちらも読書促進運動という目的をもって書かれた珍しい作品であり、そういえばミネット・ウォルターズはこれまで長篇以外は邦訳されていないので、こういうウォルターズはどうなのかと興味津々でページを開いた次第。
さて『養鶏場の殺人』は、二人の男女の悲劇であるが、どちらが被害者か加害者かわからないほどの悲惨な関係が、養鶏場経営という悲惨な生活を背景に描かれることで、事件の背景にある真実を曝け出したものである。1924年という古い時代に実際に起きた事件のノベライズであるのだが、ウォルターズの筆力が、「読みやすいように平易な文章で書かれている」ゆえにこそ、際立って見える。
どうして四年後にこの人がこの人を切り刻むことになるのかという、事件のあからさまな紹介から遡っての年月を追っての物語だけに、読む側の追い込まれ感がたまらない。そしてその皮肉な結末への雪崩れ込み方が、まさしくウォルターズ流なのである。
『火口箱』はミステリーでありながら、やはりジャンル外読者向けのサービスに満ちており、とりわけアイリッシュの一家に襲いかかるソウアーブリッジ村という偏見に満ちた小さなコミュニティーの見えない恐ろしさが圧巻である。どこがミステリーなのかわからないうちに、導かれてゆくところに意外な真相が潜んでおり、なるほど、ミステリーとはこういうものでもあるのかと感じさせるようなサービス精神にあふれた書きっぷりである。もちろんこちらも筆力の素晴らしさが見えるウォルターズらしい作品。
二作ともいつもの長篇の重厚感から解き放たれていながら、コンパクトにむしろ密度の高まるクライム小説となっている。中編の一気読みの快感を味わうには手頃な一冊と言えよう。
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2015.10.24読了
養鶏場の殺人と火口箱の二つの中編。二篇とも、日ごろ、小説を読んでいない人向けに書かれたものらしく、読みやすい
養鶏場の殺人
実際にあった事件を書いているとのことで、最後に作者の推理というか、事件に対する考えが書かれている。
物語としては何ということはないが、作者の筆力や構成力によって面白い読み物に仕上げられている。結末は大体、予想出来そうなものだが、どんな展開をするのかと、どんどん読み進めてしまう。
現代であっても、この事件はなかなか真相究明は難しそうだ。
だから、事件の最初の報道は死体損壊遺棄になるんだな。
火口箱
これは最近のミネットウォルターズらしい小説です。
犯人も、ミステリーを読み慣れている読者は最初から斜めに読むので、大体検討がつくが、そうでない読者は惑わされて面白いんじゃないかと思う。
まあ、ひねた読者はもう少し捻りがあってもいいんじゃないかとか、いやらしい見方をしたりするわけですが。
でも、この読む楽しさとか、最近感じられることの多い、集団の偏見や差別意識とか、集団心理における正義とか、ものすごく大事なことがスムースに頭の中に入ってくるので、物語の力を感じさせる作品になっているなあと強く思うのであります。